
腸内フローラという言葉を耳にしたことはありますか?
今回インタビューさせていただいたメタジェンセラピューティクス株式会社は、この腸内フローラ(=腸内細菌叢)についての研究を行い、医療と創薬でソーシャルインパクトを生み出す順天堂大学、慶應義塾大学、東京科学大学発のベンチャー企業です。
腸内細菌叢移植(FMT:Fecal Microbiota Transplantation)と呼ばれるこの治療方法は、健康な人の便に含まれている腸内細菌叢を、疾患を持つ患者さんの腸に移植し、バランスのとれた腸内細菌叢を再構築するというもの。
メタジェンセラピューティクス社CMO(Chief Medical Officer)である石川氏は、腸内細菌療法の臨床研究責任者として同事業に携わり、“研究を研究として終わらせたくない”という想いでFMTの社会実装に取り組んでいます。

取締役CMO(Chief Medical Officer)
石川 大氏
医師、医学博士、2009年アメリカ ケースウエスタンリザーブ大学IBDセンターにて免疫メカニズムと腸内細菌―免疫関係について研究し、2014年から潰瘍性大腸炎に対する便移植療法開始。2016年から現職、順天堂消化器内科准教授。専門は潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を中心に外来診療、臨床研究、基礎研究を行っている。腸内細菌療法の臨床研究責任者であり、潰瘍性大腸炎の根本的な細菌学的治療法の確立を目指している。

メタジェンセラピューティクス株式会社
https://www.metagentx.com/
- 設立
- 2020年01月
- 社員数
- 28名
≪MISSION≫
マイクロバイオームサイエンスで患者さんの願いを叶え続ける
≪事業分野≫
医療・創薬
≪事業概要≫
腸内細菌叢移植(FMT:Fecal Microbiota Transplantation)の社会実装を目的とした「医療サービス事業」と「創薬事業」
- 目次 -
潰瘍性大腸炎の患者さんとの出会いをきっかけに腸内細菌療法の道へ
専門が消化器内科医とのことですが、腸内細菌叢移植(FMT)の研究に取り組まれたきっかけを教えてください。
20代後半の時に、ある潰瘍性大腸炎の患者さんの診療を担当していました。その方は私と同い年だったのですが、いわゆる難治性疾患であり、まともに外出ができなくなるなど不自由な生活を強いられていました。衝撃的な現実を目の当たりにして、このような疾患に対して十分な治療が提供できる医者になりたい、患者さんの願いをかなえたいと強く思ったのがきっかけです。
その思いを実現するためにアメリカへ留学されたのですか?
はい。当時、炎症性腸疾患の研究は国内よりも海外が進んでいたため、アメリカのケースウエスタンリザーブ大学IBDセンターで免疫メカニズムと腸内細菌についての研究に従事しました。
炎症性腸疾患は免疫異常に起因することが多く、一方で腸内細菌は免疫異常に大きな影響を与えています。つまり、腸内細菌をコントロールすることで免疫異常に伴う疾患を治療できる可能性があるということです。
腸内細菌叢移植(FMT)を事業化するために集まったメンバー
帰国後、どのような経緯で起業に至ったのでしょうか?
帰国後は順天堂大学で引き続き研究を重ねながら、2014年から科学研究費を獲得し、200名以上の患者さんに腸内細菌療法の臨床研究を実施しました。
その後、研究を通して知り合った仲間と、2015年に研究テーマの社会実装を目的とした法人を設立しました。メタジェンセラピューティクス株式会社の前身となる会社(株式会社メタジェン)なのですが、私が臨床研究をしてるスペシャリストとして、またデータサイエンスでインフォーマフィックス解析を担当する山田(共同創業者)、腸内細菌研究のスペシャリストである福田(同)の3人で主にヘルスケア事業を柱としていました。
しかし、FMTを活用する医療進出はハードルが高く、創薬にフォーカスしたスタートアップが必要だと感じました。そこでバイオ・ヘルスケア関連のベンチャー支援を行っていた現代表の中原を加えて4人でメタジェンセラピューティクス社を2020年に立ち上げました。
中心となった4名の共通点は何でしょうか?
有効な治療を患者さんに届けたいというパーパスの共有ですね。そのために必要なことを逆算し、同じベクトルを向いて役割分担ができている、組織として非常に理想的な形が出来上がったと思います。

