つくばという最高の研究環境に身を置けることが魅力
NIMS発スタートアップで働く魅力はどんなところにありますか。
「研究学園都市」と言うくらいで、つくばは環境そのものがとても研究開発に適していると思います。筑波大学があって、産総研があって、JAXA、KEK、国環研、農研機構など、各分野の拠点が一堂に会していますし、物質材料に留まらず、必要な技術領域を大きく広げてコミュニケーションを取りながら、スタートアップとして好ましいかたちで成長していける環境だと感じています。
また、スタートアップ側の大きなメリットとして、NIMSの研究スペースや最先端の装置を格安で利用できるという点も挙げられます。ディープテックスタートアップは専門性の高さがビジネス上の武器になる反面、活動環境にお金を掛けないと成長が滞ってしまいます。
そういった設備コストの部分でNIMSのサポートを受けながら、かつ、他の研究者とのふれあいで刺激を得ることもできるので、日本の材料研究であれば、最先端の情報が最も手に入りやすい場所だと言っても良いと思います。
ご自身の専門分野はもちろん、専門外でも相談できる人がいるかもしれないので、この環境を大いに活用していただきたいです。現状、草の根で創業者同士のネットワークができているとも聞きますし、当然ながら、スタートアップ支援室でもコミュニケーションのきっかけとなる仕組みを構想中です。
研究者育成の部分ではいかがですか。
NIMSでは「自由発想研究」といって、「研究者は、年間仕事時間のうち50%を自分の興味ある研究に振り分けて良い」といった決まりがあります。NIMSのミッションをこなしつつ、自身の研究もしっかり進めることが育成につながるというか、「求められている仕事」と「探求心を満たす研究」の両輪が回ってこそ、研究者としての「研究力」が高まると考えられています。前理事長も現理事長も研究畑出身なので、こういった発想が生まれたのではないでしょうか。
また、「スタートアップで働く」という話とは少しズレるかもしれませんが、NIMSも含めて考えると、女性のリスキリングにもマッチするのではと感じています。例えば、最初からスタートアップに行くのではなく、NIMSで働いた上でスタートアップに転職する方もある程度いらっしゃいます。
我々の仕事はスクラップ&ビルドが中心で、これといった資格やスキルを求めていると言うよりも、とにかく動ける人、やる気を持ってチャレンジできる人が適している環境です。それゆえに、産休や子育てでいったんキャリアに空白ができてしまった女性が改めてチャレンジする場としてNIMSは相性が良いのではないでしょうか。
いきなりスタートアップに行くというのが難しいのなら、NIMSに入って、オフィス業務で体を慣らしつつ、頑張っているスタートアップの姿を見て、「いいな」と思ったら飛び込んでみる。そんな流れもありだと思いますね。

インタビューはNIMSで行った。(先進構造材料研究棟にて撮影)
人間同士のすれ違いのケアにも力を入れていきたい
NIMS発スタートアップの課題や、ミスマッチの事例があれば教えてください。
アカデミア発スタートアップに限らないことかもしれませんが、やはり「人材不足」が大きな課題ですね。研究者から起業相談を受ける際に最も多いのが、「一緒に頑張る仲間が見つからない」というものです。ビジネス人材、経営者の不在はやっぱりありますね。ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社や、TCI(つくば研究支援センター)といった支援センターにお繋ぎしてチーム作りのサポートはしているのですが、そもそも支援側の仲間が足りていない実態があり、私の中では解決すべき大きな課題だと感じています。
基本的にスタートアップ側の採用情報はこちらに入ってこないのですが、聞いている感じだと、研究者と経営層の認識の違いによる軋轢はあるようです。人間同士の価値観の違いによる「こんなはずじゃなかった」という失敗は起きやすいのかもしれません。そういった部分のケアも、スタートアップ支援室でやっていけたらと考えています。
NIMSを媒介にしてスタートアップを選ぶこともできる
最後に、NIMS発スタートアップで働こうと考える人へ背中を押すようなメッセージをお願いします。
スタートアップで働こうという人たちは、「人間同士の相性」といった部分に不安を持つ人が多いのかなと感じています。でも、NIMSの場合は、最初にうちで働いて、NIMSのスタートアップの活動を俯瞰した上で「このスタートアップだったら入ってみたいな」という企業を見つけてそこに移る、といった流れも可能だと思います。もちろん、「これだ」というスタートアップが決まっているのなら、そのままダイレクトに行っていただければ良いのですが、不安になるようなら、いったんうちに声掛けしてもらうという方法もあります。
また、現時点ではEIR制度はないのですが、NIMSに合った仕組みとしてEIRのような制度を検討できればと考えています。NIMSのスタートアップについて問い合わせしていただくことは常に歓迎しておりますので、ご興味がある方は、ぜひご相談いただければと思います。
貴重なお話、ありがとうございました。