大手化学メーカー10年→8日で海外向けプレゼン。ディープテックスタートアップへ転職

エレファンテック株式会社事業開発担当 林 純希氏

「いざ大企業の終身雇用がなくなった瞬間に、本当に安定しているのはどっちなんだろう」。

化学業界の大手メーカーで10年。エラストマー素材の法人営業から、脱炭素分野の事業開発まで、ものづくりの最前線でキャリアを積んできた林さんが、ディープテックスタートアップ・エレファンテックに飛び込んだのは、2026年の3月だった。

入社8営業日目で海外の大手パワーデバイスメーカーへ英語プレゼン。1ヶ月半で大手半導体メーカーを駆け回り、社長と並走しながらパワー半導体向けの新素材事業を立ち上げる。そんな日々の中で見えてきたのは、「自分の軸を持つこと」こそが、本当のキャリアの安定をつくるという確信だった。

日本のディープテックを社会実装する橋渡し役になりたい。大企業10年の中で温め続けたその思いを、林さんはどう実現しようとしているのか。話を聞いた。

林 純希氏

事業開発担当
林 純希氏

大手化学メーカーからキャリアをスタート、エラストマー素材の法人営業を約8年経験したのち、社内のキャリアチェンジで脱炭素分野の事業開発に従事。2026年3月、エレファンテック株式会社に入社。次世代パワー半導体向け接合材「SAphire™」の事業開発・営業を担当している。

「日本の良いものを海外に広めたい」を軸に、ディープテックの社会実装を後押しすることを人生のテーマとしている。

エレファンテック株式会社

エレファンテック株式会社

設立
2014年01月
社員数
約150名(2025年12月時点)

<Mission>
新しいものづくりの力で持続可能な世界をつくる
<事業内容>
製造装置・材料の製造販売、プリント基板の製造販売

留学で気づいた「日本のものづくりの底力」、化学メーカーで歩み出した10年

スタクラ:

これまでのキャリアを簡単に教えてください。

林 純希:

2015年に大学を卒業して、新卒で大手化学メーカーに入社しました。最初の8年間はエラストマーという化学素材の法人営業を担当していて、国内外のお客様に新規用途を提案していくのが仕事の中心でしたね。その後、社内のキャリアチェンジで、脱炭素分野の事業開発に異動しました。そこで2年半ほど経験を積んで、3年になる前に転職活動を始めて、今のエレファンテックに入社したという流れです。

スタクラ:

もともと「日本の技術を世界に届けたい」という想いがあったと伺いました。それはいつ頃から芽生えたものだったんですか?

林 純希:

 きっかけは大学の留学です。私は外国語学部出身で、1年間海外に留学していたのですが、現地で日本の製品を目にする機会がたくさんあって。海外の人と話していても「日本はものづくりが強いよね」と言われることが多くて、そのときに日本にはクオリティの高いモノが当たり前に存在していることを、強く実感しました。そこから「日本の良いものをもっと海外に広めたい」という気持ちが、自分の中の軸になっていきました

スタクラ:

そこから素材メーカーという選択になっていったんですね。

林 純希:

はい。当時既に最終製品メーカーでは、中国や韓国など海外企業がシェアを取っている部分もあったのですが、その製品の中身を見ると、日本の部品や素材がしっかり入っているんですよね。「ここはまだまだ日本が強い領域だ」と思えたのが大きくて。スマホひとつとっても、中に日本の技術がたくさん詰まっている。それが純粋にわくわくしました。

スタクラ:

実は理系出身ではないとも伺いましたが。

林 純希:

ド文系です(笑)。化学も数学もずっと避けて生きてきたタイプで。父親がメーカーの技術職だった影響もあったのかもしれません。結局、自分もメーカーに行くことになりました。

大企業10年で「終身雇用の幻想」が解けた瞬間、スタートアップ転職を決めた直接のきっかけ

スタクラ:

大手化学メーカーで10年。安定したキャリアの中で、転職を考え始めたきっかけは何だったんでしょうか。

林 純希:

もともと「30代のうちに一度は転職活動をやってみよう」とは思っていたんです。実際に転職するかどうかとは関係なく、一度は外を見ておこうと。1社しか経験していないのも、自分にとってはもったいない気がしていたし、人がもっと流動した方が社会全体にとっても良いと思っていたので。

スタクラ:

自分のためというよりも、社会の流動性という視点で考えていたのが印象的です。実際に動き出した直接のきっかけはありましたか?

