向いているのは「暗闇にジャンプできる人」。小林 英輔氏・小林 靖氏が語るサーチファンドの現場【後編】

一般社団法人日本サーチファンド協会代表理事 小林 英輔氏・小林 靖氏

今回お話を伺ったのは、一般社団法人日本サーチファンド協会 代表理事の小林 英輔氏と小林 靖氏です。サーチファンドとは、経営者を志す人が投資家から資金を集め、後継者のいない中小企業を探して(サーチして)引き継ぎ、自ら経営する起業の形です。

前後編の後編では、英輔さんが承継2日目に倉庫へ乗り込んだ話から、サーチャーの毎日、向いている人、家族への説明まで、当事者の本音をお届けします。

小林 英輔氏・小林 靖氏

代表理事
小林 英輔氏・小林 靖氏

<小林 英輔氏>
2013年に東京大学文学部を卒業し、三井物産に入社。金属鉱山の海外投資を担当したのち、四国の高松で、愛媛・宇和島の地場企業とブリの養殖加工販売の合弁会社を立ち上げる。2022年にスペインのIE Business Schoolに入学し、在学中にサーチ資金を集める。帰国後、同期の洲崎瑞治氏とジャパンブルズアイキャピタル合同会社を設立。約1年半のサーチを経て、2025年4月にジグソーパズルの会社、株式会社ゲートウェイアーチを承継した。

<小林 靖氏>
早稲田大学商学部を卒業後、豊田通商に入社し10年強在籍。エクアドルとキューバに5年強駐在し、日本の中小企業や大企業の製品を売り歩く。キューバでは自ら手を挙げて現地法人を立ち上げ、人生で初めて社長を務めた。スペインのIESE Business SchoolでMBAを取得したのち、2024年にジャパン・リレー・パートナーズ合同会社を創業。いまは承継する会社を探すサーチの最中で、年内の承継を目指している。

一般社団法人日本サーチファンド協会

一般社団法人日本サーチファンド協会
https://searchfund.jp/

設立
2025年4月

<役員>
代表理事2名・理事4名

<事業内容>
サーチファンド起業家がつながり、学び合える場づくり、サーチファンドの正しい知識の発信と啓蒙、国内外の事例の分析・研究と知見の共有に取り組む。

<主な実績>
・会員数(2026年10月26日時点)104社/名(うちサーチファンド起業家(候補含む)72名)と日本最大のサーチファンドコミュニティに成長
・主なイベント:早稲田大学と共催で日本最大級のサーチファンドイベント「サーチファンドカンファレンス」を主催(経済産業省後援)、その他1年強でイベント150回以上開催
・主な講演実績:全国地域金融機関、早稲田大学、京都大学、関西学院大学、INSEAD、香港工科大学等にて講演実施
・メディア:2026年1月に日本経済新聞にて特集

前編をまだご覧になっていない方はこちら

承継2日目に、自ら倉庫へ乗り込んだ

スタクラ:

英輔さんは今、株式会社ゲートウェイアーチというジグソーパズルの会社を経営されていますが、同社を継承されてから最初の90日は、どんなことがありましたか?

英輔さん:

少し特殊なケースなんですが、弊社は従業員が極めて少ないので、承継前にすべてのメンバーと会っていたんです。ある意味、静かなDay1でした。

一方で、承継2日目に不良品が出たんです。承継前のタイミングで仕込んでいた商品を納品したら、それが不良品だった。私自ら倉庫に乗り込んで、1日かけて梱包の修正作業をしました。

ただ、結果的には良かったと思っています。取引先との関係がメインの会社なので、先方からすると、玩具業界とはまったく関係のないキャリアの人が承継する。この人は大丈夫かなと、少なからず思われていたはずです。自ら現場に行って汗をかいたことで、「ちゃんと動いてくれる人なんだな」と認識していただけました。

実際、クライアントもサプライヤーさんも同じことを思っていたみたいで。半年ぐらいして打ち解けてきたタイミングで、「すごいキャリアの人が来るから、どんなサイボーグかと思いました」と言われたんです。冗談ですけどね。

倉庫で梱包の作業をする小林英輔氏

既存の商流には、一切手をつけない

スタクラ:

前オーナーの想いを継ぐなかで、何を変えて、何を変えなかったのでしょうか?

