「確かな技術」を社会へ。なぜ今、ディープテックの事業化支援が面白いのか

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)外部連携部門 スタートアップ支援室 事業化支援コーディネーター(EIR) 中島 大氏

世界トップクラスの技術力を誇りながらも、事業化や社会実装へのハードルが高いとされる日本の「ディープテック」分野。研究室に眠る技術の種(シーズ)を、どのようにして社会とつなげていくのか。今回は、物質・材料研究機構(NIMS)で事業化支援コーディネーター(EIR:客員起業家)として活躍する中島さんにインタビューを行いました。ITスタートアップの経営で数々の厳しい局面を潜り抜けてきた中島さん。ご自身のキャリアをもとに、ディープテック領域に挑む熱量やリアリティ、そして研究者と事業を進める面白さを語っていただきました。

中島 大氏

外部連携部門 スタートアップ支援室 事業化支援コーディネーター(EIR)
中島 大氏

慶應義塾大学理工学部機械工学科を2004年3月卒業後、ベンチャー企業を中心に3社で法人営業や新規サービス立ち上げを経験。2011年からの受託事業会社・スタートアップの2社起業、他社取締役といった経営・事業レイヤー経験を活かすべく、NIMSにEIRとして参画。

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
https://www.nims.go.jp/nims/introduction.html

設立
2001年
社員数
101人以上

物質・材料科学の研究に特化した国立研究開発法人です。エネルギーや医療、インフラなど暮らしを支える技術の基盤研究から、成果の社会還元・活用促進までを総合的に展開。地球規模の環境問題解決のカギとなる最先端研究を通じ、「材料で、世界を変える」未来を目指しています。

スタートアップ経営の先で見つけた、「技術を社会に届ける」という挑戦

スタクラ:

まずは、中島さんのご経歴と、NIMSでの役割を教えてください。

中島氏:

大学卒業後に数社で経験を積み、自ら2つの会社を起業したほか、他社の役員なども務めてきました。1社目は受託事業、2社目は外部から資金調達を行いスタートアップとして走ってきたので、経営のハードシングスも経験しましたね。最終的に株主の事業会社へ全従業員の転籍でひと区切りがついたタイミングで、次を考え始めたんです。

もともと「研究機関の技術を使って事業を作れたら面白いだろうな」とVCなどのEIR(客員起業家)制度に関心を持っていたこともあり、NIMSの「事業化支援コーディネーター」の募集を見つけた瞬間、「これだ!」と直感して応募しました。

現在は、研究者が持つ優れた技術シーズの中から「市場で大きな価値を生めるテーマ」を発掘し、アクセラレータープログラムへの挑戦や企業との実証実験(PoC)に向けた伴走支援を行っています。

スタクラ:

理系のバックグラウンドをお持ちですが、研究者の「事業化を支援する」側を選ばれたのはなぜですか?

中島氏:

研究室の技術が社会に大きなインパクトを与える構造には、シンプルに夢がありますよね。自身が基礎研究を行うのではなく、彼らの研究成果を「社会実装」として届ける架け橋になる。これこそが、今までの自身の経験を最も活かせる職種だと考えました。

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)HPより
国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)HPより(https://www.nims.go.jp/nims/introduction.html

IT事業との決定的な違い―ディープテックには最初から「圧倒的な参入障壁」がある

スタクラ:

実際に飛び込んでみて、他の事業領域と比べたディープテックの面白さはどこにありますか?

中島氏:

僕が長く身を置いていたITやWebサービスの世界だと、正直なところ技術そのものは競合に対する障壁になりにくいと感じています。どれだけ素晴らしいアイデアやサービスを出しても、資本力のある競合に一瞬で真似されたり、結局は参入タイミングやマーケティング勝負になる部分もあるのではないかと。

でもディープテックはまったく違う。研究者が何年も、時には何十年もかけて積み上げてきた基礎研究そのものが、最初から誰にも真似できない「圧倒的な参入障壁」になっている。この重みが決定的に面白いところですね。

スタクラ:

現在支援されているテーマで、「これは世界を変えるかもしれない」と手応えを感じた瞬間はありますか?

中島氏:

いま一番コミットしているのが、「ニューロモルフィック(脳型)デバイス」を応用した、次世代のエッジAI技術を研究しているチームです。

いま世界的な波に加えて、日本でも「フィジカルAI」や「エッジAI」は国策として本格的に注力されている領域ですよね。 でも、クラウドAIの電力消費や通信のズレ、既存エッジAIの限界といった課題が出てきます。AIの課題自体は気づけますが、それを本当に解決できる「デバイスやハードウェアの裏付け」を持っているチームは、世界を見渡してもほぼいないんです。

もちろん最初から技術を理解できていたわけではありません。必死に市場の波や技術構造を勉強し、「どこにビジネスの勝機があるのか」を探り続けました。 その結果、「国が大きな投資を進めるフィジカルAIのど真ん中に合致するぞ 」とつながったんですよね。

ベンチャーキャピタルが運営するアクセラレータープログラムに採択された瞬間は、「この技術で世界を狙いに行けるかもしれない」という手応えを感じました。

中島さんが支援中の「ニューロモルフィクス」のメンバーと
中島さんが支援中の「ニューロモルフィクス」のメンバーと

研究者と市場をシームレスにつなぐ―「翻訳役」として伴走する醍醐味

スタクラ:

研究者と市場・ビジネスをつなぐ仕事の具体的な面白さはどこにありますか?

