遺伝性難聴治療薬の開発に挑む 株式会社ギャップジャンクション神谷代表が語る大学発創薬ベンチャーの挑戦と未来

株式会社ギャップジャンクション(Gap Junction Therapeutics, Inc.)代表取締役 神谷 和作氏

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「聴こえと健康により豊かな生活を実現する」というミッションを掲げ、遺伝性難聴の治療薬開発に取り組んでいるギャップジャンクション社。設立から4年で従業員数は10名を超え、2024年06には大手創薬メーカーとの業務提携を発表するなど、これまで順調に業容を拡大しています。
しかし、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなく、さまざまな課題や壁にぶち当たりながらの船出でした。

ギャップジャンクション社代表取締役の神谷氏は、順天堂大学にて研究者として独自の遺伝子細胞工学技術を探究し、複数の特許を取得した実績があり、その成果を社会実装する目的で起業しました。遺伝性難聴という根本的治療が最も難しい疾患に対し、どのように挑み、どのように事業を成長させるのか。創業までのストーリーや創薬への想い、そしてIPOを見据えた今後のビジョンについて詳しく伺いました。

神谷 和作氏

代表取締役
神谷 和作氏

医学博士、獣医学博士。東北大農学部卒。東京大学獣医実験動物学教室にて博士号取得。理化学研究所、東京医療センター、マイアミ大学医学部、パスツール研究所(Christine Petit研究室)にて遺伝性難聴と内耳研究の最先端技術を習得し多くの実績を挙げる。
2008年から順天堂大学講師、2014年から同准教授。独自の遺伝子細胞工学技術により6事業のAMED事業の代表者として難聴医薬品開発のための遺伝子治療用AAVベクター(※1)や薬剤スクリーニング(※2)技術、疾患モデル細胞作製技術など多くの新規技術を開発してそれらの特許を出願。これらの特許技術を元に2021年に株式会社ギャップジャンクション(Gap Junction Therapeutics)を創業。

※1:遺伝子治療に用いられるウイルスベクターの一種。増殖細胞と非増殖細胞のいずれにも遺伝子導入が可能などの特徴を持つ。
※2:疾患を改善する作用を持つ物質を複数の薬剤候補の中から選別すること。

株式会社ギャップジャンクション(Gap Junction Therapeutics, Inc.)

株式会社ギャップジャンクション(Gap Junction Therapeutics, Inc.)
https://www.gapjunction.jp/

設立
2021年04月
社員数
10名

≪ミッション≫
聴こえと健康により豊かな生活を実現する
≪事業分野≫
医療・医薬
≪事業概要≫
難聴及びギャップジャンクション(※)関連疾患を対象とした医薬品の開発及び開発支援

※ギャップジャンクション(gap junction)とは、隣り合う細胞の細胞質をつなぐ交通性結合です。細胞間で物質やイオンの交換を可能にし、細胞の分化や発生、電気的共役などの機能を媒介しています。

根本的な治療が困難だった遺伝性難聴への挑戦

スタクラ:

最初に神谷さんが医療業界を志したきっかけを教えていただけますか?

株式会社ギャップジャンクション 代表取締役 神谷和作氏(以下敬称略):

父親が大学で医療分野の研究者であったため、自分も同じ道を進むことに決めました。大学では農学部の応用動物科学コースを志望し、有用動物の生産・代謝・機能など動物生命科学を研究しました。具体的には、動物に感染する寄生虫の研究になります。
その後、東京大学大学院で実験動物学の研究に入り、そこで難聴の動物と難聴の遺伝子に関して探究しました。つまり、大学院の博士課程における研究テーマが起業の源になっているということです。

スタクラ:

研究テーマであり起業のきっかけでもある「難聴」について少し詳しく教えていただけますか?

神谷 和作:

大体1000人に1人ぐらいは難聴で生まれてくると言われています。さらに、その中その半数は遺伝子に何かしらの異常を持ってるというデータがあります。若年発症型難聴をテーマにしたテレビドラマもあったので、みなさんある程度は知っているかと思います。実は遺伝子疾患の中ではかなり多い部類であるのですが、過去においては治療が非常に難しかった疾患でもあります。

創薬をめざすプロセスで感じた大手企業との溝

スタクラ:

難聴の研究から起業に至るまでの経緯をお聞かせください。

神谷 和作:

大学の研究室では、遺伝性難聴患者のモデルとなる疾患モデル動物での聴力回復に初めて成功したという実績があり、その後フランスのパスツール研究所で出会った教授に声をかけていただき、順天堂大学に着任しました。

研究を進める中で、関連する難聴医薬品開発の技術を複数開発し、これらを特許出願しました。特許を維持するためには「製薬企業への導出」または「自身でベンチャーを創業して自身で実用化活動を行う」という選択肢のどちらか一方を選択する必要があります。

ただ、いくつかの大手製薬企業と協議をする中で、難聴医薬品は専門性が非常に高いため、一般の製薬企業のフォーカスエリアから外れており、大手製薬企業では開発の稟議が通りにくいと感じました。端的にいうと優先順位が低いということです。

そのようなことが積み重なり、自身で難聴医薬品のスタートアップを起業して事業化のための開発を進める決断に至りました。

開発チームの主要メンバー

開発チームの主要メンバー

ピッチコンテストで1位を獲得し実用化へ弾み

スタクラ:

社名となっているギャップジャンクションとはどういう意味でしょうか?

