甲信・北関東の大学や自治体、企業が連携し、研究成果の事業化とスタートアップ創出を推進するプラットフォーム「IJIE(Inland Japan Innovation Ecosystem)」。JST事業の採択を受け、地域主導のエコシステム構築を加速させています。
信州大学にて本プラットフォームの立ち上げや事務局長を務め、地域発スタートアップの支援を牽引する角田さんにインタビューを実施。IJIEの独自の強みやサポート体制、そして研究成果を社会実装するために今最も求められている「経営人材(CXO候補)」への期待についてお話を伺いました。
学術研究・産学官連携推進機構 特任教授/IJIEプログラム共同代表者・事務局長
角田 哲啓氏
東京理科大学工学部卒。経済産業省関東経済産業局及びNEDOにて研究開発や中小企業支援関係の業務を担当。2016年6月から信州大学学術研究・産学官連携推進機構にて、大学の研究成果の事業化支援や大学発ベンチャーの創出・成長支援等を担当。Inland Japan Innovation Ecosystem(IJIE)プログラム共同代表者・事務局長。
信州大学
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経歴と「IJIE」誕生の背景
まず、これまでのご経歴と、「IJIE」における役割をお聞かせください。
もともとは関東経済産業局に勤務しており、産学官連携や中小企業の技術開発支援、エネルギー政策などに従事していました。2016年に信州大学へ出向(のちに転職)したことをきっかけに、大学の研究成果を事業化する支援に携わるようになりました。
ちょうど2017年頃から大学発ベンチャー立ち上げの相談が増え始め、大学としても本格的な支援体制を整える必要が出てきたんです。そこで関東経済産業局での経験を活かし、大学内で認定制度等のルールの策定、POC(概念実証)支援の仕組み化など、大学内の支援体制を段階的に整備してきました。
その後、JSTの「大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム 地域プラットフォーム共創支援」への採択などを経て、2024年2月に甲信・北関東の5県の大学を中心に「IJIE」を本格始動させました。現在はプログラム共同代表兼事務局長として、GAPファンドの運営や支援メニューの企画、各大学の環境整備支援などの取りまとめを行っています。
「IJIE」の特長と強み
IJIEとは、どのようなミッションを持ったプラットフォームなのでしょうか?
主なミッションは、大学が持つ研究成果や技術シーズをもとに、地域発のスタートアップを創出・育成することです。GAPファンドを活用した事業可能性の検証から、研究者・支援人材のレベルアップ、ビジネスモデル構築までを包括的にサポートしています。
他地域のプラットフォームと比較した際、「IJIE」ならではの強みや特徴はどこにありますか?
一番の特徴は、参加している国立大学がすべて「地域貢献型」を掲げている点です。
多くの大学プラットフォームでは、研究開発課題がライフサイエンス領域に偏りがちですが、私たちのプラットフォームはライフサイエンスが3〜4割程度で、ものづくり系や「地域課題の解決」をテーマにした研究が多く集まります。
このような背景から、ユニコーン企業を目指すだけでなく、地域に根差し持続可能な成長と社会課題解決の両立を目指す「ローカルゼブラ」的なスタートアップを重点的に支援する枠組みを作っている点は、他のプラットフォームにはないIJIEならではの魅力であり強みだと思っています。
充実した手厚いハンズオン支援体制
研究成果を事業化へ導くために、どのようなサポート体制を整えられていますか?
研究者の多くは研究のプロであっても、ビジネスモデル構築や事業戦略の策定は専門外です。そのため、IJIEではベンチャーキャピタル(VC)をはじめとする事業化推進機関とのマッチングや、CXO候補となる経営人材とのチームビルディングを早い段階から支援しています。
さらに、起業に向けた具体的な課題に対応できるよう、外部の専門家による「公認メンター制度」も導入しました。
- 経営・事業戦略:実績豊富なVCやアクセラレーター
- 法務・財務・会計:弁護士、公認会計士
- 資金調達:VC、補助金・デット調達のアドバイザー
このように、事業計画の具体化から資金調達、組織づくりまで、多角的に相談できる体制を万全に整えています。
研究成果の事業化における「ボトルネック」と経営人材の必要性
研究シーズを事業化していく中で、特にどのような部分が課題になりやすいのでしょうか?
一番のハードルは、やはり「初期のニーズ把握と売り上げの確保」です。
研究者の方は「良いものを作れば売れる」と考えがちですが、いざ起業してみると思い描いたニーズと市場の現実にギャップがあるケースは珍しくありません。会社を設立した後にニーズがないと気づいても、資金は一気に底を突いてしまいます。
だからこそ、会社を作る前のGAPファンド期間中にしっかりと市場調査やヒアリングを行い、本当にニーズがあるのかを見極めることが極めて重要です。そうした「市場視点」を持って研究者とともに走れる経営メンバー(CXO)がチームに入ることが、成功の絶対条件だと感じています。
求められる経営人材像と研究者とのコミュニケーション
どのような経営人材(CXO候補)に参画してほしいとお考えですか?
スキルはもちろんですが、何よりも「マインド」と「研究者とのコミュニケーション力」を重視しています。
大学発スタートアップは、研究者が長年培ってきた技術を基盤にして始まります。先生方の思いや技術の価値を深く理解しようとする姿勢を持ち、粘り強く伴走してくれる熱量のある方に来ていただきたいですね。
カルチャーや考え方が異なる研究者と、上手くチームを組むコツは何でしょうか?
研究者にも様々なタイプがいます。自分の意見を強固に持つ先生もいれば、方針に迷ってしまう先生もいます。大切なのは、お互いの役割(先生=技術のプロ、経営人材=ビジネスのプロ)をリスペクトし合い、適切な距離感で信頼関係を築くことです。
大学発スタートアップの難しさは、必ずしも研究者がCEO(最高経営責任者)になるわけではない点にあります。経営権と技術の責任範囲を曖昧にせず、対等なパートナーとして建設的な議論と合意形成ができる関係性を作れる方が、事業を前進させられると感じています。
応募を検討している方へのメッセージ
最後に、本プログラムへの応募や経営人材としての参画を検討されている方へメッセージをお願いします。
大学の研究室には、社会を大きく変えるポテンシャルを秘めた「確かな技術シーズ」がたくさん眠っています。しかし、それをビジネスとして社会に届けるためには、ビジネスサイドを牽引する経営人材の存在が不可欠です。
起業に向けた準備段階から研究者とタッグを組み、ゼロから事業を組み立てていける環境は、他では得られない貴重な経験になるのではないでしょうか。
ご自身の経験や知識を生かし、地域から世界・社会を変えるスタートアップに挑戦したいと考えている方は、ぜひこの機会を逃さずに挑戦してほしいです。