中島氏:

研究者と市場の間に立ち、お互いの言葉やロジックを「翻訳」することです。

日本の研究力や技術力は、世界的に見てもトップクラスだと実感しています。ただ、残念ながら上手く社会に届かず、宝の持ち腐れになっているケースも多いんです。一方でビジネス側に目を向けると、「世界的にこういう課題があって、ここにチャンスがある」という明確な流れがあります。

研究者自身もまだ気づいていない市場のニーズと、彼らが持つ技術をうまくつなぎ合わせて、「この技術はまさに今、こういう形で世の中に出すべき」とロジックを持って提案する。そうやって研究と市場の「翻訳役」として橋渡しができたときが、この仕事をしていて一番面白い瞬間ですね。

市場の見極めとカルチャーの壁―研究者とチームを作る3つの心得

スタクラ:

逆に、ディープテックの支援で大変なことや、難しさを感じる部分はどこですか?

中島氏:

大きく2つあって、1つ目は「技術の魅力を活かせる市場の見極め」、2つ目は「研究者の方々との丁寧なチームづくり」です。

Web系であれば市場に合わせて柔軟にピボットできますが、ディープテック領域では研究者が情熱を注いできた「技術シーズ」そのものが起点となります。だからこそ、その素晴らしい技術が「どのような市場で最大のインパクトを発揮できるのか」、あるいは「スタートアップとしてスケールさせやすい領域なのか」を客観的に見極める難しさがあります。

また、背景となるカルチャーの違いも重要です。僕ら民間企業で生きてきた人間は「売上や利益」といった経済的な指標を前提にしがちですが、アカデミアで研究に取り組む方々は「純粋な知的好奇心」や「学術的な価値」といった、全く異なる高い志や力学で動いています。そのため、最初はビジネス側との考え方の違いに戸惑う場面もあるかもしれません。

スタクラ:

カルチャーの違う研究者と信頼関係を築くために意識していることはありますか?

中島氏:

僕が意識しているのはこの3つです。

  • 知ったかぶりをしない:専門外の技術で分かったフリをしたら一発で信頼を失う。「分からない」と素直に伝える。
  • インプットは本気でやる:分からないなりに背景や市場を全力でリサーチし、理解しようとする姿勢を見せて打ち合わせに臨む。
  • 研究者とは対等なパートナーとして接する:相手は技術のプロ、自分はビジネスのプロ。リスペクトはしつつも横並びで肩を組む。

研究者の方々は「餅は餅屋」という意識が強いので、お互いの専門性をリスペクトし合える関係性をいかに作れるか。結局はそこにつきますね。

起業未経験でも挑める―確かな技術を背負って世界を目指すEIR

スタクラ:

どのような人がディープテックの事業化支援(EIR)に向いていると思いますか?

中島氏:

一番は、未知の技術や研究に対して、好奇心を持って面白がれる人ですね。最初は専門用語だらけで何を言っているかわからない時もありますが、むしろわからないことに「面白そう!」と能動的に飛び込める情熱のある人が向いています。

向き・不向きで言えば、事業を形にしていくプロセスを楽しめる人に向いていると思います。もちろん起業や事業立ち上げの経験があればその感覚は活きますが、決してそれが必須というわけではありません。大企業での事業開発や新規事業の現場にいた方でも、「当事者意識を持って泥臭くプロジェクトを動かすマインド」があれば十分に活躍できると感じています。

スタクラ:

最後に、「面白そうだけどハードルが高そう」と感じている読者へメッセージをお願いします。

中島氏:

ゼロから起業しようとすると、「そもそも何をやるか」という事業の種を探すだけでも相当なエネルギーを使いますよね。しかも今の時代、せっかく作ったサービスもトレンドの変化で一瞬で形骸化するリスクがあるとも思っています。

でも、NIMSのような研究機関には、世界トップクラスの材料科学分野で、優秀な研究者が何年もかけて磨き上げた「真似できない技術の種(シーズ)」が最初から揃っています。

ゼロからアイデアを捻り出すんじゃなく、そうした「長年磨かれた確かな技術」を最強の武器として背負った状態で事業を組み立てられる。これは起業家や事業開発の人間からしたら、すごく恵まれているし、最高に刺激的な環境です。ハードルが高いと足踏みしないで、ぜひこの熱いディープテックの世界に飛び込んできてほしいですね!

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
https://www.nims.go.jp/nims/introduction.html

設立
2001年
社員数
101人以上

物質・材料科学の研究に特化した国立研究開発法人です。エネルギーや医療、インフラなど暮らしを支える技術の基盤研究から、成果の社会還元・活用促進までを総合的に展開。地球規模の環境問題解決のカギとなる最先端研究を通じ、「材料で、世界を変える」未来を目指しています。

この記事を書いた人

佐藤 鮎美

佐藤 鮎美

【所属】株式会社スタートアップクラス 事業推進部 【経歴】大学卒業後、リクルート広告代理店に入社。その後、(株)リクルートホールディングスにてバックオフィス業務全般を行い、(株)ジュリスティックスでは人材紹介を含むアシスタント業務を行う。2022年4月よりスタートアップクラスへ参画。 【スタートアップへの思い】 志をもった素晴らしいスタートアップがあることを知ってもらい、良い出会いからスタートアップの事業成長に繋がれば嬉しいです!