
広島大学卒業後、メーカーで社会人として働く中で、代表・大西洋氏が直面したのは、製造業の現場に色濃く残る人手不足とアナログな業務だった。「このままでは、現場が持たない」——そうした危機感が、起業を現実的な選択肢として意識させた。AIとハードウェアを融合させた“泥臭いDX”で、日本のものづくりを変えようとしている。

代表取締役兼CEO
大西 洋氏
兵庫県出身。広島大学工学部卒業。専攻テーマは製造プロセスの最適化。新卒で日東電工に入社し、ICT部門の法人営業に従事。退社後はWebサービスを開発し、イスラエルで起業を試みるも失敗。その後工場向けAI/IoTベンチャーの事業開発グループリーダーを経て、当社を設立。MENSA会員。

株式会社フツパー
https://hutzper.com/
- 設立
- 2022年04月
- 社員数
- 95
製造業をはじめとする企業の現場課題を解決するAIソリューション企業である。創業以来、現場訪問にこだわり、実際の業務課題に基づいたAI技術の開発・提供を行っている。
外観検査AIや人員配置最適化AIに加え、安全管理支援やサプライチェーンの最適化、生成AIやAIエージェントによる社内業務支援など、幅広い業界に向けたDXソリューションを展開。
現場ごとに異なるニーズに対応する柔軟なカスタマイズと伴走支援を強みとし、現場のオペレーションに即したAI導入を実現している。
最先端技術と現場視点を融合し、より高度な自動化・省人化を実現することで、企業の生産性向上と持続可能な成長に貢献する。
今後も、製造業をはじめとする幅広い業界において、AI技術を活用したイノベーションを推進し、労働力不足の解消と社会全体の発展を支える企業を目指す。
- 目次 -
広島で育った工学部出身エンジニアが、社会人経験を経て起業を志すまで
まずはこれまでの生い立ちから教えてください。
現在31歳で、出身は広島です。広島大学の工学部に進学し、工場設計に関わる分野を学びました。実は、この大学時代の人間関係が、後のフツパー創業につながっています。
創業メンバーとは大学時代からのご縁だったんですね。
そうですね。一緒に授業を受けたり、バイトをしたりする中で自然とつながりができて、卒業後も関係が続いていました。
大学時代はどんな学生生活を送っていたのでしょうか。
いわゆる普通の学生でした。サークルには入らず、居酒屋でのアルバイトが中心で、朝5時まで働いて始発で帰り、そのまま大学に行く生活を2年ほど続けていました。今思うと無茶でしたね(笑)。
卒業後はメーカーに就職されたんですよね。
はい。2017年に日東電工に新卒で入社しました。技術的にも先進的な企業だと思っていたのですが、実際に働いてみると、思っていた以上にアナログな現場が多くて。「これって、もっとシステム化できるのでは?」と違和感を覚えたのが最初のきっかけです。 社会人3年目のタイミングで起業を意識をするようになりました。
フツパー創業——“アナログな現場”から見えた課題
起業を決意した後、まず何から開始したのでしょうか?
課題は見えるのに、自分にはシステムやソフトウェアの知識が決定的に足りない。その現実に直面して、一度会社を辞め、プログラミングを学ぶことを決めました。ただ、独学では限界があると感じて、エンジニアしかいないシェアハウスに飛び込み、1ヶ月間、修行のような生活を送りました。そこでエンジニアの鈴木と出会い、意気投合して一緒に簡単なQ&Aサービスを開発するようになります。
そこから、海外に行こうとなった背景を教えていただきたいです。
エンジニアの鈴木と「これで世界を獲ろう」と盛り上がって、イスラエルに行くことになったんですよね(笑) 今振り返ると、当時の行動力は衝動的にも見えますが、「とりあえずやってみないとどうにもならない」という姿勢は、今のプロダクト開発や顧客との向き合い方にもそのまま通じていると感じています。
なぜイスラエルだったのでしょうか?
ユダヤ系の起業家やノーベル賞受賞者が多く、人口比での研究開発力が非常に高い国だと知ったんです。「第2のシリコンバレー」とも言われていて、挑戦するならここしかない、と直感的に感じました。
イスラエルではどんな活動を?
残念ながら、うまくはいきませんでした。1ヶ月で帰国して、東京で再起を図りましたが、それもうまくいかず……。その後、中島工業という設備関係の中小企業に再就職して、現場の改善やAI導入などに取り組みました。会社としてはクラウドベースの仕組みを目指していたんですが、僕はもっとコンパクトで“止まらない仕組み”の方が工場には合っていると感じていて。当時の会社では実現が難しいアイデアだったので、それなら自分でやろうと決めました。
そこからフツパーを創業されたんですね。
はい。2020年に創業しました。製造業の現場に入り込み、人手不足という構造的課題にAIを使って取り組むというのが事業の核です。検査工程を中心に、カメラやハードを含めた一気通貫の支援を行っています。

