法人化に踏み込んだ理由。それは、文化を増やすために~SF少年が同人サークルから産業エコシステムを創るまで

インテグリカルチャー株式会社代表取締役 CEO 羽生 雄毅氏

「オープンソースで世の中ひっくり返す」──運命的な出会いと共同創業

スタクラ:

2015年の法人設立について教えてください。共同創業者の川島さんとはどのように出会われたのでしょうか?

羽生 雄毅:

自分が何か培養肉の作り方わかる人、一緒に考えられる人というのをあちこちに声かけまくって探してるときに、本郷にあるラボカフェという、いろんな人が勉強会をしたりするたまり場で知り合ったんですね。

そのとき、何がモチベーションなんすかって聞かれたら、いや何か面白いことやりたいみたいな。面白いことやりたいというか、作りたい、オープンソースプロジェクトで世の中ひっくり返るようなことやったらめっちゃ面白いじゃんみたいな(笑)Linuxをはじめ、IT黎明期を作った人も同じような気持ちだったかもしれないですね。

10年で1万分の1に——3000万円から3000円へ

スタクラ:

培養肉のコストについて、大きな進化があったと聞きました。

羽生 雄毅:

業界の様子をみると、2013年に3000万円だったハンバーガー1個のコストが、2024年現在では3000円程度まで下がっています。人によっては「原材料だけなら300円で行ける」と豪語する人もいますが、カフェで「ハンバーガー1個3000円ぐらいなら行けるんじゃない」という感覚になってきています。技術が発展していく初期段階では、どうしても規模は小さいし単価も高くなりますが、この10年で1万分の1のコスト削減が実現ました。

期待バブルとVRの教訓——「金目当ての人は去った」

スタクラ:

細胞農業業界は大きな調整期間を経験したと聞きました。

羽生 雄毅:

3〜4年前から特に4年前からどこどこが何百メーカー何億ドル調達したとか、そういう話ばっかり盛り上がっててなんか、いろいろもてはやされたりとかしたけど、期待バブルってやつですよね。そうすると、業界にものすごいノイズが乗るんですよね。

なんかVRでも同じようなことが起きてて、自分はVRの最初のところで割と関わってたんですけど、VRのところに何かビジネスになるかもしれないぞって言ったときに、いろんな思惑が混ざってごちゃごちゃになっちゃう。そしてその後クラッシュして、そういう何かただ利益を追いたいやつですかね、今ほとんど去ってると思うんですけど。VRの界隈が平和になったっていうのは、そういうのもあったんですけど、その過程がちょうど今の細胞農業界隈みたいなところがあります。

本当に未来に結びつく技術とかは何なのかっていうのを、落ち着いてちゃんと取り組めるようになったっていうのはありますね。もちろんその裏返しとしては、浮ついた資金はつかなくなったんで、お金的には厳しくなったりとかはあります。これに関わってメディアに出たい、みたいなような人は寄り付かなくなったっていうのもあるんですけど、良し悪しあるわけですよね、それって。

2つのタイプが集う理由──「社会問題解決型」と「面白いもの作りたい型」

スタクラ:

現在の組織について教えてください。どんなメンバーが集まっているのでしょうか?

羽生 雄毅:

今はもういろんな人が混ざってる状態です。手を動かして物を作り続ける人とかもいるし、そういうのは何か企画をしたりとか、企画だけじゃなくてもうちょっと先までやるみたいな、いろんな人が集まってるので。

半年ちょっと前に社内研修やって、実はみんなの関心のある社会問題は何ですか、というところに関して、語り合ったりとか、理解を深めてみる、っていうのをやりました。やってみたらですね、よく調べてみたら2系統あったんですよ。一つは社会問題解決したいタイプの人。一つはこの技術で面白いものができそうだっていう人。

ところが結局同じとこに行くんですよそれって。つまり楽しい未来を作りたいだったりとか。正直どっちも有りだしなんですよね。なので、みんなの関心のあるところは違うけど、向いてるところが同じでよかったなってところはあります。

「手を動かせない」葛藤──経営者としてのアイデンティティクライシス

スタクラ:

CEOとして、ご自身でも「手を動かす」ことにこだわりがあるとお聞きしました。

羽生 雄毅:

単に喋っているだけ、マネジメントしているだけでは、いずれAIに置き換えられる時代が来る。だからこそ、手を動かすことが重要だと考えています。

昔から「面白い」と思ったら即座に手を動かすタイプでした。オックスフォード大学に入学して最初にやったのが、ペットボトルロケットランチャーの制作です(笑)「オックスフォードで最初にやることがそれか」って自分でも思いますけど、それが自分なんです。創造系のゲームが大好きで、シムシティに没頭したり、初音ミク動画を作るためにCGを勉強したり。その技術を、今度は未来ビジョンの表現にも使っています。「作る」という行為は、今も昔も変わらない自分の核心部分なんです。

スタクラ:

でも、経営者としての今は?

