法人化に踏み込んだ理由。それは、文化を増やすために~SF少年が同人サークルから産業エコシステムを創るまで

インテグリカルチャー株式会社代表取締役 CEO 羽生 雄毅氏

オックスフォード博士、元東芝研究員、そして同人サークル出身のCEO——一見すると交わらないキャリアを持つ羽生雄毅さん。「法人化には葛藤もあった」と率直に語る彼が、なぜあえて会社という形を選んだのか?
それは「文化を増やす」ため。ニコニコ動画やコミケで育った価値観を持ちながら、遺伝子組み換え食品の轍を踏まないために、クラフトビールのような産業エコシステムを土壌から創ろうとしています。
Discord/Slackで育てた400名超のコミュニティからは、日本細胞農業協会や大手企業の細胞農業担当者が続々と輩出。培養肉のコストは10年で3000万円から3000円へ、1万分の1に。でも彼が目指すのは、技術革新ではなく「文化をつくる」こと。

羽生 雄毅氏

代表取締役 CEO
羽生 雄毅氏

2010年、University of Oxford Ph.D (化学)取得。東北大学 PD研究員、東芝研究開発センター システム技術ラボラトリーを経て、2015年10月にインテグリカルチャーを共同創業。

インテグリカルチャー株式会社

インテグリカルチャー株式会社
https://integriculture.com/

設立
2015年10月
社員数
31~人

インテグリカルチャー株式会社は、独自開発の汎用大規模細胞培養技術「CulNet® System」を核に、細胞農業の社会実装を推進するスタートアップです。​
食品原料のみで構成された基礎培地「I-MEM」の開発に成功し、培養肉の安全性とコスト面での課題解決に貢献しています。​
さらに、細胞農業の社会実装を加速すべく、培養資材や技術知見を共有するマーケットプレイス「勝手場(Ocatté Base)」を運営。加えて、細胞培養技術を応用した化粧品原料「CELLAMENT®」を活用し、自社スキンケアブランド「CELLAFTY」も展開するなど、培養技術を軸に多角的な価値創出を行っています。

3歳からのSF少年──「タイムマシンはまだ早いけど、培養肉は今だ」

スタクラ:

まず、羽生さんのバックグラウンドについて教えていただけますか。細胞農業に取り組むようになったきっかけは何だったのでしょうか? (※細胞農業:生き物から採取した細胞を育てて資源をつくること)

インテグリカルチャー株式会社 代表取締役CEO 羽生雄毅氏(以下敬称略):

根源的なところは、もう記憶が積み上がった3歳4歳の頃からSFの世界とか創作物とかロマンがあるっていう感じで、もうずっと来ちゃってるってやつですけど。ただアンパンマンだって仮面ライダーの変身ベルトができてみればSFじゃないですか。バイキンマンが乗ってるのもUFOだし。そんな感じで、なんかSFとか未来的なものがかっこいいなみたいな思いのままそのまま来ちゃってます。

スタクラ:

それが進路選択にも影響されたんですか?

羽生 雄毅:

そうですね。SF的なことをやりたいんだったらやっぱ理系だよなと。理系の中でも、原理を突き詰める物よりも何か物を作る方だなって思い、工学科を選択しました。
その後、オックスフォード大学で化学を学び、博士号を取得しました。その後は、SF的なもので製品に直接結びつくようなもの、未来を感じるものをやりたいなと思い、21世紀半ばの景色から連想して近未来SF定番の、太陽光パネルがいっぱい敷き詰められて風車が並んでるような、そういった知識もロマンがあるなと考えたことから環境エネルギー、太陽電池、蓄電池、燃料電池、この辺でポスドクの就職活動をして、その結果、東北大学から東芝で蓄電池の研究に携わることになりました。

タイムマシンから培養肉へ──「今やるなら一番面白い」

スタクラ:

培養肉に着目されたのはいつ頃だったのでしょうか? (※培養肉:一般名称は細胞培養食品または細胞性食品)

