「スタートアップ」と聞くと、多くの人はゼロから事業を立ち上げる起業家を思い浮かべるでしょう。一方で、いま全国各地で静かに注目を集めているのが「アトツギベンチャー」という存在です。
100年続く企業を受け継ぎながら、新しい事業を生み出し、地域にイノベーションを起こす。その挑戦は、スタートアップとは異なる難しさがある一方で、地方だからこそ実現できる可能性も秘めています。
なぜ今、アトツギベンチャーなのか?
そして、スタートアップや都市部で働くビジネスパーソンにとって、アトツギベンチャーでのキャリアはどんな可能性があるのでしょうか。
代表理事
山野 千枝氏
1969年生まれ、岡山県出身。関西学院大学卒業後、ベンチャー企業、コンサルティング会社を経て、大阪市経済戦略局の中小企業支援拠点「大阪産業創造館」の創業メンバーとして2000年より参画。ビジネス情報誌「Bplatz」の編集長として多くの経営者取材に携わる中、ファミリービジネスの経済合理性に着目し、同族企業の承継予定者に特化した新規事業開発を支援する「一般社団法人ベンチャー型事業承継」を設立、代表理事に就任する。オンラインサロン「アトツギU34」主宰。社史制作や企業のブランディングを手がける株式会社千年治商店 代表取締役。関西大学「アトツギベンチャーゼミ」非常勤講師。日本経済新聞「日経ウーマンオブザイヤー2020」受賞。
一般社団法人ベンチャー型事業承継
https://take-over.jp/
Mission
「アトツギベンチャー」を日本の新たなビジネスカルチャーに
アトツギベンチャーのニュースが毎日のように流れ、アトツギベンチャーで働きたい若者が町にあふれ、アトツギベンチャーを志す若者の熱狂が町中に伝播している。
存続にコミットする彼らが生み出すサービスや技術で、世の中はもっとカラフルになり、しぶとくしなやかに生き残る会社がどんどん増え、日本はもっと豊かになっている。
アトツギが胸を張って地元に戻り、胸を張って家業を継ぎ、胸を張って新しい挑戦を続ける。
わたしたちはそんな世界を実現します。
- 目次 -
地方に残された最後のポテンシャル。それがアトツギベンチャー
山野さんがアトツギベンチャーの支援に取り組まれている理由を教えてください。
一言で言うと、「地方に残された最後のポテンシャル」だと思っているからです。
私は以前、大阪市でスタートアップ支援に携わっていました。資金調達の機会づくりなどを行っていましたが、成長したスタートアップの多くは、最終的に東京へ拠点を移していきます。
でも地方からすると、「せっかく育てても、最後は東京へ行ってしまう」という構図になってしまう。地方が持続的に発展するためには、別の可能性が必要だと考えるようになりました。
その後、ビジネス誌の編集長として全国の中小企業を取材する中で、特に印象的だったのがアトツギ経営者(以下アトツギ)たちでした。
アトツギは社員や取引先、地域との関係を受け継ぎながら、「会社を次の世代へつなぐ」という使命を背負っています。「自分の代で会社を潰すわけにはいかない」という言葉を、本気で語る経営者が本当に多いんです。
その姿を見て、「地方の未来をつくるのは、この人たちなんじゃないか」と思うようになりました。
一方で、「アトツギ」という言葉には、まだ古くて地味なイメージがあります。でも実際には、新規事業を立ち上げたり、新しい技術に挑戦したりしているのは、承継前後の若い世代であることが少なくありません。だから私は、そのイメージを変えたいと思っています。
ゼロから会社をつくるスタートアップだけでなく、受け継いだ会社を未来へ進化させる。挑戦的で魅力的なキャリアなんだということを、もっと多くの人に知ってもらいたいですね。
制約があるからこそ、イノベーションが生まれる
山野さんご自身の原体験も、今の活動につながっているのでしょうか?
実は実家もファミリービジネス。弟が4代目を継いでいます。
長く続いている会社には素晴らしいところがあります。でも一方で、長く続いているからこそのしがらみや、面倒くささもありました。
だから若い頃は、「こういう世界から距離を置きたい」と思っていました。その結果、スタートアップの世界に身を置くようになったんです。
でも改めて振り返ると、制約があるからこそ生まれるイノベーションがあることに気づきました。
何もないところから始めるスタートアップも魅力ですが、既にある会社を受け継ぎ、制約の中で新しい価値を生み出していく挑戦も、同じくらい面白い。
結果的に、自分はまたこの世界へ戻ってきたんです。
最大の壁は「組織づくり」
アトツギベンチャーが成長するうえでの大きな課題は何でしょうか?