製造業の現場に深く入り込んで、ニッチな課題解決にも取り組んでいらっしゃいますよね。
カメラや照明の選定から始まり、CAD設計、ソフトウェア開発、工場現場への設置、そして運用まで全部やります。さらにAIで検査精度を上げたり、配置最適化のシステムを提供したり。まさに“現場ドリブン”の事業です。
他社との差別化ポイントはあるのでしょうか?
フルスタックであることですね。ハードからクラウド、AIモデルまで一気通貫で提供できる体制はなかなか他にないと思います。
仲間は大学時代の友人たち。異色の創業チームの結束力
創業時のチームは、どのようにして集められたんですか?
特別なことはしていなくて、大学時代の友人をそのまま集めただけです。よく「この業界ならこの人しかいない」みたいな有名な人を口説いてドリームチームを作る話がありますけど、僕らはまったくそうじゃない。事業との直接的な関連もそこまでなかったですし、「ピボット前提」で最初のメンバーを集めた感じでした。
仲間集めでの苦労や、創業時のトラブルはありませんでしたか?
ちょっとした言い合いくらいはありましたけど、大きな衝突や離脱は一度もなかったですね。僕ら、最初の1年は一緒に住んでたんですよ。職場も家も一緒で、四六時中行動を共にしていたので、価値観やクセも全部わかっている状態でスタートできたのが大きかったと思います。普通はあとから出てくるような不満も、同居2日目で出尽くしたような感覚でした。

急成長でも崩れない組織——その秘訣と、100人規模に向けた挑戦
事業の拡大に伴って組織も大きくなってきたと思いますが、マネジメントやカルチャーづくりの面ではどんなことを意識されていますか?
上下関係のない、フラットな雰囲気を大事にしています。現場からの提案が上に届きやすいような仕組みにもしていますね。
そうした姿勢が、離職率の低さにもつながっているんでしょうか。創業からこれまで、かなり定着率が高いと聞きました。
おかげさまで、創業以来の累計でも両手で足りるほどしか離職者がいません。リファラル採用が多く、事業に共感して来てくれる方が多いのが大きいですね。入社後も「辞めるくらいなら自分で変える努力をする」カルチャーが根付いていると思います。
人数が増えてきたときに、壁のようなものはありましたか?
30人から50人くらいの時に、物理的にワンフロアに収まらなくなったんです。すると情報の伝達が一気に難しくなって……。Slackでの発信を基本オープンチャンネルにするようにしたり、仕組み面の改善が必要になりました。

