自分の「テーマ」が見つかる場所。ビジネスパーソンが拓くディープテックの未来

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)外部連携部門 スタートアップ支援室 事業化支援コーディネーター(EIR) 鳥居 千寛氏

日本の世界的な研究成果や先進的な技術シーズを、どのようにして社会課題の解決や事業化へとつなげていくのか。今回は、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)にて事業化支援コーディネーター(EIR)として活躍する鳥居さんにインタビューを行いました。大手商社や事業会社でキャリアを重ねてきた鳥居さんが、なぜ40歳で未経験のディープテック領域へ踏み出したのか。ビジネスパーソンの経験を活かした伴走支援のリアルと、「事業のアイデアがなくても挑戦できる」というEIRの魅力について伺いました。

鳥居 千寛氏

外部連携部門 スタートアップ支援室 事業化支援コーディネーター(EIR)
鳥居 千寛氏

大手商社に入社後、内部統制やグループ経営基盤の構築に従事。その後、複数の事業会社にて海外子会社管理、ファイナンス、事業企画・推進、IPO準備や組織づくりなど企業経営に関わる幅広い領域を経験。2025年より現職。

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
https://www.nims.go.jp/nims/introduction.html

設立
2001年
社員数
101人以上

物質・材料科学の研究に特化した国立研究開発法人です。エネルギーや医療、インフラなど暮らしを支える技術の基盤研究から、成果の社会還元・活用促進までを総合的に展開。地球規模の環境問題解決のカギとなる最先端研究を通じ、「材料で、世界を変える」未来を目指しています。

40歳でのキャリアの振り返り―忘れかけていた「原体験」との再会

スタクラ:

まずは、鳥居さんのこれまでのご経歴と、NIMSへ参画された経緯を教えてください。

鳥居氏:

新卒で大手商社に入社し、その後は事業会社などで、内部統制や子会社管理、ファイナンス、組織づくりなど、企業や事業を支える仕組みづくりに幅広く携わってきました。その後、IPO準備や事業企画へとキャリアの幅を拡げていく中で、次第に「事業を支える側」だけでなく、より直接的に「事業をつくる側」へ挑戦したいと考えるようになりました。そんなタイミングで、スタクラの求人サイトを通じてNIMSの「事業化支援コーディネーター(EIR)」の募集を知り、応募したのがきっかけです。

実は当時、ディープテックの伴走支援やEIRという仕事があること自体、詳しくは知りませんでした。ただ、私自身が理系の大学院出身だったこともあり、「研究成果を世の中に出していく橋渡しがしたい」という昔からの思いと親和性があるのではないかと思い、飛び込んでみました。

スタクラ:

「研究成果を社会へ届ける橋渡しがしたい」という思いは、どこから生まれたのでしょうか?

鳥居氏:

学生時代、特に修士課程まで進んだ際に「研究を続けるか、就職するか」で悩んだ原体験が大きいです。一つのテーマを突き詰める研究の価値を強く実感する一方で、自分自身の好奇心がいろいろな分野へ広がってしまうタイプでもありました。

「専門性を持つ研究者の方々の成果を引き出し、世の中に届ける役割なら、複数の技術を社会に活かせるのではないか」と考えたのが、新卒で商社を選んだ理由でした。

ちょうど40歳を迎えたタイミングで、これまでのキャリアや「子どもに自分の仕事を胸を張って語りたい」という思いを振り返った時に、新卒の頃に抱いていた「研究を外に出していく手助けがしたい」という気持ちをふと思い出し、挑戦を決めました。

鳥居千寛氏

点と点を線につなぐ─NIMSでの伴走支援のリアル

スタクラ:

現在、NIMSではどのようなチーム体制で、どのような支援を行っていますか?

鳥居氏:

現在、スタートアップ支援室は室長以下4名の専任スタッフと、私や同じくEIRとして活動するチームで動いています。シーズ(技術の種)の発掘に関しては、EIRそれぞれが独立して動くスタイルです。

NIMSの研究データベースから「この技術はこういう困りごとに使えるのではないか」と仮説を立て、研究者の方へヒアリングを行います。医療、フードテック、エネルギー、インフラなど、自分の関心や、これまで企業や事業の仕組みに関わってきた経験を組み合わせながら、事業化に向けたロードマップ作りや、企業へのヒアリングなどを一緒に行っています。

スタクラ:

具体的に、どのような研究テーマの支援が進んでいますか?

鳥居氏:

例えば、水中の状態をリアルタイムかつ連続的に測定するセンサーへの応用が期待される、新しい半導体材料とその製造技術のテーマがあります。

研究者が特許と要素技術を持っている段階から事業化の検討を開始し、「この技術はどのような現場の課題を解決できるのか」という用途仮説を立てながら、私自身で企業へのヒアリングを重ねました。その中で将来の顧客となり得る企業から非常に良い反応をいただきました。実際のニーズや具体的な活用可能性が見えてきたことから、研究者と一緒にビジネスプランを描き、事業化に向けた検討を進めています。

現在は、実際の現場で製品を使ってもらう「実装先」を開拓し、現場データやフィードバックを得ながら、将来の事業化に向けた実証実験を年度内のスピード感で進めています。

このほかにも、コンクリート内部の劣化状況を壊さずに測定するインフラ向け技術や、メタンガスから水素を取り出す触媒技術など、社会課題に直結する複数テーマの伴走を行っています。

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)HPより(https://www.nims.go.jp/nims/introduction.html)

1つの研究にとどまらない─ディープテック支援ならではの面白さ

スタクラ:

実際に伴走されてみて、ディープテック支援の面白さはどこにありますか?

