ディープテック領域の事業が成長のドライバーに

STARTUP HOKKAIDO実行委員会 事務局長 藤間 恭平氏

北海道には、宇宙分野をはじめとした広大なフィールドや一次産業など地域性を生かした研究シーズを基盤とする、ディープテック領域のスタートアップ集積が進んでいます。来年は千歳市に半導体企業Rapidusの工場が稼働予定。2024年にはGX金融・資産運用特区に指定され、その可能性をますます広げています。

STARTUP HOKKAIDOは、グローバルなスタートアップを生み育てるエコシステムの構築をめざすオール北海道の推進組織。行政、大学、民間で構成される実行委員会が運営しています。道内におけるスタートアップ支援に初期から取り組み、同委員会の事務局長を務める藤間恭平さんに、北海道発スタートアップの現状と強み、展望などを伺いました。転機となった出向やVCに籍を置く理由についてなど、熱い想いをお話しいただきました。

藤間 恭平氏

実行委員会 事務局長
藤間 恭平氏

札幌市生まれ。大学卒業後、新聞社に入社し、在籍中の2018年にスタートアップ支援会社の立ち上げに参画。
以降、北海道初のアクセラレータープログラム、札幌市のスタートアップ発掘・支援プロジェクトなど 北海道内のスタートアップ関連プロジェクトに多数参画。
2022年スタートアップエコシステム構築を支援する「DRIVE Incubation」を創業。 2023年に北海道、札幌市、北海道経済産業局らが参画する官民組織「STARTUP HOKKAIDO」の事務局長、(独)中小企業整備機構北海道本部スタートアップアドバイザーに就任。

STARTUP HOKKAIDO

STARTUP HOKKAIDO
https://startuphokkaido.com/

≪VISION≫
STARTUP HOKKAIDOが目指すこと

北海道からグローバルな
スタートアップをうみだす

STARTUPHOKKAIDOは、北海道からスタートアップが継続的に生み出されグローバルまで発展していくエコシステム構築を目指しています。

支援開始から5年で、北海道が一丸となって支援する体制を整備

スタクラ:

STARTUP HOKKAIDOの設立経緯と概要を教えてください。

STARTUP HOKKAIDO 実行委員会 事務局長 藤間恭平氏 (以下敬称略):

北海道でスタートアップ支援が本格化したのは2018年で、政府が本格的にスタートアップ支援を始めたのと同時期です。
まずは札幌市を中心にスタートアップを創出する取り組みが始まりました。以降、大学や民間企業などさまざまなプレイヤーがスタートアップ支援に参画し、徐々に盛り上がりを見せはじめました。一方で、それぞれが個別に取り組みを展開していたため、相談窓口がいくつもあったり、イベントが同じ日に行われたりと、課題も顕在化しはじめました。
そこで、関係機関が一丸となり、オール北海道体制での支援を提供することが、地域スタートアップ・エコシステムの発展につながるという意見で一致し、2023年にSTARTUP HOKKAIDOが誕生しました。

STARTUP HOKKAIDOは、札幌市、北海道、北海道経済産業局、大学、民間企業などが参画し、官民連携の団体が運営しています。行政主導の団体に比べるとスピード感や柔軟性があるのではないかと感じています。逆に何年もかけてじっくり進める施策も、単年度で終わらない団体だからこその部分があると感じています。そういった、取り組みが評価され、札幌・北海道は内閣府が推進する「スタートアップ・エコシステム拠点都市」にも選定されています。

スタクラ:

STARTUP HOKKAIDOのミッションやスタートアップ支援の取り組み、実績について教えてください。

藤間 恭平:

エコシステムビルダーとして、北海道からグローバルに活躍するスタートアップを生み出し、育てることが一番のミッションです。そのためにさまざまな民間企業やVCと接点を作り、プレイヤー同士をつなげています。また、地元から生み出すだけでなく、道外から有望なスタートアップを誘致し、北海道に根付いてもらう「集積」戦略も推し進めています。
STARTUP HOKKAIDOでは、現在約150社のスタートアップをサポートしています。
国内のスタートアップに占める割合はまだ低いですが、道内のスタートアップ数は、2018年からは倍増しています。

資金調達の件数や額も年々伸びていて、道内スタートアップの資金調達額は2024年に初めて100億円を超え、今年(2025年9月)はすでに200億円ほどに達しています。2018年以降に設立されたスタートアップがシードからミドルステージに移ってきていて、1回で数十億円調達する時例も生まれはじめています。
その中でも特に成長のドライバーとなっているのがディープテック領域のスタートアップです。昨年資金調達した30件のうち約半数が、ディープテック領域のスタートアップです。

人事交流での出向が人生の転機に。スタートアップの沼にはまった

スタクラ:

藤間様の略歴や、新聞社を経てSTARTUP HOKKAIDOの事務局長として現在の北海道スタートアップ支援に携わるに至った背景について教えて下さい。

藤間 恭平:

私は札幌市出身で、道内の大学を卒業後、地元の新聞社に入社し、主に新聞広告やイベント企画といった業務を担当していました。転機となったのは、東京支社で勤務していた2017年に人事交流でIT関連企業に出向したことです。
そこで配属されたのが、アクセラレータープログラムを担当する部署でした。その時に初めて、スタートアップが実際にどういうものなのかを知りました。起業家の熱意や情熱に魅了され、スタートアップの沼にどっぷりはまってしまいましたね。

1年ほどして、その成果を地元に持ち帰り、北海道版のアクセラレータープログラムを立ち上げました。

その後、インキベーション施設の開設などソフト・ハードの両面から地域でのスタートアップ・エコシステム作りに関わりました。その後、新聞社を退社し、ライフワークとしてスタートアップ支援に注力するキャリアを選びました。

私は気が多い方なので、自分の事業に専念するというよりは起業を志す多くの人を支えたいと思っています。実際、エコシステムビルダーという仕事は自分に非常に合っていると感じています。

また、2025年からはディープテック領域に特化したベンチャーキャピタルにも籍を置いています。これまでのスタートアップ支援で資金面の課題を痛感してきたので、経験を積んで資金調達の面でもさらに力を発揮できればと思っています。

さまざまなサポートに加え、イベントも数多く開催されている。詳細はHPへ

初期フェーズのスタートアップで、立ち上げや急成長の面白さを味わう

スタクラ:

北海道のディープテックスタートアップの特徴や強みはどんなところにありますか?

