研究者の育成と起業を促し、世界に変革をもたらし続ける

国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)外部連携部門 スタートアップ支援室 エンジニア(主任相当職) 藤崎 百合恵氏

テクノロジーの力で、NIMS発スタートアップは世界に変革を起こしている

スタクラ:

NIMS発スタートアップの実績を教えてください。

藤崎 百合恵:

単結晶の育成・加工技術で有名な株式会社オキサイドや、超断熱素材「TIISA」を開発した株式会社サーマリティカなど、各分野で活躍している上に、まだまだ伸びしろの大きな企業がいくつもあります。
ほかには、株式会社キューセプションも価値の高い成果を生んでいます。彼らは匂いセンサーの開発を行っているのですが、従来からあるような元素分布を見て匂いを分析するかたちではなく、化学的に人間の嗅覚を模倣した高感度なセンサーを作り上げました。
例えば、りんごの成熟度を知りたい場合、これまでなら果実を破壊しないといけなかったのですが、キューセプションの技術を使えば、匂いだけでそれがわかるんです。もちろん、彼らの匂いセンサーの技術はりんごだけでなく、匂いのするものなら、お酒でもチョコレートでも応用が可能です。

つまり、果物の収穫やお酒の醸造など、これまでは職人技が必要だった世界がテクノロジーで代替できるかもしれないということです。
こういった個性的な研究をしているスタートアップが多いのは、NIMSの特徴だと思います。
世界で活躍しているNIMS発スタートアップはほかにもあります。例えば、2024年に設立されたSPHinX株式会社は、「スマートポリマー」という新素材をコア技術として、感染症診断などのヘルスケア分野で成果を挙げています。
アフリカや中東諸国といった、コストや設備事情によってPCR検査が満足に実施できない場所においても、SPHinXの作った検査キットを用いれば、PCRと同等レベルの高精度でB型、C型肝炎や、HIVのようなクリティカルな感染症を診断することが可能となります。

NIMSにおけるスタートアップ支援の概念図

研究者と企業の架け橋となるべく、様々なサポートを提供

スタクラ:

藤崎さんご自身がNIMSでスタートアップ支援に関わるようになった背景について教えていただけますか。

藤崎 百合恵:

私がNIMSに来たのは2017年のことです。それまではメーカー企業で発電所の設計評価などの業務を担当していました。
最初からスタートアップに携わっていたわけではなく、NIMSに来た当初はシンプルに「企業と研究者の架け橋」として活動していました。共同研究や特許ライセンスといった契約面の補助や、研究者が価値ある研究成果を企業にアピールするためのイベントを企画したりしていましたね。なので、スタートアップにフォーカスするようになったのは、2024年7月にスタートアップ支援室が立ち上がったのとほぼ同時なんです。
スタートアップ支援室に異動してからは毎日が勉強の日々でした。今は支援の土台作りを始めとして、エコシステムをどう作るか、ソフトインフラ的なところをNIMSらしさの中にどう落とし込むか、といった基礎的な部分を模索しています。
私がスタートアップ支援の部署に関わるようになった背景には、NIMSでは比較的珍しい「エンジニア」という職種で働いていたことがあります。他の職種に比べて異動が少なく、結果としてNIMSの文化や組織の雰囲気といった、非言語的な部分を蓄積できたと感じています。NIMSに入ってから8年ほど、企業連携室に所属していたので、NIMSの研究者と外部企業をつなげるコミュニケーションは数多く経験してきました。イベント企画など、広報的役割も担っていましたし、そうした経歴が今の仕事に生きている気がします。

この記事を書いた人

スタクラ編集部


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