「それって本当に幸せなのか?」——問い続ける人生が導いた「人間を再現する技術」への挑戦

合同会社NeuralXCEO 仲田真輝氏

幸せに正解はない。

世の中には、疑われることなく共有されている「幸せの形」がある。
いい学校に入り、いい会社に就職し、安定した生活を送ること。
多くの人が、そのレールの上を疑問なく歩いていく。

合同会社NeuralX CEO 仲田真輝氏は、その「当たり前」に、幼い頃から強い違和感を覚えてきた一人だ。研究者として、そしてアメリカを起点に起業家として活動する現在も、その姿勢は変わらない。

仲田氏が一貫して向き合ってきたのは、
幸せとは何か、人間とは何か、そして自分はどう生きるのか、という問いに対し考え続けることだった。

仲田真輝氏

CEO
仲田真輝氏

早稲田大学理工学部応用物理学科に進学し、学部・修士過程を通じ、人型ロボットのバランス制御の研究に従事。

卒業後、株式会社インテルに就職し、その後、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のコンピュータサイエンスPhD過程に進学。UCLAにて、人工生命の研究に従事。PhDを修了後、ポスドク研究員として更に人工生命の研究を追求し、10年間にわたる研究成果をもとに2019年2月NeuralX, incを起業。

最近、MIT Innovators Under 35 JapanとForbes Next 1000を受賞。海洋養殖分野で魚群行動をシミュレーションする独自技術を開発し、カメラ映像から魚の数や成長状態をAIで自動計測するソリューションを提供。養殖現場の効率化や餌の無駄削減を通じて持続可能な水産業を目指す。

合同会社NeuralX

合同会社NeuralX
https://neuralx.ai/

設立
2024年01月

NeuralXは、水中カメラ映像をAIで解析し、魚のバイオマス(体重・体長)、摂餌行動、ストレスや異常行動をリアルタイムに可視化するシステムを開発しています。これにより、養殖業者は給餌量や収穫時期をデータに基づいて最適化でき、コスト削減・環境負荷低減・魚の健康管理を同時に実現します。世界の水産業における持続可能な生産体制の構築を目指しています。

小学生時代から抱いた「当たり前の幸せ像」への違和感

スタクラ:

まずは、仲田さんの原体験について教えてください。

合同会社NeuralX CEO 仲田真輝氏(以下敬称略):

幼少期から中学までは、鎌倉地域で育ちました。外で遊ぶのが好きで、サッカーや野球、バスケをやったり、よく海に行ったり。小学校の頃は、勉強より体を動かしている時間の方が圧倒的に長かったですね。

高校は、有名政治家ファミリーやノーベル賞受賞者の出身校でもある進学校に進みました。ただ、正直学校はあまり好きじゃなかったです。

エリート感のある家庭、当たり前のすごさ、当たり前の幸せ、みたいなものに、ずっと気持ち悪さがありました。世の中で誰が偉いのか、何がすごいのか、そういう「当たり前の幸せ感」に違和感があったんです。

両親は、いわゆる一流企業で働いていました。周りからは「すごいね」と言われる。でも、小学5年生のときに両親は離婚し、周囲の態度が変わるのを体験しました。

そのときに、「何言ってるんだよ。大人はそうではなくて、きちんと自分自身で物事を判断するべき。サラリーマンとして終身雇用のレールに乗っている、結婚しているから幸せな家庭、ではなくて、やっぱりそれぞれがどう生きるかっていうところに、人生の大事なところってあるんだ」と強く感じました。

この当たり前の秩序が僕には幸せには見えなかった。そのような当たり前に対する反骨心は小学生のころから持っていたと思います。

スタクラ:

小学生から、は早いですね。

仲田真輝:

そうですね。親が離婚して当たり前と異なる環境になったことは良い経験でした。「なんか苦しいな、他と違うのか、じゃあ自分って何だろう?」と考えるきっかけになったので。