羽生 雄毅:

2014年の話ですね。常にもっと先端的なものをやりたいなと思ってたんですけど、タイムマシンはまだちょっと早いなとか、そう考えてるうちに、培養肉はちょうど今ぐらいじゃないかな、と思って。十分SF的なんだけど技術の原理的にはいけるはずだし、でもなんかただ誰もやろうとしてないからできないだけみたいな。なんか今やるなら一番面白いんじゃないかっていうことでした。

ただ自分は、細胞培養やったことはないし、技術的にはどうも再生医療が使える、転用できるらしいと。でも再生医療のバックグラウンドもないし。お金もないし。なんかもうとにかく人を集めるところからスタートしたんですね。

「アンチ資本主義を超えたアンチビジネス」──同人サークルからの出発

スタクラ:

最初からビジネスとして始められたのですか?

羽生 雄毅:

当時の自分の自我が、ニコニコ動画育ちみたいなところがあって。なんかアンチ資本主義を超えたアンチビジネスみたいなところがあって(笑)オープンソースプロジェクトで全部やった方が面白いじゃん、みたいな。商業とかじゃなくてとりあえずやろう。もう、そんなノリで始めたところもあります。

それで一番最初にスタートをしたのが「Shojinmeatプロジェクト」という、同人サークルですね。要するに自宅で培養肉を作ると、とにかくDIYで細胞培養しちゃうと。それで実際に何かニコニコ超会議で出したりとか、ステージ側で登壇したりとか、そんな活動とかいろいろやってたんです。

どこかで限界の壁にぶつかる──遺伝子組み換え食品の繰り返し

スタクラ:

それがなぜ法人化へと進むことになったのでしょうか?

羽生 雄毅:

どっかで限界の壁っていうのは残念ながらぶつかるわけなんですよね。そういう中で、なんかアンチビジネスみたいな、ヒッピーみたいなとこもあるんだけど、現実的な懸念もやっぱりあって。遺伝子組み換え食品の繰り返しですよね。市民団体が何言っても結局大企業に飲まれるんですよね、で終わっちゃうんですよ。なので培養肉を含む細胞農業も簡単にそうなることが予想できる。

アンチビジネスのまま突っ走っても現実の壁があるかといって、ビジネスの方に振ったら確実に詰まってしまうっていう中で、エコシステムを一つ作ることが必要だっていう結論に至って、今は土壌から育てて作り直すみたいな感じなんです。そこからですね。

スタクラ:

そこで法人化を決断されたんですね。

羽生 雄毅:

そこで何か今後利益相反だとかそういう大人の事情が障壁になったんですけどね。とにかく先端的なことをNPO法人としてまともなところでコミュニケーションする人たちと、あと物流インフラを作る、っていうところに役割が分かれて来た。揉めるときの争点になりがちの知的財産に関しては、作り方そのものは公開で、大規模化の方法っていうところを知財として保護っていう、そういう方向性で、もう当時のメンバーみんな納得して。それがこの産業の一番上のところでビジョンである、「みんなが使える細胞農業」っていうところにも繋がってるんです。

スタクラ:

「法人化には葛藤もあった」という想いは、今も残っているのでしょうか?

羽生 雄毅:

正直、今でもつらいとこはありますね(笑)この立場になっちゃうと自ら手を出して逆に現場が混乱させてしまいますし。

個人的アイデンティティと職業的アイデンティティが分離するところが、現場の人たちを見ていて羨ましいこともありますね。こういうのもなんか法人化に葛藤があった理由の一つでもあるんですけどね。でも、「文化を増やす」って「町を作っていく」とか、そうなったときに会社にした方がいいんじゃないかっていうふうに転換したんです。

ニコニコ動画、コミケ、初音ミク──「文化を増やす」という原点

スタクラ:

羽生さんの根底にある価値観について、もう少し詳しく教えてください。なぜ「文化を増やす」ことにこだわるのでしょうか?