林 純希:

 きっかけは、大企業でも事業再編や組織変化が当たり前になってきた時代の空気感でした。身近なところでもキャリアを見直す人が増えていて、「大企業の終身雇用というものは、もうそういう時代じゃないんだな」と腑に落ちました。

スタクラ:

ご自身に置き換えて考えたんですね。

林 純希:

はい。大企業にとって、今はどの大企業でも、事業の組み替えや組織の変化が起こり得る時代だと思います。それ自体は会社が長く存続していくために必要な経営判断で、正しいものだと思うんです。ただ働く側としては、キャリアを会社任せにせず、いつ環境が変わっても自分で選べる状態にしておくのが健全だなと。それで、まずは外を見てみようとエージェントに登録しました。

大企業からスタートアップへの転職に不安はあったか、「カオス耐性」の正体

スタクラ:

大企業からスタートアップへの転職に、不安はありませんでしたか?

林 純希:

むちゃくちゃありましたね。10年間、大企業の中で育ってきた自分が、スタートアップで本当に通用するのか。「カオス感に耐えられますか?」とよく面接で聞かれたんですが、入ってみないとそのカオスがどういうものか分からないので、「耐えられます」と答えるしかなくて。心配は最後まで残っていました。

スタクラ:

その不安は、どう乗り越えていったんでしょうか。

林 純希:

身近にスタートアップを経験した知人がいて、実際の話を聞けたことが大きかったです。それと、スタートアップで働いている人って、自分の中に軸がある印象があります。会社に依存しているのではなく、「自分がやりたいから、今この会社にいる」というマインド。それがすごく魅力的に見えて、自分もそういう感覚を持ちたいと思いました。不安を完全に消すというよりは、「一度チャレンジしてみよう」という気持ちが勝った感じですね。

スタクラ:

数ある会社の中で、エレファンテックを選んだ決め手は何でしたか?

林 純希:

正直、化学にこだわっていたわけでも、半導体やエレクトロニクスに特別な興味があったわけでもないんです。やりたかったのは、「日本のディープテックがちゃんと社会実装されていく場面に貢献すること」でした。その中でエレファンテックは、日本のディープテックの先駆者と言える存在だと感じて。社長の清水信哉さんも、自身のブログで「日本の勝ち筋はディープテックをいかに盛り上げるかだ」とおっしゃっていて、その思想に深く共感したのが決め手でした。

スタクラ:

スタクラと出会われたのは、転職活動のどのタイミングだったんですか?

林 純希:

 最初はビズリーチを中心に活動していて、その後、スタートアップに特化した別のエージェントにもお世話になりました。半年ほど転職活動をしましたが、行きたい会社が決まらず、いったん数ヶ月休憩したんです。そこからもう一度動き出したときに、検索でスタクラを見つけました。スタートアップの求人がしっかり載っていて、自分でも情報を取りに行ける形だったので、情報収集も兼ねて登録したのが最初です。そこから池田さんと出会って、エレファンテックの求人につながりました。

入社8営業日目で海外向けプレゼン、新素材事業の最前線で経験した「大企業との違い」

スタクラ:

現在のお仕事の内容を教えてください。

林 純希:

エレファンテックは元々、プリント基板の配線形成をインクジェットで行うという独自技術をベースに事業をやってきた会社なんですが、2026年に入ってから事業領域を広げていて、ナノ材料を活かしたAI・半導体向けのソリューション開発に力を入れています。その新しい柱のひとつとして、「SAphire™」という製品名の半導体向けの導電性銅ナノペーストを開発していて、私はその事業開発と営業を担当しています。チップを基板に実装するための接合材料で、先月プレスリリースも出したばかりです。

スタクラ:

入社して2ヶ月でその担当に。

林 純希:

はい。入社1週間目に清水さんから「これ今からやっていくから、林さんに任命する」とSlackが飛んできて、「えっ」となりました(笑)。2日後には海外の大手パワーデバイスメーカーへのプレゼンが入っていて、清水さんがその日出られないと。技術メンバーは英語が得意じゃないから、私に任せるという話になって。

スタクラ:

2日後にプレゼンはすごいですね(笑)

林 純希:

 翌日には新木場の実験室に来て、ペースト開発担当の方に2時間かけて丁寧にレクチャーしてもらって、その場で英語の原稿を書いて、入社8営業日目で本番。そのあと1ヶ月半は、ひたすら大手の半導体・パワーデバイスメーカーを回って、コンセプトプレゼンとフィードバックの往復をやっていました。技術面顧客面ともに、一気に解像度が上がりましたね。

スタクラ:

任せてもらえるスピード感が、まさにスタートアップですね。

林 純希:

信じて任せてもらえたのは本当に嬉しかったです。既存事業の営業部の中で動いていたら、おそらく埋もれていた可能性もあったので。そこに新規事業にアサインしてもらえて、なんとか食らいついていったことで、最初のスタートダッシュが切れた感覚があります。

スタクラ:

前職と比べて、一番大きく変わったと感じる点はどこですか?

林 純希:

意思決定のスピードですね。大企業だと、半年や1年ごとに戦略を立ててレビューしていく感覚で、クォーターごとでも早いという感覚です。エレファンテックは、日々技術が進化していくし、週単位で大きなアップデートが入ることがある。「来週にはやり方が磨き上げられているかもしれない」を前提に動いているイメージです。

それがストレスになる人は、いわゆるカオス耐性がないということなんだなと、入ってみて初めて分かりました。

スタクラ:

大きな組織だと『言っていることが変わった』と感じる場面もありますが、ここではそれが前提になっている、と。

林 純希:

そうですね。会社や組織の方針に対して「昨日言っていたことと違うじゃないか」みたいな不満って、あるあるだと思うんですが、ここではそれが当たり前の前提で仕事をしているので、不満にならないんです。製品開発のスピードも速くて、昨日取れたデータを基にお客さんにプレゼンする、ということが日常的にあります。私にとってはとても新鮮な環境です。

スタクラ:

今、一番難しいと感じていることは何でしょう。

林 純希:

我々の事業のスピードは速いんですが、お客さんに評価してもらうサイクルは、お客さん側の時間軸になります。特に車載向けのパワーデバイスは、評価から実装まで2〜3年かかるのが普通で、製品ができてから世に出るまでにタイムラグが生じるんですよね。

スタクラ:

そのギャップをどう埋めるか、と。

林 純希:

はい。一つは、少しでも早く商品化につながるテーマを見つけて集中していくこと。ただ、本質的には「3年後に売れる」という前提で、その3年間にエレファンテックがどう存在し続けるかを設計しないといけない。今やっている事業活動をきちんと企業価値に変えて、対外的なPRや投資を呼び込んでいく、そういう視点を持って事業を動かす必要があるなと感じています。ここは私にとっても初めての挑戦で、SAphire™を担当する中で考え抜かないといけないテーマです。

「AI・半導体文脈で語られるエレファンテック」をつくる、ディープテック社会実装の橋渡しへ

スタクラ:

エレファンテックの中でこれから取り組みたいこと、実現したいビジョンを教えてください。

林 純希:

短期的には、まずはこの2ヶ月の延長で、目の前のSAphire™事業に食らいついていくこと。半導体やエレクトロニクスは私にとって新しい領域なので、ちゃんとキャッチアップして、事業に貢献できる人間になることがまず一つです。

スタクラ:

その先には。

林 純希:

視点を高くすると、エレファンテックは『プリント基板の製造工程改革』を起点に、ナノ材料を活かしたAI・半導体分野のソリューション開発へと事業を広げている段階にあります。その切り口の一つがSAphire™なので、この事業を成功させることはもちろん、エレファンテックが「AI・半導体文脈で語られる会社」として正しく認知されるところに、しっかり貢献していきたいですね。

スタクラ:

5年後、10年後、林さん自身はどんなキャリアを歩んでいたいですか?