鳥居氏:

研究者の方はご自身のテーマにおいて非常に高い専門性を持っていらっしゃいますが、僕たち支援側が間に入ることで、客観的な視点から「点と点を線につなぐ」ことができるのがディープテック伴走の面白さです。

例えば、最初は「これまで取得できなかった現場のデータを取得するセンサー」という具体的なアプローチからスタートしたテーマも、研究者の方と対話を重ねたりヒアリングを進めたりするうちに、「資源循環に寄与する」という大きな社会課題への道筋が見えてきました。

最初は限られた範囲に見えていた技術が、社会の大きなテーマとつながり、一緒に課題解決のストーリーを描いていける。そのプロセスを研究者の方と共有し、お互いにやりがいを感じられることが、この仕事の一番の喜びですね。

起業経験がなくても活躍できる─「ビジネスパーソン」だからこその強み

スタクラ:

「起業経験」がなくても、ディープテックの事業化支援で価値を発揮できるのでしょうか?

鳥居氏:

十分に活躍できると感じています。起業経験がある方はもちろん強いですが、私のような「会社員としてのキャリア」だからこそ活かせる強みもあります。

私の場合、商社や事業会社で、内部統制や子会社管理、ファイナンス、組織づくりなど様々な立場で事業の仕組みに関わってきました。そこで培ったのは、「この事業はどういう構造で成り立っているのか」「現場では何が課題になっているのか」を整理し、構造的に捉える力だったと思います。その経験から、研究者の技術を見たときに、「この技術なら、あの業界のこの課題を解決できるのではないか」と仮説を立てて接点を探ることができます。

これは企業でさまざまな課題に向き合ってきたビジネスパーソンだからこそ持てる視点だと思います。自分がこれまで仕事の中で感じてきた課題と研究室にある技術が結びつき、「この技術なら、あの課題を解決できるかもしれない」と気づけるチャンスがたくさんあるはずです。

スタクラ:

研究者の方とのコミュニケーションで意識していることはありますか?

鳥居氏:

最初に「なぜ研究者になられたのか」「なぜ事業化したいのか」という背景や思いをしっかりお伺いし、お互いの価値観を共有することを大切にしています。

専門的な技術知識は後から勉強できますし、分からないことは素直に伺えば丁寧に教えていただけます。大切なのは「世の中の役に立ちたい」という根本の思いを共有し、研究者の方のスタンスを尊重しながら、ビジネスとして客観的な市場ニーズとのバランスを丁寧に取っていくことです。

鳥居千寛氏

確かなアイデアがない人にこそ飛び込んでほしい─「テーマ」が見つかるEIRという道

スタクラ:

どのような人がディープテックの事業化(EIR)に向いていると思いますか?

鳥居氏:

起業経験のある方はもちろんですが、これまで企業で活躍されてきたビジネスパーソンの方々にこそ、ぜひディープテックの事業化に挑戦してほしいと思っています。

ビジネスパーソンの中には、「いつか起業したいけれど事業のネタが見つからない」「自分が本当に取り組みたい社会課題がまだ分からない」と感じている方も多いのではないでしょうか。

私自身もそうで、最初から明確な課題意識や実現したいテーマがあったわけではなく、「何か社会の役に立つ仕事がしたい」という漠然とした思いでこの世界に飛び込みました。

しかし、多くの研究者と出会い、技術や研究に込められた思いに触れ、さまざまな社会課題と向き合う中で、自分自身が本当に興味を持てるテーマや「この技術を社会に届けたい」という強い思いが少しずつ育っていきました。

ディープテックの魅力は、技術だけではなく、自分自身の「挑戦したいテーマ」まで見つけられることだと思います。

普段から多くの課題を発見し、解決し続けているビジネスパーソンだからこそ、研究者とは異なる視点を持ち寄りながら技術の価値を引き出し、社会実装を前に進めることができます。まだ自分には事業のアイデアがないと迷っている方にこそ、一歩踏み出してみてほしいですね。

スタクラ:

最後に、応募を検討している読者へメッセージをお願いします。

鳥居氏:

NIMSをはじめとする研究機関には、素晴らしい研究と技術シーズがたくさん眠っています。こうした環境に触れるだけでも、自分の知見や視野が一気に広がります。

現在、国や機関全体でスタートアップ支援の環境や資金面でのサポートが非常に手厚く整ってきており、以前よりも参画しやすい状況になっています。

これまでのビジネス経験を活かしながら、社会への貢献を実感して働ける環境はとても魅力的です。私自身、この仕事に挑戦して本当に良かったと思っています。ぜひ不安がらずに、この面白いディープテックの世界へ一歩を踏み出してみてほしいですね。

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
https://www.nims.go.jp/nims/introduction.html

設立
2001年
社員数
101人以上

物質・材料科学の研究に特化した国立研究開発法人です。エネルギーや医療、インフラなど暮らしを支える技術の基盤研究から、成果の社会還元・活用促進までを総合的に展開。地球規模の環境問題解決のカギとなる最先端研究を通じ、「材料で、世界を変える」未来を目指しています。

この記事を書いた人

佐藤 鮎美

佐藤 鮎美

【所属】株式会社スタートアップクラス 事業推進部 【経歴】大学卒業後、リクルート広告代理店に入社。その後、(株)リクルートホールディングスにてバックオフィス業務全般を行い、(株)ジュリスティックスでは人材紹介を含むアシスタント業務を行う。2022年4月よりスタートアップクラスへ参画。 【スタートアップへの思い】 志をもった素晴らしいスタートアップがあることを知ってもらい、良い出会いからスタートアップの事業成長に繋がれば嬉しいです!