‟通いたくなるトイレ”をコンセプトとした献便施設の完成イメージ
山形県鶴岡市に献便施設を開設し研究開発をさらに加速
現在御社が手掛けているFMT事業について、現在の取り組みを教えていただけますか?
腸内細菌叢移植(FMT)の事業化に向けてさまざまな活動を行っています。直近では2025年4月に山形県鶴岡市の鶴岡サイエンスパーク内に「献便施設」の開設を予定しています。
ここは、登録いただいたドナーの方に便を提供していただき、そこから腸内細菌を抽出し研究に応用するための施設です。
我々の創薬事業は、健康なドナーの方をスクリーニングした上で、その人の腸内細菌を集めて創薬につなげていくという発想です。極端に言うと「便が薬になる」ということです。
そのため、健康な便を提供いただくドナーの確保は最優先ですし、「献血」と同じように「献便」が世の中への貢献につながるサイクルを実証するための日本初の試みなのです。
また、2023年にクラウドファンディングで腸内細菌ドナーのサポーターを募集したところ、目標金額である350万円を大きく超える430万円弱のご支援をいただきました。多くの人を救う我々のイノベーション事業をこれだけ多くの方々が支援してくださることについては、私たち経営陣一同深く感謝するとともに、本事業を必ず成功させるという誓いを新たにした出来事でもあります。
腸内細菌叢移植療法が先進医療Bとして厚生労働省から承認
FMTに関する認知度もかなり浸透してきたということでしょうか?
この5年で大きく変化してきたと思います。例えば、順天堂大学ではパーキンソン病患者さんの大腸に健康な人の便に含まれる腸内細菌叢を移植する臨床研究が始動し、ニュースにも取り上げられました。またAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)からの助成金も採択され、さらなる研究の進展が期待されています。
また、潰瘍性大腸炎を対象としたFMT療法が厚生労働省から先進医療Bとして承認されました。我々のユニークな発想やこれまでの研究成果が国から認められたエポックメイキングな出来事です。
難病を克服するためのFMT治療を確立させるのが第一義
法人としてもどんどん事業を拡大していく過程にあるということですね。
はい。ただ、個人的には「法人」という枠だけではなく、「難病治療」という枠でさまざまな可能性を探究していきたいと考えています。もちろん、IPOを目指していますし、陣容も拡大していきたいと考えています。とはいえ、IPOが目標ではなく、FMT治療をより多くの患者さんへ、そしてより多くの難病に対応していくために何をすればよいか、を軸に考えていくことになります。
また、先ほどお話しした「献便施設」の開設もあり、より多くの人材を必要としています。研究職だけでなく広くバックオフィス系まで含め、FMTの社会実装に向けて我々と想いを同じくする仲間たちと一緒に成長していきたいと考えています。
最後に、御社への入社を希望している社員に必要なマインドを教えてください。
我々が取り組んでいるのは、便の中にいる腸内細菌を薬にするという、これまで誰も挑戦したことがないモダリティです。ここに可能性を見出し、疾患に悩む患者さんに有効な薬を届けるんだという強い信念を持つ人と一緒に成長していきたいですね。
貴重なお話、ありがとうございました。

メタジェンセラピューティクス株式会社
https://www.metagentx.com/
- 設立
- 2020年01月
- 社員数
- 28名
≪MISSION≫
マイクロバイオームサイエンスで患者さんの願いを叶え続ける
≪事業分野≫
医療・創薬
≪事業概要≫
腸内細菌叢移植(FMT:Fecal Microbiota Transplantation)の社会実装を目的とした「医療サービス事業」と「創薬事業」