羽生 雄毅:

SFへの憧れだけじゃなくて、自分もコミケに出展していたことがありますし、クリエイターの文化が根本的なところにあるんです。実は同席している田中も同人誌出してたことあるんですよ。ニコニコ動画で育って、初音ミク動画を作るためにCGを勉強したりとか。そういうインターネットカルチャーが自分のバックグラウンドなんです。

やっぱり同人コミケもそうだし、そういう何かクリエイターとか。言ってみれば文化を増やすっていうのが実は根本的な精神的なところにあるんですよね。単に課題を解決するだけじゃなくて、新しい文化を創造することで、人々の選択肢を増やし、より豊かな社会を作ることができる。それが「文化を増やす」という意味です。

スタクラ:

それが細胞農業とどう繋がるのでしょうか?

羽生 雄毅:

ちょっとクラフトビールに近いかもしれないです。小中規模もいれば、国内大手やグローバル会社みたいなのもいるし、日本だとちょっと違法になっちゃうけど、海外だと個人でビール作る人もいるじゃないですか。ああいう形でいろんなものが世に出てくる、というような景色ですね。大小様々な事業者、個人も含めて。それが「みんなが使える細胞農業」の理想像です。

安いとか美味しいという話よりも、最初に登場するのは「サブカルフード」だと予想しています。地域名産品、サイバーパンク食品、SFの世界でよく出てくる完全栄養食。カルチャー色の強いものから始まる。それが面白いんですよね。

Shojinmeatコミュニティが生んだ産業人材

スタクラ:

Shojinmeatプロジェクトのコミュニティは、どのように成長していったのでしょうか?

羽生 雄毅:

ニコニコ超会議に出展したり、Discord/Slackでコミュニティを育てていきました。国内で200人以上、英語チャンネルでも200人ぐらい参加していて。このコミュニティから多くの人材が輩出されているんです。

日本細胞農業協会の設立メンバーや、農水省フードテック官民協議会の細胞農業部門で活躍するメンバーが生まれました。万博に出展している企業の細胞農業担当者も、元々ここのコミュニティにかかわってたんです。これが「エコシステムを土壌から作る」っていうことなんですよね。

独自の知財戦略

スタクラ:

オープンソースとビジネスをどう両立されているのでしょうか?

羽生 雄毅:

「作り方そのものは公開で、大規模化の方法を知財として保護する」というアプローチを取っています。ユーザーが独自の知的財産を生み出せる余白がある技術でないと広がらないと思うんです。全部を囲い込むような設計では、エコシステムは成り立ちません。

この記事を書いた人

岩城 レジナ暁美


レジナ暁美 岩城

岐阜大学工学部卒業後、名古屋大学発スタートアップにて一人目法人営業、CA、その他なんでも屋として従事。その後、パーソルテンプスタッフ(株)にて製造業での技術職を経験後、リクルートのグローバルブランドであるRGFにて建設業・再生可能エネルギー業界を対象とした両面型エージェントを経験。スタクラの「次の100年を照らす、100社を創出する」そして「起業家ファースト」に共感し2024年11月に参画。 スタートアップへの思い:スタクラを通して未来を照らすスタートアップ企業様を採用という側面で全力で支えていきたいです!

インテグリカルチャー株式会社

インテグリカルチャー株式会社
https://integriculture.com/

設立
2015年10月
社員数
31~人

インテグリカルチャー株式会社は、独自開発の汎用大規模細胞培養技術「CulNet® System」を核に、細胞農業の社会実装を推進するスタートアップです。​
食品原料のみで構成された基礎培地「I-MEM」の開発に成功し、培養肉の安全性とコスト面での課題解決に貢献しています。​
さらに、細胞農業の社会実装を加速すべく、培養資材や技術知見を共有するマーケットプレイス「勝手場(Ocatté Base)」を運営。加えて、細胞培養技術を応用した化粧品原料「CELLAMENT®」を活用し、自社スキンケアブランド「CELLAFTY」も展開するなど、培養技術を軸に多角的な価値創出を行っています。