海外展開・新規事業へ。フツパーが描くこれからのものづくり
今後のフツパーが目指すビジョンをお聞かせください。
これまでの中心は「人手不足の解消」でしたが、今後は“価値を生む”方向へのシフトも加速させたいと考えています。具体的には、研究開発工程の支援や、売上アップに寄与するAIエージェントなど、攻めのソリューションにも力を入れていきたいです。
海外展開についてもお話がありましたね。
はい。国内市場はどこかで必ず成長が鈍化します。その前に、海外での事業展開を視野に入れています。現在のプロダクトは汎用性が高く、海外でも通用する可能性が十分にあると思っています。
上場後も変わらぬスタンス──“事業に共感する人と働きたい”
2025年12月24日に上場されましたが、上場を目指した背景にはどんな考えがあったのでしょうか。
目的は、資金調達と社会的信用の獲得です。創業当初から「2025年に上場する」と決めていたので、市況やタイミングに関係なくその目標に向けて準備を進めてきました。あえて非上場を選ぶ会社も増えていますが、我々のビジネスモデルや今後の展開を考えると、上場によるメリットの方が大きいと判断しました。
具体的にはどんな点にメリットを感じていたのですか?
大口のエンタープライズ顧客と取引する際の信用力は大きいですね。特に製造業の現場では、企業としての信頼性が導入判断のカギになります。また、今後M&Aで事業を拡大していく際にも、上場企業のほうが相手企業から見て安心感がある。こうした実務面での利点を総合的に考えると、自然な選択でした。
上場に向けての準備は、どのタイミングから始めていたのでしょう?
創業2年目の終わりくらいですね。そこから本格的に準備を始めました。特に大きかったのは、監査法人出身で上場経験がある管理本部長が早期にジョインしてくれたことです。やっぱりCFO的な役割を担える人がいないと、上場準備は進まないですから。守りの体制をきちんと整えられたことが、ストレートに上場できた要因だと思います。
組織が拡大する中で、どんな人に来てほしいと思っていますか?
一番は「事業への共感」です。例えば「人事の方がよかったから」と言って入ってくれる人もこれまでいたんですが、入社してその人と一緒に働くわけではないですから。やっぱり一緒に仕事をするチームや、会社そのものの方向性に共感してもらえるのが理想ですね。

現在のフェーズならではの魅力はありますか?
本当の意味でのゼロイチをやりたいなら、正直10人以下のスタートアップに入ったほうがいいと思います。一方で、大手や一般的なキャリアを歩む中で、「もう少し新しいことに挑戦したい」「実務でAIを使った事業に関わりたい」と感じている人も多いはずです。フツパーは上場企業としての一定の安心感がある中で、新規事業や海外展開など自分のやりたいことにフォーカスして事業づくりに向き合えるフェーズです。裁量は以前より変化していますが、手を挙げれば動ける余地は十分ある。少しリスクを取ってでも挑戦したい方に来てほしいですね。
編集後記:
“地に足がついたスタートアップ”という言葉がこれほどしっくりくる会社は珍しいかもしれません。大西氏の飾らない語り口と、一貫して「現場」を見据えた姿勢に、ものづくりへの真摯な覚悟がにじんでいました。これからの製造業に関わりたい方にとって、フツパーという場は、挑戦と学びが詰まった最高の環境になるはずです。

株式会社フツパー
https://hutzper.com/
- 設立
- 2022年04月
- 社員数
- 95
製造業をはじめとする企業の現場課題を解決するAIソリューション企業である。創業以来、現場訪問にこだわり、実際の業務課題に基づいたAI技術の開発・提供を行っている。
外観検査AIや人員配置最適化AIに加え、安全管理支援やサプライチェーンの最適化、生成AIやAIエージェントによる社内業務支援など、幅広い業界に向けたDXソリューションを展開。
現場ごとに異なるニーズに対応する柔軟なカスタマイズと伴走支援を強みとし、現場のオペレーションに即したAI導入を実現している。
最先端技術と現場視点を融合し、より高度な自動化・省人化を実現することで、企業の生産性向上と持続可能な成長に貢献する。
今後も、製造業をはじめとする幅広い業界において、AI技術を活用したイノベーションを推進し、労働力不足の解消と社会全体の発展を支える企業を目指す。