世の中は、肩書きや育った家庭などで人を判断する。でも、人生で自分で何を成し遂げたかが評価される世の中であってほしい。その思いは、今もずっと変わっていません。

※日本滞在中に、スタクラオフィスまでお越しくださった仲田CEO

幸せの答えが分からないまま、考え問い続けた大学・大学院時代

スタクラ:

大学以降は、どのように過ごされていたのでしょうか。

仲田真輝:

ずっと自問自答していました。大学では物理をやっていましたが、「これがやりたい」という明確な答えがあったわけではないです。

ロボットは面白そうだなとか、社長ってかっこいいなとか、そのくらい。大学時代は、授業よりも、バックパックで海外に行ったり、起業を手伝ったり、いろんなことをしました。

起業は、モバイルSEO対策関連でした。でも、会社を作って、お金が回り始めても、正直これがゴールである感覚は無かった。

その時に、自分のやりたいことは何か、幸せは何か、人生は何か、を問うために30カ国ほどバックパックで回りました。それでも、「幸せとは何か」という問いの答えは出なかった。

その時、むしろ答えがあるものじゃないんだろうな、と思うようになったんです。100人いれば100通りの人生でいい。時間が経てば考えも変わる。だったら、未来の正解を決めるより、今やっていることに全力で向き合い楽しむ。その継続こそが人生を豊かにするのだ、という考えに変わっていきました。

これは今でも人生のモットーになっています。

スタクラ:

そこからなぜアメリカへ大学院留学をされたのでしょうか。

仲田真輝:

大学時、外資系金融機関でインターンをしました。ただ、自分はお金を回すことではなくお金と理系領域を使って社会を変革するようなことをやりたいと思った。誰かを幸せにしたり、誰かを笑わせたり、誰かを便利にしたり、そういうことがしたいと。

将来的に自分で会社をやりたいとも思っていました。ただ、このまま会社を作っても、資金も人材も持っている大企業には負けるなと。

自分にしかできない技術を作って、それをシーズに次の起業をする。そう考えたときに、初めて大学院に行くという選択肢が現実的になったんです。

当時、ロボティクスや人工知能の研究を見て、人間の能力とあまりにもかけ離れているということに強い違和感を持ちました。
「人間の原理原則に基づいて作っていったら、絶対にもっと面白いものができる」と、はっきり思ったんです。この違和感の解消は、僕がずっとやりたかったこととも重なりましたし、「ここには大きな伸び代があるな」と感じました。

そこで、大学の先生から紹介していただいたのが、物理・生命シミュレーションといった人工生命の分野で世界的なパイオニアであるカルフォルニア大学の教授でした。

3次元のアニメーション生成は、当時も今もまだ難しい領域です。でも、物理現象を方程式として立てて解いていけば、たとえ3次元でも時系列的、物理的、生物学的にも破綻しない世界を作ることができる。重力はニュートンの法則に従って落ちるし、流体には流体の方程式がある。それをきちんと解くことで、現実と同じ原理で動く生命の振る舞いを生成できる。「これをやりたい」そう思って、アメリカに渡りました。

そこを本気でやり切って第一人者になれたら、自分自身が次のイノベーターとして、世界を変えられる可能性がある。ただ、それは片手間でできるものじゃないと思って、博士課程に進むことを決めました。

「Why You」を問い続けた先に見つけた自分ならではの起業

スタクラ:

そこから、なぜ現職の起業という選択に至ったのでしょうか。

仲田真輝:

大学院在籍中に、ARやアパレル領域で数度起業をしました。

ただ、コンシューマーに刺さらなかったり、自分でなくてもできるコモディティ化するテーマだったりで、途中でやめることになりました。

そこから研究に没頭し、人工生命という生命のシミュレーションをコンピュータ上で実現するというモデルの特許を取った。これこそが、他では真似できないことだと感じ、しっかり博士課程をやり切り起業したのが今の会社です。

スタクラ:

自分にしかできないことへのこだわりにはどんな源泉があるのですか?