課題は二つあると思っています。一つはファイナンスです。
先代からの借入や資金繰り、会社が順調なら相続税など、お金に関する課題があります。ただ、これはテクニカルな問題です。
そしてもう一つ、本当に難しいのは、人や組織の課題だと思っています。
私はよく、「古い船に、新しい船長として乗り込む」と表現します。30年近く違う価値観を持った社員が乗っている船に、新しい経営者がやってくるわけです。
当然、最初は自分の方が少数派です。新しいことを始めようとしても、時代背景も価値観も違う中で、組織を変えていく必要があります。
だから既存社員との信頼関係づくりや、チームビルディングのやり直しに、とても時間がかかるんです。もしこの組織改革がなければ、もっと事業づくりに集中できる。
でも現実には、会社を変えることと、新しい事業をつくることを同時に進めなければならない。それがアトツギベンチャーならではの難しさだと思います。
その価値観の壁を乗り越えるためには、何が必要なのでしょうか。
やはり「両輪」ですね。
例えばあるアトツギの話ですが、早稲田大学院を卒業してアクセンチュアで働いた後、家業の染色会社へ戻った方がいます。室温50度にもなる工場で社員と一緒に汗を流し、泥だらけになって働く。
そうやって現場で信頼を積み重ねながら、一方では東大と共同研究を進め、新しい技術開発にも取り組んでいます。どちらか一方ではなく、両方をやることが大切なんです。
そして、もう一つ大きいのが、外部から右腕となる経営人材が加わることです。
後継者一人で孤軍奮闘するより、信頼できる参謀が一人加わるだけで、5年かかる改革が2年で進むことも珍しくありません。アトツギベンチャーの成長には、そうした経営人材の存在も非常に重要だと思っています。
スタートアップとアトツギベンチャーは、実は相性がいい
スタートアップとアトツギベンチャーが協業するメリットについて教えてください。
私は、スタートアップとアトツギベンチャーは、実はとても相性がいいと思っています。
一番大きいのは、お互いに意思決定が早いことです。
野心を持って事業承継をしているアトツギは、新しいことに貪欲ですし、情報へのアンテナも高い。実際に、スタートアップや大企業を経験して家業に戻ってきた人も多いので、スタートアップが思っている以上に話が早いケースは多いですね。
大企業との協業だと、担当者が変わったり、社内調整に時間がかかったりして、進んでいた話が止まってしまうことがあります。
一方で、スタートアップとアトツギベンチャーは意思決定者であるトップ同士で直接話ができることが多く、意思決定までが非常にスムーズです。
実証実験や社会実装の現場を探しているスタートアップにとっては、アトツギとの協業で事業化が進む可能性が大きいです。
一方で、スタートアップとアトツギベンチャーが協業していくうえでの課題はありますか?
もちろんあります。アトツギベンチャーも決して資金が潤沢なわけではありません。
それ以上に大きいのは、「スタートアップとどう協業すればいいのか」という成功パターンが、まだ十分に確立されていないことです。
例えば、実証実験の場を提供する場合でも、どのような契約にすればいいのか、どういう形で費用をいただくのかがわからないことが多い。
仕事の進め方、スピード感、仮説思考、挑戦的な目標設定、などスタートアップ的な考え方や行動特性に慣れていないことが多い。
これまでコツコツと加工賃という形で稼ぐ仕事をしてきた会社にとっては、スタートアップとの取引自体が初めての経験なんです。
「一緒に挑戦したい」という気持ちはある。でも、やり方が分からない。今はまだ、そのくらい新しい領域なんだと思います。
小さく始めることが、良い協業につながる
スタートアップがアトツギベンチャーと協業を進めていく上で、意識した方がいいことはありますか?