藤間 恭平:

STARTUP HOKKAIDOが注力分野としている「一次産業・食」「宇宙」「環境・エネルギー」の3分野に関しては、世界的に見ても北海道のポテンシャルが高い領域であると分析しています。アグリ・フード分野など一次産業への応用が検討される研究が多いのは、地元の大学での研究が盛んで、基礎研究の数も多いからでしょう。

また、宇宙関連のスタートアップは全国に約100社ほどあると言われており、その多くは東京に集中していますが、その次に集積が進んでいるのは、ここ北海道です。宇宙産業は、これからの産業であり、宇宙スタートアップの支援が未来の北海道をけん引する、新産業の創出につながると期待しています。

分野的な強みとは別の魅力もあります。まだ初期フェーズのスタートアップが多いことです。スタートアップならではの立ち上げ期のダイナミズムを体感できるのは大きな魅力です。成長前の段階から関われる機会が多いのも北海道スタートアップの特徴です。

インタビューは「社交場 ヤング」で行った。インタビュアーの藤岡(左側)と、藤間氏(右側)

子どもを自然の中でのびのび育てたいと考える移住者が増加

スタクラ:

北海道ならではのワークライフバランスやQOLについてはいかがですか?

藤間 恭平:

とても働きやすいところですね。基本的に札幌はコンパクトな街で、職住近接の環境にあります。東京から来た人は、みなさん生活環境に満足される印象です。
食の充実度をはじめ、物価や豊かな自然など、私たち北海道で生まれ育った人間にとっては当たり前のことに感動されるというか。

私も各地へ出張する機会がありますが、帰ってくると、きれいな空気やはっきりした四季など、住環境の良さを改めて感じます。休日には登山やスキーなどレジャーを満喫されている方が多いですね。また、飛行機が毎日かなりの便数で飛んでいるので、頑張れば日帰りで東京に行くことも可能です。

スタクラ:

お子さんを連れて移住される方もいらっしゃると思います。教育環境についてはどうでしょうか?

藤間 恭平:

自然の中でのびのび育てたいと移住してくる人が、最近かなり増えています。実はスタートアップの経営者の中にも、同じ理由で北海道に移住される人が少なくありません。札幌などの都市部だけでなく、自然豊かな地域に家を購入し、都市部とを行き来する2拠点生活をしているという話もよく耳にします。メリハリのある暮らしができますから、おそらく今後も2拠点生活はますます増えるでしょう。

ディープテック分野の事業に本格的に関わるなら移住が前提

スタクラ:

北海道のディープテックスタートアップの課題、道外から来て働く人が知っておくべきこと、覚悟しておくべきことはありますか?

藤間 恭平:

地方全般に言えることでしょうが、経営人材が足りません。光る研究シーズは多くありますが、それを事業化する人材が不足しています。

ディープテックスタートアップに関しては、研究拠点が北海道にあるため、フルリモートは厳しいのが現状です。本格的に携わるには移住が前提となるため、踏み出せない方が多いのかもしれません。しかしながら、住環境は本当に素晴らしいので、ぜひ思い切って踏み出していただきたいです。

スタクラ:

北海道ならではのミスマッチ事例はありますか?

藤間 恭平:

北海道の人には排他的な気質はないですし、地域ならではの理由はあまり聞かないですね。スタートアップは人手も少なく何でもやらなければいけないので、スペシャリストとして入ったのに想像と違う、という理由で離脱してしまう例は時々聞きます。

まだ早い段階のスタートアップが多いので、何でもやろうという姿勢のある方ならミスマッチはないだろうと思います。地方ならではの少し牧歌的な文化や価値観はありますが、それで辞めるという話はあまり聞かないです。この点については、適応していただくぐらいの気概がある方だと嬉しいです。

ただ、成長に対するスピード感が足りないという指摘もあるので、グロースフェーズ、とくにグローバルで戦う局面に入った場合は、チームの視座を一段上げる必要もあると考えています。

スタクラ:

北海道のディープテックスタートアップで働こうと考える人に、メッセージをお願いします。

藤間 恭平:

STARTUPHOKKAIDOは北海道の新しい産業の創出に取り組んでいます。ディープテック領域を中心に、まだ世にないものを作ること、社会を変えることに関心がある方は、ぜひ輪に入っていただきたいです。全力でサポートします。

スタクラ:

ありがとうございました。宇宙産業と一次産業、そしてGX。北海道の懐の広さと将来性を感じました。

この記事を書いた人

佐々木 志野


佐々木 志野

1976年生まれ。成蹊大学文学部卒業。広告制作会社や新聞社等に勤務後、2014年に独立。フリーランスのライターとして、制作会社などから取材・執筆業務を請け負う。専門分野は設けず、役所や学校など公的施設の取り組み紹介、事例紹介や採用インタビュー、農家や食品製造工場の取材など広範な分野に対応。

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北海道からグローバルな
スタートアップをうみだす

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