採用は「3年ごしのラブレター」ーAGRIST斎藤潤一が現場でつくる、サステナブルな組織の作り方とは?

AGRIST株式会社代表取締役 斎藤 潤一氏

「地方創生」「ローカルゼブラ」――そんな言葉を聞くと、どこかキラキラしたイメージを抱く人もいるかもしれません。しかし実際に地域で事業をつくり、毎日走り続けている人たちは、そんな言葉を意識して働いているわけではありません。

宮崎県新富町を拠点に農業ロボット開発を手がけるAGRISTの代表・斎藤潤一氏は、シリコンバレーでの経験を経て、15年以上にわたり地域でビジネスを続けてきました。現在はローカル・スタートアップ協会の設立にも関わり、全国の地方スタートアップを支援しています。

地方で働くリアル、ローカルゼブラへの採用の流儀、そして東京では得られない成長機会について、率直に語っていただきました。

斎藤 潤一氏

代表取締役
斎藤 潤一氏

1979年大阪府生まれ。米シリコンバレーのITベンチャー企業で勤務後に帰国、デザイン会社を立ち上げる。2011年の東日本大震災を機に地方創生活動を開始。2017年に宮崎県新富町が設立した地域商社「一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(こゆ財団)」の代表理事に就任。2019年、40歳の時にAGRISTを創業、代表取締役に就任。慶應義塾大学大学院非常勤講師。

AGRIST株式会社

AGRIST株式会社
https://agrist.com/

VISION
100年先も続く
持続可能な農業を実現する
食料課題を解決し
全人類の幸福(ウェルビーイング)に貢献する

MISSION
テクノロジーで
農業課題を解決する
テックカンパニーとして
最高の製品をつくり社会に貢献する

CORE VALUE
YES, We Can
「できるか?できないか?」ではなく、
「やるか!やらないか!」で世界を変える

「ローカルゼブラ」は東京から見た言葉。大切なのは、その土地を好きになれるか

スタクラ:

最近「ローカルゼブラ」という言葉が広まっていますが、現場で活動されている立場からはどう見えていますか?

AGRIST株式会社 代表取締役 斎藤潤一氏(以下敬称略):

正直に言うと、ローカルゼブラって、東京から見た言葉だと思っています。

地方の現場で毎日働いている人たちは「よし、今日も僕たちはローカルゼブラだ!」とは思っていないですよね。

東京の人たちから見た言葉、という印象がどこかあります。だから、キラキラしたイメージだけを持って地方に来ると、必ずギャップが生まれる。

大事なのは、その地域で実際に暮らし、その土地の文化や人たちと向き合えるかどうかです。

スタクラ:

地方で働くうえで本当に重要なことは何でしょう?

斎藤 潤一:

その土地を好きになれるかどうかです。

会社との相性ももちろんありますが、地域そのものが好きになれれば、たとえ会社を卒業したとしても、その土地に残ったり、別の挑戦につながったりします。うちのメンバーでも辞めた後に宮崎に残って起業した人もいますし、出戻りもいます。

ローカルゼブラで長く活躍できる人って、その土地の文化や空気感——いわゆる「テロワール」(※)を愛せる人だと思いますね。

※テロワール(注:もともとはワインの世界で使われる言葉で、土地の気候・土壌・地形など、その土地固有の環境や文化的背景を指す。ここでは、その地域ならではの空気感・風土・人の気質を意味する)

採用は「ラブレター」。3年かけて口説く

スタクラ:

斎藤さんは地方での採用について、特徴的な考え方をお持ちだと伺いました。

斎藤 潤一:

最近よく言っているのが、「採用はラブレターだ」って話です。

本当に一緒に働いてほしい人に声をかけても、すぐ来てくれることなんてほとんどない。だから3年くらいかけて口説き続けるんです。

優秀な人ほど、今いる場所でバリバリ活躍していますから。でも3年も経てば、環境も変わるし、本人の考え方も変わる。その時に「そういえば声をかけてもらってたな」と思い出してもらえればいい。

最近はリファラル採用も多く、声をかけ始めるとすぐに決まることもあります。知り合いの知り合いなので価値観もブレにくいし、組織としても安定しやすいですね。

実証のために収穫ロボットの調整をするエンジニア

採用で大切にしてるのは、スキルよりも「一緒にご飯を食べて楽しいか」

スタクラ:

採用でミスマッチがないようにどのようなことに気を付けていますか?特に県外からわざわざ来てミスマッチは避けたいですし。

斎藤 潤一:

「御社のビジョンに共感しています」と言って入社してくれる方もいますが、それだけではお互いの相性までは正直分からないんです。どれだけ面接しても分からない部分はある。

極論ですが、「一緒にご飯を食べて楽しいか」です。10周まわって、そこに至っています。

スタクラ:

なるほど。ご飯を食べながらどんなことを見ているのでしょうか?

