豊かな自然と手厚い起業支援で「住みよく働きやすい」長野県。ますます活気を増している、長野のスタートアップで働く魅力とは

長野県産業労働部 経営・創業支援課創業・承継支援係 関 遼樹氏

数あるスタートアップの中でも、「大学発ベンチャー」の存在感は日々増してきています。成功事例の登場に比例して国からの注目度も高まっていき、現在ではビジネスチャンス創造の場として広く認知されています。

各地域、それぞれ地元のビジネス創出を支援している中、特にスタートアップ支援に力を注いでいるのが長野県です。「大学発ベンチャー」を中核に、創業前から創業後まで、細やかなサポートを官民一体となって執り行っています。

今回は、そんな長野で創業支援に取り組んでいる、長野県産業労働部 経営・創業支援課 創業・承継支援係の関遼樹氏に、長野のスタートアップ・ディープテックの強みや、「今、長野のスタートアップ企業に参画するべき理由」について詳しくお話いただきました。

関 遼樹氏

創業・承継支援係
関 遼樹氏

■長野県庁入庁
・防災・消防分野
 市町村支援
・高齢者の分野
 市町村支援・計画策定等の地方行政に従事

■2022年民間企業出向
・スタートアップ支援
・オープンイノベーションイベントの企画・運営
・アントレプレナー教育推進

■長野県産業労働部経営・創業支援課
・創業、スタートアップ支援を担当

長野県産業労働部 経営・創業支援課

長野県産業労働部 経営・創業支援課
https://www.pref.nagano.lg.jp/index.html

地域の抱える課題をスタートアップの力で解決したい

スタクラ:

関様がスタートアップ支援に関わるようになったきっかけを教えてください。

長野県産業労働部 経営・創業支援課 創業・承継支援係 関 遼樹氏(以下敬称略):

大きな転換点となったのは、2022年のデロイトトーマツベンチャーサポートへの出向です。東京都や経産省のスタートアップ支援を一手に担う会社にて一年間、15社以上のモデレーターをやったり、全国の大学でアントレプレナー教育を行っていました。それがスタートアップ支援に携わるようになったきっかけです。

長野に来る前までは消防・防災分野で市町村支援をしたり、高齢者の介護といったヘルスケア領域で行政課題に取り組んでいたので、「官民一体となって地域課題を解決するべき」という問題意識は最初からありました。そういった気持ちが民間企業への出向経験を通じて「課題解決に取り組むスタートアップって素晴らしいな」という思いに育ち、今の自分につながっています。なので、「スタートアップと地域企業・市町村との橋渡しをする」地域イノベーターとしてがんばりたいという気持ちが強いですね。

アイデア創出から事業拡大まで、起業サポートを一手に担う

スタクラ:

長野県産業労働部のミッションや、実際に取り組んでいるスタートアップ支援の内容について教えてください。

関 遼樹:

まず、長野県が創業支援に取り組むようになった背景からお伝えします。実は10年ほど前までは、長野県は全国でも法人数ベースでの会社開業率が最下位に近い県だったんです。長野には精密機械を中心とした製造業が多くあり、「既存のものは安定していて潰れにくいが、新しい産業に人手を割く余裕もない」という構造がありました。しかし、時代の流れに合わせて産業転換の必要が生まれて、長野県は起業支援に注力するようになり、現在にいたります。

産業労働部では、創業前から創業後まで、一貫した様々な支援施策を行っています。「信州スタートアップステーション」が情報のハブになり、各種専門家への相談窓口の常設、アクセラレーションプログラムによる伴走支援、補助金や融資といった資金面でのサポートなどをメイン業務としています。他にも、アントレ教育の分野では、高校生が参加できるビジネスコンテストである「信州ベンチャーコンテスト」を開催していたり、企業の販路拡大や交流促進を目的にしたイベントもありますし、「ビジネスアイデアの構想段階」から「事業拡大のターン」まで、起業の各ステージに応じた適切な支援策を打っております。

特に、女性起業家向けの施策は、最近始まったフレッシュなものの中の一つです。現在、長野県立大学には「企(起)業家コース」という、起業家精神を育てるカリキュラムがありまして、そこの専任教員をされている渡邉さやか先生にマネージメントをしていただいて、産業労働部では女性起業家向けの各種相談やイベントを行っております。

「長寿県の知見」と「精密機械製造のノウハウ」を活かしたヘルスケア分野が強い

スタクラ:

長野のスタートアップやディープテックの特徴、働く上での魅力などについて教えてください。

関 遼樹:

まず、製造業という揺るがない土台がある上で、ものづくりを中心にするようなスタートアップが多いのは特徴の一つかなと思います。また、長野はりんごやお米のような農業や林業といった自然相手の産業が根付いている土地です。そのため、「農業へのドローンの活用」や「林業のAI化」といった研究や事業ができるフィールドがあるというのも、長野の面白さの一つでしょう。それらに加えて、長野は「長寿県」と言われている県です。介護分野の発展はもちろん、精密機械の製造で得たノウハウを医療技術に転換してビジネスを行っている企業も多く存在します。そういった領域で活躍するスタートアップが多いのは、長野ならではの点だと思いますね。