仲田真輝:

一つ目は、自分の人生を後悔なく幸せに生きたい、という想いです。そのためには、自分のアイデンティティが認められること、自分が本当に貢献できたと思えることが大事。自分の得意を認知し、それを伸ばすことで自己肯定に繋がると思っています。

二つ目は、起業を何度か経験する中で、差別化できない中途半端なことをやっていたら、絶対に大企業に資金とマンパワーで負けると体感したこと。
僕が起業したアメリカでは、投資家含め色んな人から「Why You」と必ず聞かれます。

なぜあなたなのか。なぜあなたでなきゃいけないのか。その問いに応えられることは自分が一番楽しいことでもあるし、そこで勝ち筋を見つけることをやっていきたいと思いました。

グローバルで強いチームを目指す

スタクラ:

これまでアメリカで事業をされてきて、つくばに2024年に進出されました。どんな人と一緒に働きたいですか。

仲田真輝:

実はアメリカでは仲間集めはあまり苦労しなかったんです。テーマにワクワクしてくれる人も多いし、僕のところでやりたいと言ってくれる方々のネットワークが強かった。

ただ、日本では知名度も活動も0からのスタート。採用に関してもとても難しさを感じています。国単位ではなくて、地球という単位でキャリアを考えたい方。また、「なぜ?」と常に考え続けられる人と一緒にやりたいですね。

今後真の意味でグローバルで活躍できる日本人としてやっていきたい、という想いがある人にとってはとても良い環境を提供できるとは思います。

人間を理解するための手段としての生命シミュレーション

スタクラ:

NeuralXでどんな世界観を目指していますか?

仲田真輝:

一言で言うと「生命をコンピューターの中で実現する」ことです。難しく聞こえるかもしれませんが、要は“生き物がどう動き、どう反応するか”を、物理や生物の原理に従って再現すること。

短期では、養殖の領域に絞っています。なぜなら、現場で手作業でデータを集めることがほぼ不可能に近い領域だから。ここでデータを作れたら、勝てる可能性が高い。まずは事業としてROIを示し、チームを強くするための企業価値を上げ、大きな挑戦に必要な資金を取れる状態を作る。

中長期では、畜産や自動運転、工場の自動化など、人や生き物の“3次元の行動データ”が必要な領域に広げていきます。人間の再現に近づけば、医療や安全性検証のように「本当は試したいけど、リアルでは危険で試せない」ことが、生命を傷つけずに検証できるようになる。そこに社会的なインパクトがあると考えています。

スタクラ:

お話を伺っていて、元々は技術のイメージが強かったのですがむしろ人間をとことん追求する事業をされているのだと感じました。

仲田真輝:

「人間をとことん追求する」っていいですね(笑)

僕たちは、人を理解するために、人をコンピュータ上でシミュレーションするというアプローチを取っています。

個人的には、感情や精神疾患の問題にも強い関心があります。

今の教育やメディア、社会の常識そのものが、そうした疾患を生み出している一因になっていると感じているからです。

対策として行われている抗うつ剤などのホルモン的な治療も、感情の起伏を一時的に抑えるだけで、幸福感そのものまで削いでしまうケースがある。それは違うんじゃないか、と思っています。

ただ、人間を理解しようとすると、今の科学技術では人を対象に実験するしかなく、できることには限界があります。

だからこそ、シミュレーションによって人間を理解していく。そこに挑戦したいと思っています。

この記事を書いた人

スタクラ編集部


スタクラ編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」スタクラの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

合同会社NeuralX

合同会社NeuralX
https://neuralx.ai/

設立
2024年01月

NeuralXは、水中カメラ映像をAIで解析し、魚のバイオマス(体重・体長)、摂餌行動、ストレスや異常行動をリアルタイムに可視化するシステムを開発しています。これにより、養殖業者は給餌量や収穫時期をデータに基づいて最適化でき、コスト削減・環境負荷低減・魚の健康管理を同時に実現します。世界の水産業における持続可能な生産体制の構築を目指しています。