斎藤 潤一:

特にないです。自然体で、ただ一緒にご飯を食べて、楽しいと感じられるかどうかなんです。そしてこれまでも楽しく食べられる仲間と出逢えてます。

AI時代になればなるほど、価値観やゴールを共有して一緒に働きたいかどうかの方が重要になってくると思っています。

それと、ビジョンよりも価値観の方が大きい。

もっと言うと、その人自身が持っている仕事観ですね。スタートアップでは自分で考えて動くことが求められますが、大企業で「与えられた役割やミッションを確実にやり遂げる」ことで評価されてきた人は、何もないスタートアップの環境に少しギャップを感じることがある。 どちらが正しいという話ではなく、自分に合う環境かを見極めることが大切です。

辞めた後も飲みに行ける関係でありたい

スタクラ:

「会社を辞めた後も関係が続く」という視点が印象的です。

斎藤 潤一:

辞めた後も気軽に連絡できて、また一緒に仕事しようと言える。そんな関係が続く仲間が増えていく方が、結果として良い組織になる気がしています。

実際、うちを卒業して起業した人と今も業務委託で仕事していたり、別の縁でまたつながったりすることも多いです。

宮崎に移住するリアルな魅力。ここは美食の街、スペイン、サンセバスチャンを超える。

スタクラ:

東京から移住して働く人が「地方に来て良かった」と感じる瞬間はどんな時ですか。

斎藤 潤一:

人によって違いますが、某大手メーカーで働きながら宮崎に住んで、必要な時だけ東京の会議に行く人もいます。「この波があるから宮崎を離れられない」って言っていますね(笑)。東京か地方かのどちらかではなくて、二拠点でいいんですよね。

平日は東京で働いて、週末は宮崎でキャンプして、海にいったり、そこで美味しいものを食べるというスタイルもあります。

うちのメンバーでサーフィンが好きで宮崎に移住してきた人がいて、朝サーフィンをしてから出社しているんです。働くためだけに生きるんじゃなくて、自分の好きなことと仕事が自然につながっている。

そして、なんといっても宮崎は食がとにかくいい。地鶏や焼酎だけじゃなく、ローカルフードの層が厚いし、安くて、美味しくて、新しいお店もどんどん生まれていて、15年いてもまだ美食の旅が終わらないです(笑)。世界屈指の美食の街と言われるスペインのサンセバスチャンよりも宮崎の方がいいと思っていますよ(笑)

フーディーな人にとっては最高ですし、ここで過ごすことでクリエイティビティが出ます。

鹿児島県の自社農場で社員と話す共同代表取締役 秦(左)

地方移住の魅力は「コミュニティ」にある。

スタクラ:

本社のある新富町には移住者も多いそうですね。

斎藤 潤一:

そうですね。地域おこし協力隊(都市部から過疎地域などの地方に移住し、一定期間自治体の委嘱を受けて地域協力活動を行う制度 )などをきっかけに来た人もいますが、定住する人が多いです。宮崎市の方が便利なのに、新富町に住み続ける人もたくさんいます。

スタクラ:

何が新富町に引き留めるのでしょう。

斎藤 潤一:

コミュニティですね。小さな町だからこそ、人との距離が近い。「鍋パーティーやるから来ない?」みたいな誘いが自然にあって、そういう関係性を心地良いと感じる人には最高の環境です。

もちろん、人によっては窮屈に感じることもある。そこはその人の価値観との相性ですね。

地方の方が成長できる理由。意思決定者の近くで働く価値

スタクラ:

東京などの都市に比べ、「地方だと成長機会が少ない」と不安に感じる人もいますがこの点ではいかがでしょうか?

斎藤 潤一:

僕は逆だと思っています。東京の大企業だと、どうしても組織の歯車になりやすい。ワンオブゼム(※)になってしまう。でも地方スタートアップはワンオブワン。一人ひとりの裁量が圧倒的に大きいんです。

スタクラ:

具体的にはどんな違いがありますか?