働く魅力としては、食を始めとした生活面でのQOLの高さが挙げられると考えています。軽井沢のように過ごしやすい土地が多く、東京から程よい近さにある長野は子育てのみならず、ワークライフバランスの観点からもおすすめできる土地です。例えば、我々は「リゾートテレワーク」という言葉を使っているのですが、スタートアップやフリーランスの働き方の選択肢の一つとして、「テレワークを駆使することで、長野でリゾート的な生活を楽しみながらビジネスをする」というのも良いのではないでしょうか。

長野県の創業支援施策より

長野県の創業支援施策より

ディープテックに必要な資金と経営人材をどう供給するかが課題

スタクラ:

快適な住環境が整い、スタートアップに対する支援も手厚い長野県ですが、一方で課題だと感じていることはありますか。

関 遼樹:

まず、長野のスタートアップ全体の傾向として、「技術ドリブン」であることを感じています。企業の売りになるテクノロジーを強く打ち出せるのはとても良いことなのですが、そのぶん、現場に経営人材が足りていない印象があります。場合によっては、適任な人材がいないので、起業した先生自ら経営も合わせて行うケースが散見されます。もちろん、それで成功される事例もあるかもしれないのですが、やはり会社経営に長けた専門の方がいたほうがうまく成長できる可能性は高まりますよね。

東京の会社ですら人手不足と言われていますから、必要な経営人材を確保するのはやはり難しいですね。自前で供給するために長野でも人材育成に取り組んではいるものの、成果が出るまでにはまだ時間が必要そうな印象があります。なので、即戦力となる人を各地からお招きして解決しているというのが現状ですね。ただ、今は副業を推奨する流れがありますし、通常の形態での雇用が難しいのならば、雇用の流動性を上げて経営人材のマッチングを実現するのも一つの手だと思っています。

人材以外の部分でいうと、資金の面で、「創業初期のリスクマネーが不足している」と思っています。地域の金融機関にお声掛けをして連携ファンドを作ってはいるものの、やはり長野単体では解決できない問題でして、ディープテック系スタートアップを成功に導くには、より大きな資金調達が必要だと日々痛感しております。東京の大きなVCを含めたリスクマネー供給体制の整備は喫緊課題の一つです。

関東との行き来のしやすさを活かして、二拠点という選択も取れる

スタクラ:

長野県のスタートアップで働こうと思っている人に対して、「ここは気をつけておいたほうがいい」というアドバイスはありますか。

関 遼樹:

長野も広いので一概には言えませんが、「思っているよりも長野は寒いぞ」と伝えたいですね。例えば、冬は水道管が凍ったりします。寒さについてはあらかじめ覚悟しておいたほうがいいです。スタートアップにフォーカスしたアドバイスだと、「しっかりコミュニティに入っておくと良い」ということですかね。どうしてもスタートアップは「村」になりやすいところがあると思うので、コミュニティのネットワークから外れないように、意識的に行動することをおすすめします。

あと、地域のコミュニティも重要だと思います。特に、移住して働くのならば、「地域に馴染めるかどうか」は大きな問題となるでしょう。長野に来てほしいと思う反面、やっぱりミスマッチは起こってほしくないとも思っています。ご興味のあるかたには念のために「お試し」で来ていただくようにしているのですが、残念ながら地域にマッチできずに帰ってしまわれるかたは一定数いますね。まだまだ地域のスタートアップへの理解度も高くないですし、スタートアップが否定的に捉えられてしまうケースもあるので、正しく理解してもらうフェーズを乗り越えないと、ビジネスをする上でなかなか難しいところがあるでしょう。

ですが、やはり長野は関東から近い県ですし、新幹線を使えば気軽に行き来ができる土地でもありますので、あえて移住をしない選択もあると思うんです。移住していただけるのはもちろん素晴らしいことなのですが、移動のしやすさを活かして「拠点を複数持つ」という意識で働くのもありではないかと考えています。

「程よい距離感の起業支援が充実している」ことが長野の魅力

スタクラ:

最後に、「これから長野県のスタートアップで働こう」と考えているかたに向けてメッセージをお願いします。

関 遼樹:

チャレンジしたいかたにとって長野県は「程よい距離感での支援が充実している県」だと感じております。近すぎず遠すぎず、いろんな支援が受けられる地域ですので、起業であるとか、ディープテックのフィールドとして長野を選択するというのは、とても良いチョイスだと思いますね。

内陸地域なこともあって、長野県はやはり堅実な方が多く住む土地です。しかし、精力的に挑戦しているかたがいることもまた事実です。議論好きな傾向も手伝って熱気を内に秘めておりますので、アクションを起こしたいかたと気持ちがうまく噛み合えば、きっと大きなビジネスが生まれるのではないでしょうか。

スタクラ:

素敵なお話をありがとうございました。

この記事を書いた人

アバター画像


スタクラ編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」スタクラの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

長野県産業労働部 経営・創業支援課

長野県産業労働部 経営・創業支援課
https://www.pref.nagano.lg.jp/index.html