英輔さん:

変えないと決めたことが1つ明確にあって、既存の商流には一切手をつけないことです。主に2社と取引をしていて、その2社で扱っているキャラクター商品は、ほかの取引先が現れても、引き続きお任せします。そうしたことで、この人たちになってもこれまでのビジネスが大きく変わることはないんだな、という安心感のもとでスタートできました。

変えたところは、基本的にはそれ以外の全部です。弊社は人数が少ないので、説明のコストが非常に低かった。そういう意味では、スタートアップ的なんです。Day1から、すべて紙でやっていた請求書の支払いをPDFに変えたりと、小さなところから変えていきました。

1年ほど経ったいまでは、システムを入れてIT化も進み、新しい商品や商流にもかなり取り組みました。いまは、承継前からいた人の人数より、承継後に来た人の人数のほうが多いんです。ある意味、ジグソーパズルベンチャーみたいな会社になっています。

ほとんどすべてのスキルは、通用しなかった

スタクラ:

英輔さんが前職の商社で身に付けてきたスキル・経験で、通用したこと、通用しなかったことは?

英輔さん:

ほとんどすべてのスキルは、通用しなかったですね。物を買って売るという基本は、前職の経験である程度カバーできます。ただ、玩具業界の常識も、企画のしかたも、色を印刷して確かめる校正も、まったく知らない状態からのスタートでした。デザイナーの方に教えていただきながら、ときには取引先に怒られながら学んでいきました。

1つ上のレイヤーで見ると、総合商社で金属をやって、ブリをやって、まったく違う商品を扱ってきた経験は生きています。自分は何も知らないんだというところからスタートして、学ぶ姿勢でキャッチアップする。これがアンラーン(これまでの知識ややり方をいったん手放して、学び直すこと)ということなのかなと、勝手に思っています。

使える手は、全部使う

スタクラ:

いま、企業サーチ真っ只中の靖さんに伺います。サーチャーは、日々どのように過ごされているのでしょうか?

靖さん:

もうひたすら、中小企業にアプローチする。この一点に尽きます。どうやって出会うかなんですよね。

定番だと、M&A仲介業者と組んで案件を紹介していただく。それ以外だと、私はあの手この手で、チャネルをつくることに汗をかいています。

地方銀行を回ったり、生命保険の代理店と組んだり、リストを何千社とつくって、ひたすらアポを取ったり。使える手は全部使う、という感じです。結構泥臭いですよ。

地銀も、個人で行って「案件を紹介してください」と言っても、相手にしてくれないんですよ。そこで、「小林です」と言うより、「サーチファンド協会ですが、ちょっと勉強会をさせてもらえませんか」とアプローチすると、途端に相手をしてくれるようになるんです。そういった勉強会をきっかけに地銀さんから様々な素晴らしい案件をご紹介いただいたことも何度もあります。

スタクラ:

会社を探している間は、個人会社で会社の看板もなく、何者でもない状態です。その孤独や苦しみは、どう乗り越えているのですか?

靖さん:

孤独で苦しいのは事実なんですけど、動くことでしか解消できないんですよね。いろんな会社のオーナーと会って、意気投合して、最終的に1社を承継する。このファネルでいうと、いちばん上の打席数をいかに最大化するかが、いちばん分かりやすいKPIなんです。もちろん悶々とすることもありますが、打席数を稼ぎ続ければ絶対に次につながると信じて、やっています。

スタクラ:

「この会社だ」と思う判断基準は何でしょうか?

靖さん:

まずは、自分が商社で培ってきたバックグラウンドから見た得意領域です。私の場合、中堅中小企業の海外展開をやりたいというテーマがあるので、それがはまりそうな会社を探してきました。もう1つは、その市場が成長しているかどうか。あともう1つは理想ですが、いわゆるニッチでもよいので確固たるポジショニングを築くことが出来ているニッチトップ系の会社ですね。実際にサーチ活動をして感じるのですが、探しはじめると、日本には周りに気づかれていない素晴らしい中堅中小企業が存在します。そういう企業との出会いは本当にワクワクしますし、自分自身アドレナリンが出るのを感じます。

講演する小林靖氏

向いているのは、暗闇にジャンプできる人

スタクラ:

年齢や職歴も含めて、サーチャーにはどんな人が向いているのでしょうか?

