
東北大学発のディープテックとして、2025年4月の創業から驚異的なスピードで成長を続けるNanoFrontier株式会社。ナノ粒子の汎用性を武器に、エネルギー問題や環境汚染といった地球規模の課題に挑んでいます。今回は、代表取締役CEOである井上氏に、東北から世界を目指す熱い想いを伺いました。

代表取締役
井上 誠也氏
東京大学農学部・同大学院修士課程修了(有機化合物合成、機械学習研究)。
在学中よりAI開発、不動産、VCでの経験を積み、Microsoft入社後はAzureを用いた開発支援と技術営業に従事。
その後、AIアプリケーション開発を行うCatalis Partners Groupを設立。
2025年4月に東北大学発のナノ粒子化技術による機能性有機材料の開発・事業化を目指しNanoFrontierを創業。

NanoFrontier株式会社
https://nanofrontier.jp/
- 社員数
- ~30人
《Mission》
誰もが手にできる圧倒的低コストな技術を商業化し続ける
《事業分野》
新素材・バイオテクノロジー
《事業内容》
NanoFrontier株式会社は、東北大学発のディープテックスタートアップとして、
有機化合物を「再沈殿法」により安定かつ高精度にナノ粒子化する独自技術を核に、
さまざまな産業・社会課題の解決に挑んでいます。
東北大学で長年にわたり蓄積されてきたナノ粒子化プロセスを、高感度センシング、環境モニタリング、エネルギー材料、冷却材料、医薬品のドラッグデリバリーなど、幅広い分野へ応用が可能です。
NanoFrontierは、これらの技術を実用的な製品・サービスとして社会に届けることで、
環境・エネルギー・ヘルスケア領域における課題解決と技術の社会実装を推進しています。
- 目次 -
「ディスアドバンテージ」が原動力。――“逆境を楽しむ”マインドセット
まずは井上さんの生い立ちからお伺いさせてください。幼少期や学生時代はどのようなお子さんだったのでしょうか?
生まれは関西で、一般的なスポーツ好きの少年でした。ただ、振り返ってみると「自分にディスアドバンテージ(不利)がある状況」を楽しみながら全投球するタイプだった気がします 。
それはどんな状況で発揮されたのでしょうか?
例えば中学受験では、周りが低学年から塾に通う中、僕は小5から始めたのでスタートが比較的遅かったんです。結果は補欠合格でしたが、母からは「どん底からのスタートなんだから、これ以上下がることはない。上がっていくだけじゃない」と励まされました 。
大学受験でも、ずっとE判定でしたが、「自分が東大に行ったらみんな盛り上がるんじゃないか」と逆に燃えて、合格を掴み取りました。不利な状況こそ、僕を最も集中させてくれるんです 。これが僕のベースになっていると思います。
支援する側より、される側へ。VCでの経験が火をつけた「起業家」という生き方への決意
起業に至るまで、価値観に影響した原体験はありますか?
大学学部では有機合成(化学)の研究室に入ったのですが、流行りに乗っかりたいと思い、機械学習に興味を持って大学院を変える選択をしました。
そのタイミングで半年ほど時間ができて、目的もなくアメリカに行った時期があります。日本の仕事をリモートでしながら、アメリカで日本人が創業したスタートアップで働かせてもらったのですが、根気強い行動力と、課題に対するクリティカルなアプローチを間近で見て、「スタートアップって面白いな」と感じました。
日本に帰ってきて不動産ファンドでDDの仕事をし、そこから「スタートアップ×金融」に興味が出て、学生ながらVCでもお手伝いしました。
VC側も経験した上で、起業家を選んだ理由は?
VCの方々は起業家に対するリスペクトが圧倒的に強いんです。その時僕は、「応援する側より、応援される立場になりたい」と漠然と思ったんです 。応援することは自身のエゴで勝手にできる反面、応援されることは相手ありきなので格段に難しく、まだ応援されやすい年齢のうち挑戦した方が良いと考えました。
ただ、大きな会社を作るためには、大きな会社がなんたるかを確かめてみようと思い、世界で一番大きな会社の一つだったMicrosoftに入社しました。そこで大企業でのプロジェクトを経験しながら、並行して自分でスモールに会社を創業し、機運が高まったタイミングで自分の会社に全力投球するようになりました。
“道徳と経済”の両立へ。HR、宇宙事業を経て、東北大学と出会う