斎藤 潤一:

経営者との距離ですね。地方では経営者同士でスピーディに話しが決まる。数千万、時には億単位の案件をその場で「いきましょう」って決めることがよくあります。

そのような意思決定の現場を間近で見ながら、自分自身も判断し、行動できるのはローカルならではの魅力です。

例えば大企業で社長直下のポジションに就くには、どれだけの苦労と時間と運が必要か。でもローカルゼブラなら、そのポジションに近い働き方ができます。広報でも人事でも経理でも、経営陣と直接議論しながら進められる。それは本当に大きな成長機会だと思います。

 

※ワンオブゼム(注:大多数のうちの1人)

地方でも東京よりも高い報酬が得られる時代

スタクラ:

ローカルゼブラの給与水準はどうでしょうか?

斎藤 潤一:

まず、地方だから給与が低いという単純な話ではなくなってきています。

例えば、大きな資金調達をしたローカルスタートアップでは、欲しい人材には、惜しみなく東京以上の報酬を出すケースが増えています。東京の某有名メガベンチャー勤務の人に、今以上の給与をオファーしたりという話もあります。

地方と東京の仕事格差がフラットになりつつあり、それに伴い給与格差もフラットになりつつありますね。

インタビューはAgVenture Lab(アグベンチャーラボ:千代田区)にて行った。斎藤氏(左側)と、スタクラ代表の藤岡(右側)

いきなり人生を変える必要はない

スタクラ:

地方で働くことを考えている人にアドバイスをお願いします。

斎藤 潤一:

 まずは移住しなくていいんです。副業でも、業務委託でも、二拠点でもいい。いきなり人生を変える必要はありません。

それより、まずは現地に来てみてほしい。そして昼だけじゃなく、夜も歩いてみてほしい。地元のバーや飲食店に行って、地域の人と話してみる。

そこで「この土地、なんか好きだな」と感じられたら、その先の働き方は自分で選べます。

僕自身も最初から「宮崎に移住しよう」と思っていたわけじゃありません。家賃が安い、ご飯が美味しい、そんなところから始まりました。

ローカルゼブラ採用の三原則

スタクラ:

最後に、ローカルゼブラで活躍できる人の条件を整理していただけますか。

斎藤 潤一:

僕なりに3つあります。

1つ目は、その土地を好きになれるかどうか。 会社だけじゃなく、地域そのものとの相性が大事。

2つ目は、ファウンダーや仲間と良い関係を築けるか。 すぐに経営者の側近として働くことになるので、「一緒にご飯を食べて楽しいか」が本当に重要です。

3つ目は、自分が成長できるテーマがその地域・会社にあるかどうか。 本当に優秀な人って、最初の年収よりも裁量と成長機会を重視するんですよ。

この3つが揃ったら、まず業務委託や副業で関わってみる。その上で判断すればいい。

地方には、まだまだ荒野が広がっています。東京から地方で働くことは、人生の選択肢を狭めるどころか、想像以上に広げてくれると思います。まず飛び込んでみてください。

編集後記

今回の取材で印象的だったのは、斎藤さんが「まずは来て、自分の目で見てほしい」と語っていたことでした。

「ローカルゼブラ」という言葉から漂うキラキラしたイメージとは少し違う、地に足のついたリアルがそこにはありました。価値観の一致、「一緒にご飯を食べられる」かどうか。そのシンプルな視点が、長く活躍できる人を引き寄せているのかもしれません。

「自分が心から面白いと思える場所、人、仕事があるかどうか」。その答えを探しに、まずは一度、宮崎の夜の「ニシタチ(西橘通り周辺)」 のスナックに飛び込んでみてはいかがでしょうか。

斎藤さんから、スナックを紹介するスナック『スナック入り口』がお勧めということでした(笑)

スタクラはこれからも、地域で挑戦する人たちのリアルな声を届けていきます。

この記事を書いた人

平澤美紀


平澤 美紀

大学卒業後、留学生支援事業の営業を経て、精密部品メーカーの営業事務に約19年従事。 出産を機に家庭や就業環境が変化し、今後のキャリアについて模索する中でママテラスと出会い、その後StartupMagazineにハマる。数々のCEOインタビューを読み「日本の未来を変えるのはスタートアップしかない」と確信。 未来を創る起業家を支援する想いに共感し、2024年9月に参画。双子の母。

AGRIST株式会社

AGRIST株式会社
https://agrist.com/

VISION
100年先も続く
持続可能な農業を実現する
食料課題を解決し
全人類の幸福(ウェルビーイング)に貢献する

MISSION
テクノロジーで
農業課題を解決する
テックカンパニーとして
最高の製品をつくり社会に貢献する

CORE VALUE
YES, We Can
「できるか?できないか?」ではなく、
「やるか!やらないか!」で世界を変える