羽生 雄毅:

この立場では、自ら手を動かすことで現場が混乱する場面もあります。経営者としての制約もある。個人として追求したいことと、職業的な役割——その両立は簡単ではありません。

でも、だからこそ法人化を選んだんです。一人では決して変えられない「景色」がある。その景色を変えるために、この道を選びました。それが、今日お話しする採用の話にも繋がってきます。

ソーラーパンク──羽生が見る2040年の景色

技術シーズから事業へ──現在の課題と求める人材

スタクラ:

現在の事業内容について教えてください。

羽生 雄毅:

細胞培養システムの研究開発に加えて、化粧品・サプリメントのOEM/ODM事業、消耗品・装置の販売などを展開しています。物の売買だけでなく、技術支援、共同開発、さらには地域創生プロジェクトまで、様々な形でビジネスを展開しています。

スタクラ:

現在の課題は何でしょうか?

羽生 雄毅:

いろんなアイデアや技術シーズはたくさん出てきているんですけど、それを事業として成立するような形で企画提案するというところが課題になっています。共同創業者の川島や田中が最前線で動いていますが、もっと人材が必要です。

「作るものは食に収まらない」——将来はソーラーパンクまで

スタクラ:

中長期的にはどんな未来を描いているのでしょうか?

羽生 雄毅:

短期的なテーマは食やコスメです。でも、作るものはそれだけに肉に収まらないと思うんですよね。今後は革のような動物性素材があります。弊社の培養技術の強みは動物の血液の成分を装置内で作り出すことです。それができれば、これまで動物から取って生産したもの、例えば肉とか革とか、幅広いモノが細胞培養でできるようになります

細胞培養技術の可能性は、食品の枠を遥かに超えています。再生医療の分野で、細胞培養技術が革命的な役割を果たす未来も想像できます。もちろん医療分野は規制も厳しく、まだまだ先の話ですが。

この辺になってくると、インテグリカルチャーとして公に語れる範囲を超え始めるんですけど(笑)。SF的な話に聞こえるかもしれませんが、技術的な道筋は見えているんです。

「最近わくわくするのは、『ソーラーパンク』という概念が広まってきていることです。私が昔から作っていた映像や画像は、まさにソーラーパンクというジャンルだったんです」

スタクラ:

「ソーラーパンク」という言葉が印象的ですが、どんな世界観なのでしょうか。

羽生 雄毅:

テクノロジーと自然が調和した世界です。太陽光パネルや風車があって、緑が豊かで。そこに細胞農業が重要なインフラとして組み込まれている。大企業から個人まで誰もが参加できるエコシステムが構築されている、そういう景色です。

スタクラ:

際限ないですね(笑)

羽生 雄毅:

だから面白いんです。これが「文化を増やす」ということ。選択肢を増やすこと。可能性を広げるということです。

こんな人には向いていない──正直な採用メッセージ

スタクラ:

ここまでお話を伺って、インテグリカルチャーの独自性がよくわかりました。では、どんな人に来てほしいのでしょうか?

羽生 雄毅:

その前に、正直に言っておきたいことがあります。「こんな人には向いていない」という話を。

スタクラ:

珍しいですね(笑)普通は「こんな人が向いている」から話すものですが。

羽生 雄毅:

正直に言います。華やかさを求めるなら、ここは向いていない。すぐに大きな収益が上がる事業ばかりではないし、認知度向上のための地道な啓蒙活動も必要です。「スタートアップで一発当てたい」「すぐに大きな成果が欲しい」という方には、正直おすすめできません。

業界は大きな調整期を経ました。数年前は大型調達のニュースが飛び交っていましたが、今は違います。派手さは減ったかもしれない。でも、だからこそ本質的な技術開発に腰を据えて取り組める環境が整った。本当の意味でやる気のある人たちが集まってきている。私たちは、それをポジティブに捉えています。

スタクラ:

では、どんな人に来てほしいですか。

羽生 雄毅:

「目指している景色に共感できる」、つまりこういう世界に住みたいかどうかが一番大きな採用基準です。

社内研修で明らかになった2つのタイプがあります。一つは「社会問題を解決したいタイプ」、もう一つは「技術で面白いものを作りたいタイプ」。どちらも「楽しい未来を作りたい」という想いで繋がっている。

具体的に言うと、「クラフトビールのように、大企業も中小企業も個人も参加できるエコシステムを作る」というビジョンに共感できるか。「ソーラーパンクのような、テクノロジーと自然が調和した世界」を見たいと思えるか。

スタクラ:

現在、具体的にはどんな人材を求めていますか。

羽生 雄毅:

メンバーは約40名ほどです。技術シーズは豊富にあるのですが、それを事業として成立させる企画提案力が課題です。相手企業の状況を見て、「私たちの技術を使ってこういう製品・サービスを作ったら事業になるのでは」と企画提案できる人材。

でも、スキルだけじゃない。「文化を増やす」という視点を持てるかどうか。単に課題を解決するだけでなく、新しい文化を創造することで、人々の選択肢を増やし、より豊かな社会を作る。そういう感覚を持てる人と働きたいです。

一緒に「景色」を変えたい方、ぜひ声をかけてください。

【社員から一言】同人文化とエコシステム創造の共鳴

スタクラ:

田中さんは、なぜインテグリカルチャーに?

インテグリカルチャー株式会社 事業企画部 田中氏(以下敬称略):

私自身、コミケで同人活動をしていた経験があるんです。羽生が語る「文化を増やす」というビジョンに、すごく共感しました。

普通だと「市場を取る」「シェアを拡大する」みたいな利益を最大化する話に重きを置きがちじゃないですか。でもここは違う。「クラフトビールのように、大企業も中小企業も個人も参加できるエコシステムを作る」。この発想が、同人文化の精神と重なって見えたんです。

同人誌って、商業じゃない。でも文化を作ってる。二次創作もあれば、オリジナルもある。大手サークルもあれば、初参加もいる。みんなで一つの「場」を作っている。それと同じことを、細胞農業という産業でやろうとしている。他方その過程では、技術としての経済性や安全面は当然意識しなくてはなりません。しかし、そういう現実的な面と向き合う日々も、社会実装に向けた取り組みと前向きに捉えています。

スタクラ:

実際に入社して、どうですか。

田中:

社内研修で「みんなの関心のある社会問題は何か」を語り合ったとき、面白い発見がありました。「社会問題を解決したい人」と「技術で面白いものを作りたい人」の2タイプがいるんですけど、どちらも結局「楽しい未来を作りたい」という想いで繋がっている。

この一体感が、インテグリカルチャーの強みだと思います。事業開発や対外折衝を担当していますが、日々新しい出会いがあり、本当に「産業を作っている」実感があります。

編集後記

「法人化には葛藤もあった。でも、文化を増やすために決断した」——羽生さんはそう語ってくれました。
ニコニコ動画や同人文化、オープンソース。個人の創造性から始まるムーブメントを大切にしてきた羽生さんが、なぜ“会社”という形を選んだのか。その理由はとてもシンプルで、でもとても覚悟のいるものでした。技術だけじゃ、社会は変わらない。だからこそ、「文化を増やす」。その言葉に、羽生さんのすべてが詰まっていた気がします。
インテグリカルチャーがつくろうとしているのは、スタートアップの“成功”だけではなく、社会全体の“景色”を変えること。この記事を読んで、少しでも「面白そう」と思った方がいたら、ぜひ一度、門を叩いてみてください。
未来は、きっと、あなたの想像より自由で、ずっと楽しいはずです!

この記事を書いた人

岩城 レジナ暁美


レジナ暁美 岩城

岐阜大学工学部卒業後、名古屋大学発スタートアップにて一人目法人営業、CA、その他なんでも屋として従事。その後、パーソルテンプスタッフ(株)にて製造業での技術職を経験後、リクルートのグローバルブランドであるRGFにて建設業・再生可能エネルギー業界を対象とした両面型エージェントを経験。スタクラの「次の100年を照らす、100社を創出する」そして「起業家ファースト」に共感し2024年11月に参画。 スタートアップへの思い:スタクラを通して未来を照らすスタートアップ企業様を採用という側面で全力で支えていきたいです!