NanoFrontierを創業する前には、HR事業や宇宙事業にも取り組まれていますね。
HR事業は順調でしたが、自分たちのリソースを20年かけて投下するにしては、市場規模や世の中へのインパクトに限界を感じ、そこまでロマンを感じることができませんでした。一方、ロマンを追求しすぎて宇宙にデータセンターを設置するための放射線耐性の高い半導体開発事業も検討したのですが、経済性を成り立たせるにはまだ20〜30年早いという判断をくだし、撤退しました。
その時の経験が、現在の事業選択に影響しているのでしょうか。
二宮尊徳の「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」という言葉があります 。ワクワクするけれど稼げないのは「寝言」。稼げるけれどワクワクしないのは「罪悪」。両方が成り立つ事業を見つけることが必要だと痛感しました。その両立を目指して模索していた時に出会ったのが、東北大学の岡先生と、ナノ粒子技術でした 。
岡先生との出会いが、NanoFrontierの起点になったのですね。
はい。岡先生は技術力はもちろん、研究室を運営する「営業力」や経営感覚も持った稀有な方でした 。ナノ粒子は蓄電池の材料や汚染物質の検出など、汎用性が極めて高く、社会貢献(道徳)とビジネス(経済)の両立を確信し、出会って4ヶ月で創業を決めました 。
AIとロボティクスで、研究開発の「当たり前」を壊す
NanoFrontierはディープテック企業ですが、そのスピード感の秘訣は何でしょうか。
僕たちは「ディープテック」という枠にとらわれず、属人的になりがちな化学実験に、AIやロボットアームを積極的に取り入れようとしています 。
AIがテーマ探索を行い、実験プロトコルを作成し、ロボットが実験して結果をAIに返す。人間がいなくても研究開発が回るスキームを構築中です 。これにより、お客様から課題を聞いた翌日には技術提案ができるほどのスピードを実現します 。
僕自身がこの領域の素人だからこそ、既存のしがらみなく「AIを使えばもっと早くできるはず」と、新しいシステムを作れるのが強みだと思っています 。
大学の研究開発は難しいテーマを時間をかけて行うことに美徳を感じがちですが、それはそれとして、僕たちは事業として成立させる必要がある。だからこそ、研究のスピードと再現性を上げて、価値を最短距離で形にしていくのが重要だと思っています。
東北から世界へ。「外貨」を稼ぐことが真の地方創生
今後、どのような会社にしていきたいですか?
産学連携も重要だと思っていて、東北大学に共創研究所を設立しています。スタートアップにいながらアカデミアのキャリアを手放さずに、技術の社会実装に挑戦できる。研究者にとっても“より快適でかつ挑戦的な環境”を作りたいんです。僕はこれを研究者の拠り所にしたいという思いも込めて「研究者サンクチュアリ※聖域・保護区」と呼んでいます。
また、僕の考える地方創生は、その地域でビジネスをすることではないと考えています。東北地方の優れたアセット(人材や技術)を活用して、日本国外から外貨を稼ぎ、それを東北地方の経済圏に貢献することです 。
なるほど。パイ自体を大きくするということですね。
東北大の理系院生(修士)は毎年1,000人以上が就職していく中で県内就職が6%ほどで極めて少なく、宮城県の東京圏への人口流出は全国で最も多いのです。(そのほとんどが20代)
彼らが「ここで働きたい」と思える、世界にインパクトを与える受け皿を僕たちが作る。それがスタートアップにできる最大の貢献だと思っています 。
“ナノ粒子×AI”――ディープテックの枠を超え、最短距離で社会実装を成し遂げる

NanoFrontierで働く魅力としては、どんな点がありますか?
技術側は、研究開発の仕組みそのものを作りながら加速できる面白さがあります。さらに、東北大学のポジションを持ちながら挑戦できるのも特徴です。アカデミアと企業、両方の視点でキャリアを作れます。
事業開発側はどうでしょう?
初年度からグローバル展開を肌で感じられる点ですね。ナノ粒子は用途のレバレッジが効くので、お客さんの課題を聞いた翌日に技術提案できるスピード感もある。社内で1ヶ月検討して提案するのではなく、アグレッシブに動ける人にとってはすごく面白い環境だと思います。
どのような方と一緒に働きたいと考えていらっしゃいますか?
スタートアップなので役割はありますが、自分のロールに固執せず、組織全体を見れる人を求めています 。また、最新のAIツールなどを使いこなし、急速な変化をキャッチアップしていける柔軟さも重要です。
少人数でありながら、海外の政府要人と会ったり、地域の未来を真剣に議論したりと、驚くほど高い視座での取り組みが求められます 。リスクを取って、大きな頭脳の一端となって世界を変えたい。そんなアグレッシブな方をお待ちしています 。
今のフェーズで参画する魅力はどこにありますか?
今は非常にカオスなフェーズですが、それを楽しめる人じゃないとスタートアップは向いていないと思います。
不確実な状況を楽しみ、視座高く物事に取り組める人には、これ以上ない環境だと思います 。
編集後記
東北から世界を塗り替えようとするNanoFrontierの挑戦は、「ディスアドバンテージのある状況こそ燃える」という井上氏の軸を、事業と行動で体現していると感じました。
この挑戦が、これからさらに多くの人の背中を押し、「自分も挑戦してみよう」と思える未来につながっていくことを、心から期待しています。

NanoFrontier株式会社
https://nanofrontier.jp/
- 社員数
- ~30人
《Mission》
誰もが手にできる圧倒的低コストな技術を商業化し続ける
《事業分野》
新素材・バイオテクノロジー
《事業内容》
NanoFrontier株式会社は、東北大学発のディープテックスタートアップとして、
有機化合物を「再沈殿法」により安定かつ高精度にナノ粒子化する独自技術を核に、
さまざまな産業・社会課題の解決に挑んでいます。
東北大学で長年にわたり蓄積されてきたナノ粒子化プロセスを、高感度センシング、環境モニタリング、エネルギー材料、冷却材料、医薬品のドラッグデリバリーなど、幅広い分野へ応用が可能です。
NanoFrontierは、これらの技術を実用的な製品・サービスとして社会に届けることで、
環境・エネルギー・ヘルスケア領域における課題解決と技術の社会実装を推進しています。
