厳しい状況にぶつかりながらも、持ち前のバイタリティと「子供に背中を見せたい」という強い想いで開発の道を切り拓いてきた金沢工業大学の藤田萩乃准教授。挑むのは、75年間誰も解決できなかった「産業用マイクロ波のエネルギー損失(反射波)問題」の克服です。独自開発の「楕円型チャンバ」と「自動インピーダンスマッチング機構(特許出願済)」により、従来技術では不可能とされた加熱効率85%超やボイラーの完全代替を実現。仲間たちの愛と情熱に支えられ、世界中の産業熱源を脱炭素化へ導く藤田先生の歩みと未来へのビジョンに迫ります。
工学部 電気エネルギーシステム工学科 准教授(博士(工学))
藤田萩乃氏
大手容器メーカーにて設備設計・電気制御・製品開発に従事。数々の逆境を乗り越えながら業務と育児を両立し、東海大学にて博士号を取得。石川県立大学食品科学科教員を経て現職。専門分野は電磁界解析、高周波・マイクロ波応用技術、自動制御プログラム開発。
金沢工業大学
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逆境から始まった開発人生と「15年越しに蘇った試作機」
エンジニアとしてのキャリアは、決して平坦な道のりではなかったとお聞きしました。
最初は大手容器メーカーの工場で、50メートル規模の生産ライン設計や電気施設、制御プログラムなどを担当していました。「一生現場で設備を設計して仕事を続けていくんだろうな」と思っていた矢先、産休・育休に入ることになったんです。復帰後は「子育てをしながらでは以前と同じような働き方は難しいだろう」と配慮され、現場からは外れ、もどかしさを感じました。
ただ、そこで塞ぎ込むのではなく、「与えられる仕事がないのなら、自分で新しい価値を生み出せばいい!」と気持ちを切り替えたんです。そこから電気技術者であり、生活者・母親でもある自分ならではの強みを活かし、容器に導電性を付与した使い切りの調理容器など、新たな製品開発の企画を自ら立ち上げて動き始めました。
どのような経緯でアカデミアへ転身し、現在のマイクロ波研究にたどり着いたのですか?
私を面白い人材だと思ってくれた副社長や、信頼できる上司たちが陰で支えてくれて、東海大学で博士号を取得させてもらいました。その後息子の大学の入学式で、年上の技術員の方を見かけて気になり、直接声をかけたんです。そこで文科省のサイトで教員公募があると教えてもらい、登録後に石川県立大学の「電子レンジの食品への効果や加工がわかる人」という募集を発見。「私のことだ!」と応募したら即日採用が決まりました。どこにチャンスがあるか分からないので、自分から動くことが大切ですね。
今の研究の原点は、まさに大手容器メーカー時代にあります。当時、レトルトパウチのシール用に開発していたのが「楕円型チャンバ」でした。当時は電波が漏れてしまってお蔵入りになり、事業自体も中止に。それから15年以上が経った頃、当時の開発仲間が「懐かしいお土産を持ってきたよ」と、屋根裏に大切に保管してくれていた試作0号機を持ってきてくれたんです。「今なら絶対に違う使い方ができる!この技術をもう一度形にしよう!」と一気に胸が熱くなりましたね。
【技術解説】75年放置された壁を破る『使えるマイクロ波』とは?
今回実用化を目指している技術の概要と、従来の産業用マイクロ波との違いを教えてください。
電子レンジと同じ「マイクロ波」という電波を使った加熱は、物に触れずに素早く温められるのが大きなメリットです。
ただ、産業用として使おうとすると大きな問題がありました。温めている途中で「温める対象の性質(温まりやすさ)」が変わってしまい、電波が跳ね返って逃げてしまいます。その結果、せっかくのエネルギーの約8割をムダに捨ててしまい、結局は熱風や蒸気を併用せざるを得ないのが75年間の課題だったのです。
私たちの技術は、「物性が変化することを前提」に設計しています。
① 電波のパワーを1か所に集中させる「楕円型チャンバ」
② 物の性質が変わっても、電波が跳ね返って逃げないようにリアルタイムで自動調整する「自動インピーダンスマッチング機構(特許出願済)」
③ それらを完璧なタイミングで動かす「制御プログラム」
という、3つのコア技術を組み合わせています。
【従来技術との違い】
■ 市販電子レンジ/従来の産業用レンジ
・加熱効率:約16.9%〜20%(エネルギーの8割を廃棄)
・課題:加熱ムラが発生、油や絶縁物は加熱不能
■ 本事業の「楕円型チャンバ+自動制御」
・加熱効率:85.2%超(損失エネルギーほぼゼロ)
・強み:油・液体・気体を問わず高効率加熱、プラズマ生成も可能
これによって、どのようなインパクトが生まれるのでしょうか?