林 純希:

やりたいことの軸は、転職前から変わっていなくて、「日本のディープテックが社会に実装される、その橋渡しをすること」です。私はエンジニアではないので技術そのものを生み出すことはできないけれど、いい技術を世に出していくところで、自分を役立てていきたい。エレファンテックでまさにそれを実践している最中ですし、ここで身につけたものを再現性のある形にして、別のディープテックの現場でも同じことができるようになっていきたいと思っています。

「どこにいるか」ではなく「自分がどんな状態でいるか」

スタクラ:

最後に、スタートアップへの転職を悩んでいる方に向けて、一番伝えたいことを聞かせてください。

林 純希:

別に「スタートアップがいいよ」と言いたいわけではなくて。一番大事なのは、自分で自分のキャリアを選べる状態でいること、だと思います。突然会社の状況が変わったり、事業がうまくいかなくなったりするのは、スタートアップに限らず大企業でも起こり得る。そのときに、「だから自分はここにいる」「だから自分は環境を変える」と、ちゃんと自分の軸で決断できる状態にしておくこと。それが結局、本当の意味での安定につながると思っています。

スタクラ:

「どこにいるか」よりも「自分がどんな状態でいるか」、と。

林 純希:

はい。「スタートアップだから不確実」「キャリアが不安定」という話ではなく、自分がどういう状態でいるかが安定をつくる。そういう感覚を育てる場として、スタートアップはすごく良い環境だと思います。安定しているはずの大企業の中では、その感覚が育ちにくいということは、私自身が10年間で実感したことでもあります。

編集後記

取材中、何度も心に残ったのは「自分の軸で選べる状態にしておきたい」という林さんの言葉でした。大企業10年というキャリアの中で温められてきたこの感覚は、決して大企業を否定するものではなく、むしろ大企業の内側にいたからこそ手にできた視点なのだと感じます。

入社2ヶ月で海外メーカーへのプレゼン、社長との直接の壁打ち、新素材事業の事業開発。スタートアップらしい「任せられるスピード感」を最大限に活かしながらも、その先で「3年後に売れる前提で、企業価値をどう作るか」という、より構造的な問いに向き合おうとしている姿勢が印象的でした。

「スタートアップだから安定しない」のではなく、「自分の軸を持っている人は、どこにいても安定している」。林さんの言葉は、今キャリアの問いに向き合うすべての方への、静かなヒントになるはずです。

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取材協力

新木場R&Dセンターにて、エレファンテックの林様とご同席いただいた人事部長 田村様
「Elephantech Way」、組織を支える7つの行動指針

エレファンテック株式会社

エレファンテックは、独自の低環境負荷PCB製造ソリューション「SustainaCircuits」を基盤に、先進的な銅ナノ材料と高精度インクジェット技術を統合することで、エレクトロニクス製造における新たなアプローチを実現しています。 2026年3月、次世代パワー半導体向け接合材「SAphire™ D」のプレスリリースを発表。

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この記事を書いた人

池田 真


池田 真

中央大学卒業後、国家公務員(国土交通省)として5年半勤務。 「組織と人」への関心が募り、組織開発を行うベンチャーに飛び込み法人営業を経験後、リクルートのグローバルブランドであるRGFにて両面型エージェントを経験。 現在、志を持つ起業家/スタートアップと、スタートアップに関心がある候補者の支援に従事。 『運命を変えていくものは、ただ一つ私たちの心であり、人生は自分でつくるもの』という稲盛和夫さんの言葉が好き。 スタートアップへの想い:外部者としてではなく「当事者」として、スタートアップの成長支援に尽力します!

エレファンテック株式会社

エレファンテック株式会社

設立
2014年01月
社員数
約150名(2025年12月時点)

<Mission>
新しいものづくりの力で持続可能な世界をつくる
<事業内容>
製造装置・材料の製造販売、プリント基板の製造販売