
多種多様なテクノロジーの進展により、理学療法業界にもさまざまなICT革命が起きつつあります。
大規模な設備が必要であった人間の動作解析も、スマホと簡易的な歩行計測システム等で実現できる時代。機能回復がメインであったこれまでの理学療法も、より幸せで豊かな生活を提供する役目へと移行していく必要があると考えられています。
そんな未来を見据え、理学療法×医療テクノロジーの可能性を探究し、社会実装につなげている会社があります。
単にリハビリテーションを必要としている障がい者だけでなく、健康に気を使う多くの人々を対象とし、運動指導のパーソナライゼーションやコンサルティング等を通して健康的な生活の実現をサポートする順天堂大学発のベンチャー企業、株式会社Smile LOCOtの代表松田雅弘氏にお話をお伺いしました。

CEO 代表取締役社長
松田 雅弘氏
東京都立保健科学大学を経て、直接大学院修士課程に進学するとともに近隣の病院に勤務、その後神奈川の療育センター、大学院博士課程へ進学。
千葉にある大学で教員をスタートし、2019年4月より順天堂大学へ着任。
2024年3月に株式会社Smile LOCOtを設立。
日本支援工学理学療法学会 理事長で活動中。

株式会社Smile LOCOt
https://smile-locot.com/
- 設立
- 2024年03月
- 社員数
- 3名
《ミッション》
テクノロジーを活用してwellbeingな社会を目指す
《事業分野》
センシング技術を用いた運動指導及び研究活動、発達・発育相談サービス
《事業概要》
・こどもの発達相談と運動を促進する教室の開校
・センシング技術・遺伝子検査を用いた個々人にあわせた運動指導の実施
・研究・健康支援の人材交流促進およびコンサルティング
- 目次 -
小児医療を通して理学療法×医療テクノロジーの可能性に光を見出す
はじめに、松田様のこれまでのご経験やご経歴をお聞かせいただけますか。
医療従事者としてのスタートは小児医療でした。中でも継続的な支援を要する障がいをお持ちの方に対しては、医師の技術と知識だけでは完治できない現状を目の当たりにして、「どうすれば生活の質を上げることができるだろうか」と考えていました。
また、脳活動と動作解析が主な研究領域であり、大学院時代に高齢者のリハビリテーションに携わった際、脳や脊髄の活動に関連した血流動態反応を視覚化する医療テクノロジーに触れ、工学との連携についての可能性に気づきました。
その後は理学療法と医療テクノロジーの掛け合わせによる医療の可能性を拓きたいと思い、研究と医療現場での実践を続けてきました。
理学療法と動作解析・AIを組み合わせたシステムの社会実装
その理学療法と医療テクノロジーの掛け合わせから生まれたのが順天堂再学発のベンチャー企業「Smile LOCOt」ですね。起業に至るまでに何か印象的なエピソードはありますか?
現在も理学療法士として病院に勤務することがありますが、その際、障がいをお持ちの方からのニーズを聞く機会であったり、リハビリテーション機器へのリクエストを受けたりして、それを研究に落とし込んできました。
しかし、研究止まりで終わってしまうことが多く、実際に困ってる患者さんまで届かないこともあります。そのため、こういった研究テーマを社会実装する場が必要であることを痛感していました。
また、健康であっても体の状態に不安がある方に対しても、万一の事態を未然に防ぐために理学療法の研究内容をフィードバックできる場があればもっと社会の役に立つと考えていました。
一方で、現在ではセンシング技術、わかりやすく言うと人の体の動作解析が非常に簡単に実現できるようになってきました。このセンシング技術とAI解析を組み合わせれば、「なんとなく調子が悪い」という方の体の動きの把握、つまり人の運動機能の見える化が実現できるようになります。

2024年12月、第13回日本支援工学理学療法学会学術大会を終えての集合写真。
人々が笑顔で過ごせるようにという想いを込めた社名・サービス
そういった経験を基に起業されたのですね。では現在の事業内容について詳しく聞かせていただけますか。
おっしゃる通り、これまでの研究テーマの社会実装を目的として起業しました。理学療法とセンシング技術を組み合わせ、日常生活での健康状態をモニタリングすることで、早期に自己の状態を把握し、健康意識を高める事業を展開しています。
また、子どもの頃からの健康・運動習慣の形成が重要であり、ライフサイクル全体を通じた健康管理の視点が必要だと考えています。そのために、体を動かすことが苦手な子どもたちを対象として、パーソナル運動教室の開催なども行っています。
弊社の社名である「Smile LOCOt(すまいる ろこ)」は、人々が自然に笑顔でいられる生活(ウェルビーイング)を実現したいという想いを込めています。「LOCOt」は移動や動き(locomotion)に技術(technology)をプラスして、人々の移動や運動をテクノロジーで支援する意図を表現したものです。
事業の拡大プロセスにおけるリソース不足が課題
社会的な意義が高い事業であるとはいえ、企業は収益ベースで考えなければならないと思います。いろいろと苦労することは多いのではないでしょうか。
最も苦労しているのは私自身のリソースの問題です。会社の代表ではありますが、大学教授としての研究や講義もあり、外部団体の役員なども兼務しているため、100%のリソースを会社経営に充てることができない状態です。
研究を進めないと社会実装もままならないため、どちらかを優先するということも不可能ですし、なかなか頭が痛い問題ですね。
幸い、研究に関するスタッフは優秀な人材が揃っていますので、会社経営についてのビジネスパートナーを確保したいと考えている段階です。
具体的にはどのような人材をパートナーとして迎えたいですか?
人の幸せを考えるビジネスなので、大前提として「優しくて温かい人」ですね。このベクトルが合致しないと弊社のパートナーとしては難しいです。
スキル的な話をすれば、医療従事者や工学系、特にAIやロボティクスに明るい方が望ましいです。
また、現場でニーズを吸い上げながらシーズと合わせていく駆動力となるような、ビジネス系のスキルを持った方も必要です。
誰もが生き生きと健康的に過ごせる街づくりを支援
最後に、会社の将来ビジョンやご自身の夢をお聞かせください。
現在、理学療法士の理事長や社団法人の理事長なども兼務しており、そこで培った人脈などをを活かしてこの会社を起業したという経緯があります。
そのため、理学療法における研究テーマのさらなる社会実装、つまり現在のサービスの柱である健康の「見える化」をAIと専門家の協働によりをさらに発展させ、皆が生き生きと暮らせる街づくりを支援することを当面の目標としています。
また、個人的な夢としては、農業と健康支援を組み合わせた地域活性化を通して、子どもと高齢者がつながるコミュニティづくりにも携わりたいと考えています。
「社会全体を変えていく」というと大袈裟ですし、私自身政治家ではないのでできることは限られていますが、生活にゆとりをもって楽しみながら健康的に暮らしていく人たちをもっと増やしたいという想いを持って、いろいろなことに取り組んでいきたいですね。
貴重なお話、ありがとうございました。

株式会社Smile LOCOt
https://smile-locot.com/
- 設立
- 2024年03月
- 社員数
- 3名
《ミッション》
テクノロジーを活用してwellbeingな社会を目指す
《事業分野》
センシング技術を用いた運動指導及び研究活動、発達・発育相談サービス
《事業概要》
・こどもの発達相談と運動を促進する教室の開校
・センシング技術・遺伝子検査を用いた個々人にあわせた運動指導の実施
・研究・健康支援の人材交流促進およびコンサルティング