
2030年には2110億ドルの市場規模になると予測される生成AI。生成AIは社会のあらゆるシーンを変革する可能性を秘めた技術といえます。しかし、セキュリティなどの問題から、世界と比べると日本における生成AIの活用は遅れていると言わざるを得ません。
そんな背景のもと、東京大学松尾研究室で培った最先端技術を、多様なビジネスの現場へタイムリーに応用し、企業の課題解決に貢献しようと取り組んでいるスタートアップがあります。それが株式会社neoAIです。
同社の代表取締役である千葉駿介氏は、東京大学工学部在学中にAirCloset社やサイバーエージェント社でのインターンシップ経験を経て、neoAI社を創業。2024年9月には、「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2024」のSCIENCE & TECHNOLOGY & SOCIAL部門にも選出されました。
高校時代までは全く起業を考えておらず、どちらかといえば副リーダーポジションを好んでいたという千葉氏。そんな彼がなぜ、大学在学中に起業という道を選んだのか。千葉氏の生い立ちからneoAI社立ち上げまでの経緯、そして創業後に感じた壁や今後の展望について詳しくお話を伺いました。

代表取締役
千葉 駿介氏
2001年生まれ。東京大学工学部に進学後、2022年に東京大学松尾研究室発のスタートアップとしてneoAIを創業。大企業を中心に生成AIの開発およびコンサルティングサービスなどを提供。自社開発した生成AIプラットフォーム「neoAI Chat」は、ゆうちょ銀行をはじめとして数十社の企業に利用されている。2024年には「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」に選出された。

株式会社neoAI
https://neoai.jp/
- 設立
- 2022年08月
- 社員数
- 60名(アルバイト・業務委託含む)
《Mission》
圧倒的なスピードで、研究とビジネスに橋を渡す。
《事業分野》
AI
《事業内容》
株式会社neoAIは、生成AI領域に特化した東京大学・松尾研発AIスタートアップです。さまざまな業界の課題に対し、生成AI技術を駆使した解決策を提供しています。言語生成AIや画像生成AIのソリューション提供や共同研究を多数実施。法人向け生成AI活用プラットフォーム「neoAI Chat」の開発と「neoAI Research」(研究組織)で常に最新技術をキャッチアップ・活用できる体制を整えております。
- 目次 -
数学好きの幼少期とスタートアップマインドを育んだ母の言葉
まず、千葉さんの生い立ちからお伺いします。現在に繋がる原体験のようなものがあれば教えてください。
幼少期から私は、算数や天文学が大好きな子どもでした。当時は問題を解くことが楽しく、ゲーム感覚でどんどん進めていたように思います。公文式に通わせてもらっていたので、小学生の時点で高校・大学レベルの数学を先取りして解いていました。
そんな私とは対照的に、2歳下の弟は体育会系でした。私よりも体格が良く、一緒に少年野球をしていても上達スピードが全く違っていました。そんな彼の姿を見ているうちに、人には向き不向きがあるのだと悟り、自分の得意分野に集中しようと決めました。
子どもの頃から今に至るまで、私に大きな影響を与えたのは母の存在でした。「根拠のない自信をもちなさい」と、母は口癖のように言っていました。おかげで、成功の根拠を求めるよりもまずは実践してみるという考え方が身につきました。振り返ってみると、母が示してくれた根拠のない自信がスタートアップマインドの原点だったのだと感じます。
とはいえ、起業を意識しはじめたのは東京大学に入ってからのことで、それまでは決して強いリーダーシップを発揮するタイプではありませんでした。どちらかといえば副リーダー的なポジションが多く、周りを支える役割を好んでいたように思います。
ビジネスコンテストKINGの組織運営での挫折と気づき
大学受験の際に、人生の転機が1つ訪れました。当時、東京大学の理科一類と慶應義塾大学医学部を併願していたのですが、東大の合格発表の翌日に、慶應からも補欠合格の連絡が来たのです。
どちらに進学するかで、人生が大きく変わるであろうことは予想できました。そこで、この先自分はどんな生き方をしたいのかを考えました。医者になれば、ある程度、安定した未来は決まるでしょう。一方で、東大に進めば、さまざまな選択肢が選べるだろうと思いました。
10代で人生のレールを決めてしまいたくない。どうせなら振れ幅を大きく、人生の可能性を広げていきたい。そんな思いから、最終的には東大に進学。そこで、ビジネスコンテストKINGというビジネスコンテストの運営団体に出会いました。
人生の振れ幅を求めるなら起業だろうという思いつきから、ビジネスコンテストKINGに入った私は、そこで代表を引き継ぎ、組織の作り方や運営方法を学ぶことになりました。組織運営は本当に大変で、自分の力不足に何度も悩みました。
特に、30名規模だった組織が半年で約半数になってしまったときは、本当にショックでした。前の代表と比べると、私は華やかさがなく、カリスマ性も足りない。そんな自分の無力を突きつけられたような気持ちになり、心が押しつぶされそうでした。
そんな時に自分を救ってくれたのは、KINGの前代表だった方から言われた「リーダーシップはスキルだ」という言葉でした。天性の才能ではなくスキルだというなら、努力を重ねれば理想的なリーダーにも届くはず。そう思えたからです。