英輔さん:

究極の質問ですね。個人的には、年齢や経験年数はあまり関係ないと思っています。本人の持つ資質が、いちばん重要です。

1つは、行動が先に来る人がいいと思っています。オーナーにアポを取るときも、不安だらけなんですよ。そもそも受付で、ノーと言われることばかりです。それでも行動量が落ちない人は、向いていると思います。

もう1つは、自分で課題を設定して、そこに向かって動ける人です。みんながやっていないけどできそうだからやってみよう、とアクションをかけられる人。こういう人は、絶対うまくいくだろうなという感じがします。

靖さん:

自分のいまの実力を度外視して飛び込める人が、向いていると思っています。よくある議論で、海外に行くなら、英語の文法を勉強してある程度できるようになってからはじめて行く人と、今は英語はろくに話せないけど、最初から海外に飛び込んでどうにかする人がいますよね。どちらも正解なんですけど、どちらかというと後者。先に飛び込んで、どうにか帳尻を合わせる人が向いています。

サーチファンドは、プロセスでいうと、高度なことをやっているんです。大企業の看板やブランドも一切使えない状態で、何者でもない自分で勝負し、外部から資金調達をして、オーナーを口説いて、最終的には買ったあとに自分自身が経営陣として経営もする。全部できますという人は、ほとんどいません。

だから、「僕はこういう経験がないから向いていない」と考えてしまう人は、あまり向いていないのかもしれません。暗闇にジャンプできる、そういうマインドセットが大事です。

小林英輔氏と小林靖氏
日本サーチファンド協会 代表理事の小林 英輔氏(左)と小林 靖氏(右)

買収できなくても、空白のキャリアにはならない

スタクラ:

1年半から2年の間で企業サーチ、継承まで勝負するわけですよね。もし企業が見つからなかったり、継承できなかった場合は、どうなるのでしょうか?

英輔さん:

海外では、3割から4割程度の人は承継できずにクローズしています。ただ、最大2年間という期間が決まっているからこそ、ダメだったら切り替えて、元のキャリアに戻れる。

そこに残るのは、投資家を説得して資金を調達して、そこまではやったという実績です。あるプロジェクトに全力で取り組んで、結果がダメでしたという結論が出るだけなので、空白のキャリアにはなりえません。

靖さん:

私も同じです。これから買収する立場ですけど、このプロセスを通じて、ビジネスの戦闘能力が圧倒的に上がった感覚があります。会社の看板がない中で、人を巻き込んで、お金を集めて、オーナーを口説いてというのをやっているので、商社にいたころと比べても別の自分になっている気がします。

ちなみに日本のトラディショナル型で、買収できずにサーチ期間を終えた人は、まだいません。順番的にいうと、次は私が承継しないといけないですね。

スタクラ:

サーチャーの方はそのサーチ活動について家族には、どのように説明しているのでしょうか?

英輔さん:

これは確かに、重要なポイントです。サーチをしている人は、お子さんがいる方がたくさんいます。サーチ期間中も一定の収入があることなどを説明して、家族の理解を得ている人が多いですね。

私の身近にも、サーチ中に子どもが生まれた人がいるんですけど、会社勤めだとできないような動きもできるので、結果として、より子どもの面倒を見られているところもあります。責任はありますけど、時間の使い方は自由ですから。

ただ、ここは1つの難関で、家族の理解を得られずに、別のキャリアを選んだという方も、何人かいらっしゃいました。

サーチファンドに、私自身も救われた

スタクラ:

なぜお二人は、一般社団法人日本サーチファンド協会を立ち上げたのでしょうか?

靖さん:

1社を買って大きくするのは、もちろん大事ですし、やっていくんですけど、それだけで終わってしまうと、社会へのインパクトはあまりないと思ったんです。同時並行で、同じような志を持った人が集まって力を合わせながらたくさん立ち上げていったほうが、日本や社会に対して与えられるインパクトの総量は絶対に大きい。協会をつくって仲間を増やしていくことが、日本を元気にすることにつながると思いました。

英輔さん:

私たちが興味を持ったときは、国内に情報が集まっているわけでもなく、何もなかったんです。日本でサーチファンドをやりたい、ちょっと話を聞きたいというときに、とりあえず連絡するところがなかったので、それをつくる意義は大きいと思いました。

靖さん:

あと、サーチファンドという仕組みには、私自身も救われた部分があるんです。大企業に勤めていたころ、起業家に強い憧れがあったんですが、当時、自分が独立するときの選択肢は、ゼロイチしかなかったと思うんです。テーマやビジネスモデルを考え始めると、「いや、これ、わざわざ会社を辞めてまでやることかな」となって、結局一歩踏み出せない自分がいました。

そのときに、1を10にする起業があると知って、これなら自分にもできると思ったんです。同時に、私みたいな人は多いと思っていて。ゼロイチより1→10のほうが向いている人に知ってもらえれば、人生をより豊かにできる選択肢になると考えていますし、自分自身も挑戦をしてこの新しいキャリアの成功例になりたいと思っています。

誰かが最初に行かないといけない

スタクラ:

5年後(2031年)、日本のサーチファンドはどうなっていると思いますか?