神谷 和作:

我々が対象としている遺伝子がギャップジャンクションという名称になります。難聴だけでなく、さまざまな遺伝子疾患の原因となることが多い遺伝子であり、これを一番のターゲットにしているという想いを込めて社名にしました。

スタクラ:

ギャップジャンクション社の現在の事業内容を教えてください。

神谷 和作:

遺伝性難聴への遺伝子治療のためのアデノ随伴ウィルスベクターや発現プロモーターなどの遺伝子治療のためのツールを開発し、臨床応用への最適化を行っていいます。具体的には難聴治療のための遺伝子治療薬の製造、内耳投与技術とデバイスの開発、安全性試験を進め、遺伝性難聴の患者様への実用化をめざしているところです。
2022年にはベーリンガーインゲルハイムイノベーションプライズ(※)で『聴覚障害への遺伝子治療および薬剤の開発』をテーマに事業ピッチを行い、1位を獲得しました。バイオ医薬品によって難聴が改善する可能性が示されるとともに、実用化に大きく近づいた受賞でした。

※医療・バイオテクノロジー分野における研究者や起業家、スタートアップ企業の革新的なアイデアの実現やシーズの育成を支援するピッチ・プレゼンテーション・コンテスト

実験により難聴動物の聴力が回復した時の喜び

スタクラ:

事業を軌道に乗せていく過程での喜びや苦労した点などをお聞かせください。

神谷 和作:

難聴治療のための医薬品が細胞で選抜され、その試験が成功して難聴動物の聴力が回復した時に達成感があります。標的とする内耳の組織は頭蓋に埋め込まれた非常に微細な組織であり、生きたままモニタリングすることが不可能であるため、開発までに何度も失敗を重ねることに大きな苦労がありました。

後は、先ほどお話しした大手企業との提携における難しさですね。未開拓の分野として興味を持っていただくことはあるのですが、稟議過程で却下されてしまうことが多く、これまでの苦労が水泡に帰すこともありました。

難聴治療の専門家として日本をけん引する役目

スタクラ:

いろいろな逆風が吹く中でのチャレンジですね。

神谷 和作:

現在の研究内容は必ず製品化できると確信していますし、アメリカやフランスなどの諸外国にいえる仲間たちにも成功事例が出てきているので、日本でもやらなければという使命感があります。

世界の流れ的には、難聴治療薬の実用化に向けての開発試験が動き出すだろうという雰囲気を感じています。

スタクラ:

最後に、ギャップジャンクション社の将来に向けた意気込みを聞かせてください。

神谷 和作:

遺伝子治療の開発により、これまで不可能とされていた遺伝性難聴の開発が現実味を帯びてきました。今後は全てのタイプの遺伝性難聴への医薬品を開発し、老人性難聴への治療にも取り組みたいと考えています。また、ギャップジャンクションという分子は皮膚、心臓など多くの組織に存在するため、ギャップジャンクション分子が関連する多くの疾患への治療法開発にもチャレンジしたいですね。

そのためには、製薬企業のノウハウが必要となるため、製薬企業の開発部門経験のある方や医薬品の承認などの業務経験者がいると心強いです。また、経営に特化した人材という意味では、バイオベンチャーを経営された経験のある方など、内側から会社を引っ張っていくような役割を担ってくれる方が欲しいと考えています。

将来的な資金調達やIPO、もしくはM&Aなど、さまざまな選択肢がありますが、難聴の患者様に我々の薬を届けたいという目的を達成するため、この会社をさらに成長させ、多くの方にご支援いただきたいと考えています。

スタクラ:

貴重なお話、ありがとうございました。

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スタクラ編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」スタクラの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

株式会社ギャップジャンクション(Gap Junction Therapeutics, Inc.)

株式会社ギャップジャンクション(Gap Junction Therapeutics, Inc.)
https://www.gapjunction.jp/

設立
2021年04月
社員数
10名

≪ミッション≫
聴こえと健康により豊かな生活を実現する
≪事業分野≫
医療・医薬
≪事業概要≫
難聴及びギャップジャンクション(※)関連疾患を対象とした医薬品の開発及び開発支援

※ギャップジャンクション(gap junction)とは、隣り合う細胞の細胞質をつなぐ交通性結合です。細胞間で物質やイオンの交換を可能にし、細胞の分化や発生、電気的共役などの機能を媒介しています。