いきなり大きなプロジェクトを始めるより、小さな取引から始めることですね。
以前、アトツギベンチャーとして活躍されている経営者がおっしゃっていたのですが、「まずは小さくても受発注関係をつくることが大事」だと。
そこで一緒に仕事をしてみると、お互いが信頼できる相手なのか、仕事の進め方が合うのかが分かります。そこから徐々に共同開発や新しい取り組みに発展させていく方が、結果として長く続く関係になりやすいと思います。
スタートアップから見ると、協業先としてアトツギベンチャーはまだあまり認知されていない印象があります。
そうなんです。スタートアップからすると、協業先というと大企業を思い浮かべる人が多いですよね。
でもアトツギベンチャーは、「会社を存続させる」という明確な目的があるからこそ、新しい挑戦を受け入れる理由があります。
アトツギは20年、30年先を見据えて会社を経営しています。短期的な利益だけではなく、長い時間をかけて価値を育てることができる。
これは、長い時間軸での研究開発が必要なテクノロジースタートアップ(ディープテック)にとって、大きな魅力になると思っています。
アトツギ/スタートアップ/大企業が接続する協業イベント『UNBOUND』を実験的に開催。
山野さんが代表を務める一般社団法人ベンチャー型事業承継では、アトツギ/スタートアップ/大企業が接続する協業イベントUNBOUNDを開催されます。このイベントの趣旨について教えてください。
「アトツギとスタートアップと大企業。本質的な共創とは何か」。
そんな問いからこのイベントの企画がスタートしました。
実際には、スタートアップとアトツギベンチャーの連携は実証実験現場の提供や試作品づくりの協力に留まりやすく、大企業との連携もまた、短期的なマッチングや情報交換で終わってしまうことが少なくありません。
今回の企画は「成長意欲の高いアトツギ」を中心に据えながらも、スタートアップ、大企業が、それぞれお互いの手の内を明かすことで実質的な共創に向かえるのか、実験的な取り組みとなります。
スタートアップ側からすると、「どんな人が来るんだろう」と思われるかもしれません。
でも実際には、スタートアップイベントに参加していても違和感がないような人たちが、アトツギという立場で参加しているだけなんです。
しかも彼らは、工場や設備、現場、長年培ってきた技術や暗黙知を持っています。場合によっては、時間もコストもかけながら一緒に挑戦してくれる存在です。
だから私は、新しい協業相手の一つとして見てもらえたらいいなと思っています。
今回のイベントで特に期待していることはありますか。
これまでの協業イベントって、名刺交換をして、そのまま終わってしまうことも少なくありませんでした。今回はそうではなく、お互いが持っているものを最初から開示した上で参加します。
「うちはこういう設備があります。」「こういう現場があります。」「こういう技術課題を抱えています。」スタートアップ側も、「こういう技術を試したい」と持ち寄る。だから最初から具体的な会話になりやすいと考えています。
たとえ目の前の会社とマッチしなかったとしても、その先のネットワークを紹介してもらえるかもしれない。そう考えると、参加する価値は十分にあると思っています。ただの名刺交換では終わらない協業イベントにしたいですね。
イベントサイト:https://unbound.peatix.com/
東京だけがキャリアではない。地方のアトツギベンチャーには挑戦できる環境がある
最後に、都市部で働くビジネスパーソンへ地方のアトツギベンチャーでのキャリアについて関心を持つ人もいます。そんな方へメッセージをお願いします。
今、東京で働いている方の多くは地方出身だと思います。地元が少しずつ元気を失っていくことに、どこか寂しさを感じている人も少なくないのではないでしょうか。
だから、いきなり転職ではなくてもいいんです。副業から関わるだけでもいい。その先に、経営者の右腕や役員として地域企業を支える未来もあると思っています。
実際に、東京で人材コンサルティングをしていた方が鹿児島のアトツギベンチャーへ転職し、副社長として活躍されているケースもあります。生活コストは抑えられますし、子育て環境やワークライフバランスも大きく変わります。
何より、アトツギベンチャーで経営者の近くで働くことは裁量が大きく、自分が会社の成長をつくっている実感を持て、とても大きなやりがいになると思います。
地方で働くことに、不安を感じる人もいると思います。
正直に言えば、東京とのギャップはあります。給与水準も違いますし、テクノロジーリテラシーにも差があることは事実です。地方企業は、ある意味ではとてもカオスです。でも、そのカオスだからこそ、自分が変えられる余地があります。
完成された環境の中で一つの役割を担うのではなく、自分自身で会社や組織を変えていける。それが好きな人には、これ以上ない環境だと思います。
地方で働くことは、決してキャリアダウンではありません。会社の未来だけでなく、地域そのものの未来にも関わることができる。
そんな仕事に挑戦できることこそ、アトツギベンチャーで働く大きな魅力ではないでしょうか。
一般社団法人ベンチャー型事業承継
https://take-over.jp/
Mission
「アトツギベンチャー」を日本の新たなビジネスカルチャーに
アトツギベンチャーのニュースが毎日のように流れ、アトツギベンチャーで働きたい若者が町にあふれ、アトツギベンチャーを志す若者の熱狂が町中に伝播している。
存続にコミットする彼らが生み出すサービスや技術で、世の中はもっとカラフルになり、しぶとくしなやかに生き残る会社がどんどん増え、日本はもっと豊かになっている。
アトツギが胸を張って地元に戻り、胸を張って家業を継ぎ、胸を張って新しい挑戦を続ける。
わたしたちはそんな世界を実現します。