英輔さん:

数自体は、いまよりも増えていると思います。5年経つと、イグジットのケースもちょこちょこ出てくる。そうすると、いまよりも優秀な人がサーチャーを目指すようになります。

ただ、日本はまだ黎明期の範疇なので、どんな人にでもチャンスがあります。5年後を待たずに来てほしいですね。

目指す姿でいうと、事業承継の選択肢の1つになりたいと思っています。個人対個人という意味では、親子承継の代わりの選択肢です。そう認めてもらえるように、一人一人が実績をつくっている段階です。

靖さん:

私は願望も含めてですが、1を10にする起業を、ある種のビジネスカルチャーにしていきたいと思っています。そのために何が必要かというと、圧倒的な成功例です。それが5年以内に、まず出てほしい。

出始めると、一気に優秀な人が集まって、いい循環になるんです。私たちは最初に動いた人間なので、自分たちが成功例になることに全力を注ぎたいと思っています。野茂英雄のように、誰かが最初に行かないといけないので。

スタクラ:

現時点で、日本にはどんな成功例があるのでしょうか?

英輔さん:

イグジットの例としては、サーチファンド・ジャパンのサーチャーだった大富涼さんの1件くらいしか、目立ったものはないんです。大富さんは、承継したアレスカンパニー(事業内容:アミューズメント施設の景品の企画販売等)をGENDAに売却したあとも、しばらく社長を続けた後、GENDAグループで欧州事業の責任者を務めました。

日本の場合は、そのままMBO(経営陣が自社の株式を買い取ること)でオーナーになることを志向しているパターンもあるんですよ。華々しい成功というより、静かに成功していくパターンもある。成功の定義は多様だと思います。

スタクラ:

最後に、この記事を通じてサーチファンドに興味を持った方へ、最初の一歩、どうすればよいのか教えてください。

英輔さん:

いきなり話を聞くのはちょっと、という人でも、協会のホームページには、サーチファンドの基本的な説明がひと通り書いてあります。それを見て具体的な疑問を持ったら、メールフォームからいつでも質問していただいていいですし、会いたいとなったら、理事やメンバーのサーチャーに会うこともできます。駆け込み寺、というのは言い方がおかしいですね。とりあえずファーストコンタクトをする場所として機能したいと思っているので、ご連絡いただければと思います。

スタクラ:

本記事を読んでサーチファンドに少しでも興味を持った方、ぜひ日本サーチファンド協会に連絡してみてください。あなたの人生に新しい可能性が見つかるかもしれません。

スタクラ:

スタクラは英輔さん、靖さんのビジョンに共感してサーチファンド協会の賛助会員になりました。日本のサーチファンド業界のこれからの発展に貢献していきたいと思います。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

協会のサイト:https://searchfund.jp/

編集後記

お二人の話を間近で聞いていて、いちばん心に残ったのは、靖さんの「わざわざ会社を辞めてまでやることかな」という言葉でした。起業に憧れながら、テーマが見つからずに一歩を踏み出せなかった。その同じ人が、会社の看板もない中で投資家を120社ほど回り、いまは全国の中小企業を訪ね歩いています。

英輔さんが経営者として最初にぶつかったのも、承継2日目の不良品でした。経営者になると聞くと華やかに思えますが、お二人の話に出てくるのは、ノーと言われ続ける受付や、梱包を直す1日や、「どんなサイボーグかと思いました」と打ち明けてくれた取引先の顔です。

ゼロから起こしたい事業はないけれど、経営はやってみたい。そう思ったことがある方は、まずサーチファンド協会のホームページをのぞいてみてください。すでにある会社を継いで伸ばす道は、思っているより近くにあるのかもしれません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

小林英輔氏・小林靖氏とスタクラのメンバー
一般社団法人日本サーチファンド協会

一般社団法人日本サーチファンド協会
https://searchfund.jp/

設立
2025年4月

<役員>
代表理事2名・理事4名

<事業内容>
サーチファンド起業家がつながり、学び合える場づくり、サーチファンドの正しい知識の発信と啓蒙、国内外の事例の分析・研究と知見の共有に取り組む。

<主な実績>
・会員数(2026年10月26日時点)104社/名(うちサーチファンド起業家(候補含む)72名)と日本最大のサーチファンドコミュニティに成長
・主なイベント:早稲田大学と共催で日本最大級のサーチファンドイベント「サーチファンドカンファレンス」を主催(経済産業省後援)、その他1年強でイベント150回以上開催
・主な講演実績:全国地域金融機関、早稲田大学、京都大学、関西学院大学、INSEAD、香港工科大学等にて講演実施
・メディア:2026年1月に日本経済新聞にて特集

この記事を書いた人

スタクラ編集部

スタクラ編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」スタクラの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。