加熱効率85%超という異次元の省エネ性能を達成しています。さらに、これまで「マイクロ波では絶対に加熱できない」とされてきた鉱物油(油)や絶縁物も一瞬で高効率加熱できるようになり、わずか20W程度の低電力で大気圧プラズマを維持することにも成功しました。
ボイラー代替から原油蒸留まで|広がる社会実装と脱炭素の可能性
具体的に、どのような産業分野での活用を想定していますか?
最大のターゲットは「産業用ボイラーの完全代替(電化・脱炭素)」です。従来の工場では、離れたボイラー棟で化石燃料を使って蒸気を作り、長大な配管を通して熱交換を行っています。これを私たちの小型な通過式楕円チャンバに置き換えるだけで、設置スペースは1/100以下になり、約90%の省エネと工場プロセスの完全電化(CO2削減)が実現します。
【想定される主なユースケース】
■ ボイラー・熱交換器代替:蒸気を使って熱交換する現場を刷新
■ 大型マシンの潤滑油温調・劣化診断:原子炉やシールドマシン等のオイル管理
■ 化学プラントのフロー化:バッチ処理から通過式インライン処理への移行
■ 食品からの成分抽出:熱をかけずに有用成分の抽出
■ 原油蒸留プラント:原油蒸留プロセスの脱炭素化
ビジネスモデルとしては、自社で製造工場を持たず、既存のボイラーや熱交換器、加熱装置のメーカー様にコアモジュールと制御ソフトをライセンス供給する「パートナー戦略(非直販アセットライトモデル)」をとります。既存メーカーを競合にするのではなく、彼らの製品を次世代の脱炭素仕様に変える“最強の武器”として提供します。
未来の経営者(CEO候補)に求める像
非常にスケールの大きい事業ですが、現在はどのような体制で推進されていますか?
ありがたいことに、各分野のトッププロフェッショナルが集まってくれています。大手企業の知財戦略エキスパート、電磁界解析関係者、そして起業支援機関やVCの皆様。私が退職するときに涙を流してくれた昔の仲間や現場の業者さんたちも含め、本当に人のご縁と愛に支えられています。
どのような経営人材(CEO候補)と事業化を目指したいですか?
経営パートナーは相性だと思っています。私は研究者・エンジニアなので、放っておくと目先の面白い技術探求に走ってしまう。「これ作って」と言われたら何でも開発できる自信はあるのですが、マーケットのニーズの絞り込みやビジネスの組み立ては専門外です。
だからこそ、「藤田先生、こっちのほうが売れるからまずこれをやりましょう!」「技術開発は自由にやっていいから、事業推進は任せて!」と商流を絞り込み、リーダーシップを取ってくれるCEO候補の方と出会いたいですね。お互いを尊重し合える関係であれば、若手でもシニアでも大歓迎です。
研究者としてのマインドと、目指す「地球規模の省エネ」
数々の苦難を乗り越えてこられた藤田先生が、最も大切にしている価値観は何ですか?
「どんな環境でも面白がること」と「感謝を忘れないこと」です。育休後に技術職から外されたときでも「自分で開発して見返してやる」とエネルギーに変えて、心折れずに研究を続けてきました。そして、ピンチの時に助けてくれた仲間の存在があったから今があります。今度はこの技術を通じて、社会と仲間に恩返しがしたいんです。
最後に、この技術で実現したい未来のビジョンを教えてください。
目指すのは「地球規模の省エネと脱炭素の実現」です。世界中で使われている化石燃料依存のボイラーや効率の悪い加熱装置を私たちの技術に置き換え、CO2排出量を削減して持続可能な社会を作りたい。そして子どもに胸を張れる仕事をしたい。それが原動力です。世界を驚かせる挑戦を、これからも楽しんで続けていきたいですね。
編集後記
インタビュー中、終始明るいお人柄で場を和ませてくださった藤田先生。しかしその笑顔の裏には、逆境を乗り越えてきた反骨精神と、先生が培ってきた技術、そして仲間への感謝で満ち溢れていました。15年の時を経て蘇った試作機を手に、最強の専門家チームと共に世界市場へ挑む藤田先生の情熱は、周囲を惹きつけてやみません。この革新的な技術を世界へ届けるため、ビジネスの舵を握り共に歩む未来のCEOパートナーを募集しています!
