
大学の研究成果をどう社会に生かすか。その鍵を握るのが、産学連携の最前線で活躍するコーディネーターです。富山大学 産学連携本部でコーディネーターを務める川谷氏は、研究者と企業、自治体、地域社会をつなぐ“橋渡し役”。材料系の研究からキャリアをスタートし、特許事務所勤務を経て、各地の大学で研究支援に携わってきました。いま取り組んでいるのは、教授自身が会社を立ち上げ、研究成果を事業化する支援。研究とビジネス、ふたつの世界をつなぐリアルな現場の話を伺いました。

研究推進機構 学術研究・産学連携本部 コーディネーター
川谷 健一氏
富山県出身。大阪大学大学院基礎工学研究科を修了後、都内特許事務所勤務を経て、2015年から弘前大学のURA、2019年から長岡技術科学大学のURAとして、それぞれの大学において大型の産学連携事業の企画や企業・自治体等とのコーディネートなどを担当。2023年に富山大学のコーディネーターに着任。企業・自治体等の相談窓口として、企業と研究者のマッチングなどを担当しているほか、先端的な研究成果を社会に届けるために大学発スタートアップの設立をサポートしています。研究者に一番近い存在として良き伴走者になれるよう、日々精進しています。
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富山大学 学術研究・産学連携本部
https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/
富山大学は、カーボンニュートラル・ヘルスケア・軽金属・データサイエンス・文化財保存といった多様な強みを有する総合大学として、地域社会が抱える多様な課題に取り組み、地域に貢献する総合大学を目指しています。
学術研究・産学連携本部は企業と大学を結ぶ懸け橋として、複数のコーディネーターで企業等からの技術相談を随時受け付けているほか、研究成果を社会に繋げるための大学発スタートアップ創出なども推進しています。
- 目次 -
研究を社会へつなぐ“橋渡し役”
まず、自己紹介とこれまでの歩みを教えてください。
富山大学の産学連携本部でコーディネーターをしています。研究者と企業・自治体をつなぎ、共同研究や事業化のサポートをするのが主な仕事です。富山に来て2年半ほどになりますが、それ以前は新潟や青森の大学でも同様の仕事をしてきました。
もともと大学院では材料系、いわゆるナノテクノロジーの研究をしていました。科学技術に関わる仕事がしたいと思い、最初は特許事務所で知財業務を経験しました。そこで得た知識が、いま研究支援の現場でも大いに役立っています。
研究者に一番近い立場でサポートを
コーディネーターという仕事の魅力はどこにありますか?
研究者に最も近い立場で、成果を社会へつなげられるところですね。先生方の研究は専門的で、なかなか一般の人には伝わりにくい部分もあります。だからこそ、研究の内容を理解し、外の世界にどう届けるかを一緒に考える。その“間に立つ”ポジションが面白いと思っています。
企業や自治体など、大学の外と関わることも多く、分野の異なる人たちと話す機会がとても多いです。専門外のテーマに触れる時は、できる限り事前に調べて臨むようにしています。わからない部分は素直に聞く。そうした対話の中で先生方にも新しい気づきが生まれることがあるんです。
地域企業と大学をつなぐ最前線で
現在はどのような取り組みをされているのですか?
普段は、企業から寄せられる技術相談や研究依頼の最初の窓口を担当しています。明確なテーマがある場合は適した先生をご紹介し、一緒に共同研究を進めていきます。まだ課題が整理されていない企業には、どんな研究が貢献できるのかを一緒に考えながらマッチングしています。
最近ではTeSH(※)にも携わっています。研究成果を企業に橋渡しするだけでなく、先生ご自身が会社を立ち上げて事業化に挑むケースも増えているんです。成果を社会に届ける手段として、スタートアップ支援は大きな可能性があると感じています。
※TeSH:北陸先端科学技術大学院大学と金沢大学を主幹機関とし、北陸地域の大学・高専発スタートアップ創出プラットフォーム
スタートアップ支援は“日々勉強”
スタートアップ支援を始めて感じた難しさはありますか?
正直、私も最初は企業経験が少なかったので、右も左もわからない状態でした。日々勉強しながら、先生と一緒に事業化の道筋を描いています。スタートアップは、研究と違って「ビジネスとして成り立つか」が問われます。書類上ではうまくいきそうでも、実際の市場では通用しないことも多い。だからこそ、現場の声を聞くことを大切にしています。
また、一社だけで完結するビジネスはほとんどありません。先生方が起業した後も、顧客やパートナー企業、行政との連携が欠かせません。そのためにも、さまざまな人と話をしながら知識を吸収することを心がけています。

“伴走する支援”で生まれる新しい挑戦
実際に先生方を支援する中で意識していることは?
私は「伴走者」でありたいと思っています。上からアドバイスするのではなく、先生と同じ目線で悩み、考える存在です。ビジネスモデルの構築や資金調達の相談など、答えが一つではないテーマばかりですから、最初から完璧な形を目指すよりも、一緒に考えながら走ることを大切にしています。
まだ私自身も勉強中ですが、大学の中で新しい挑戦が始まっていることにワクワクしています。研究成果が社会に届くまでには時間がかかりますが、そのプロセスこそが面白い。研究者の情熱と現場のニーズをどうつなぐか——その試行錯誤が、この仕事のやりがいです。
富山から、研究と社会をつなぐ未来へ
最後に、今後取り組みたいことを教えてください。
富山大学は地域との結びつきが強い大学です。だからこそ、地域企業の課題解決や新しい事業づくりに、大学の知がもっと活かせると思います。先生方の研究を“地域の未来”に結びつけていく。そのために、学内外のネットワークをさらに広げていきたいですね。
そして何より、研究者の方々が安心して挑戦できる環境を整えたい。挑戦を支える仕組みがあってこそ、大学発のイノベーションは育つと思っています。
編集後記
川谷さんの話で印象的だったのは、「研究者の隣で一緒に悩む」という言葉でした。支援する側としてではなく、同じ方向を見て並走する姿勢に誠実さを感じます。
分野も立場も異なる人たちの間に立ち、答えのない課題に向き合う仕事。その中で「分からないことは素直に聞く」と語る姿が印象的でした。専門外にも臆せず踏み込む柔らかさと行動力が、研究と社会をつなぐ力になっているのだと思います。
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富山大学 学術研究・産学連携本部
https://sanren.ctg.u-toyama.ac.jp/
富山大学は、カーボンニュートラル・ヘルスケア・軽金属・データサイエンス・文化財保存といった多様な強みを有する総合大学として、地域社会が抱える多様な課題に取り組み、地域に貢献する総合大学を目指しています。
学術研究・産学連携本部は企業と大学を結ぶ懸け橋として、複数のコーディネーターで企業等からの技術相談を随時受け付けているほか、研究成果を社会に繋げるための大学発スタートアップ創出なども推進しています。