インタビューは東京のneoAI社オフィスにて行われた。千葉氏(左側)とインタビュアーの弊社藤岡(右側)。
インターンで組織づくりを学び、KINGの組織立て直しに成功
上手くいっている組織から学んで、もっと力をつけたい。そんな考えから、公孫会のOBの方に紹介いただいたAirCloset社のインターンシップに参加を決めました。AirCloset社では、ビジネスサイドの業務を主に担当し、データ分析や戦略立案に携わらせてもらいました。
明確なバリューをもとに、カルチャーを築いているAirCloset社の組織のありようや代表の天沼聰さんの振る舞いを見ているうちに、「組織とは、こうやって作るものなのか」と学ばせてもらいました。
そこで得た気づきをもとにKINGの運営も見直していったところ、組織の状態もどんどん回復。最終的には、私の代で70名ほどの規模に成長させることができました。この時の経験があったからこそ、現在のneoAIで組織づくりがある程度順調に進んできているのだと感じます。
大学2年の中盤になり、AirCloset社でのインターンが終わり、KINGでの活動も一段落したところで、東大での進路選択の時期を迎えました。工学部のシステム創成学科を選んだ私は、どうせならテクノロジーをとことん自分の武器にしたいと考え、サイバーエージェント社のインターンへの参加を決めました。ここでの経験が、次の大きな転機となりました。
AIの可能性を体感し、組織を求めて創業
サイバーエージェントでは、AIエンジニアとして GPT-2を広告領域にファインチューニングするプロジェクトに携わらせていただきました。当時はまだGPT-3が出たばかりの時代で、 「GPT」という言葉自体が一般にはほとんど知られていませんでした。しかし、私はこの時「これから世の中を変えていく技術だ」と予感したのです。
当時、私はスタートアップのCTOを目指して、技術を追求しようと考えていました。しかし、AI技術の面白さにどっぷり浸かりながら、心のどこかで 「もう一度リーダーとして組織を作りたい」という気持ちも捨てきれていませんでした。
この葛藤をどうするべきか。松尾研究室の松尾豊先生と先輩起業家である燈株式会社の野呂侑希さんに話してみたところ、「AIの会社を作って、両方やればいい」というアドバイスをいただきました。その一言に「それもありか」と思い、半年の準備期間を経て、2022年8月にneoAIを創業しました。
営業を断られ続けながら、仲間と耐え抜いた無風の半年間
創業から今に至るまでの間で、特に苦労された部分などあれば教えてください。
neoAIの立ち上げメンバーは6名。東大の同じ科の同期仲間で始めたので、全員がテクノロジーには強いものの、ビジネス経験は全くありませんでした。そこで最初のメンバーは業務委託としてジョインしてもらい、役員は無給という状態から始めました。
幸い固定費はほとんどかからなかったため、支出は非常に少なくすみました。問題は収入のほうです。最初の半年間で受注した案件はごくわずか。営業に行っても全く相手にされず、ベンチャーキャピタルの方からは、「今からAI? Web3.0をやりなよw」と冷ややかな反応を受けました。
なぜなら、当時はChatGPTがまだ世に出ておらず、AI業界はすでにディープラーニングの成熟期 に入っていたため、新しいAI企業を立ち上げても、簡単には注目されない時代だったからです。
既存のプレイヤーが市場を押さえていたため、当時は「AIのビジネスチャンスはもうない」 という空気さえ漂っていました。「何のためにあなた達はその事業をやっているのか」と質問され、言葉に詰まる日々。アポのたびに断られ続け、自分たちが必要とされていないという感覚に陥っていくのは、本当に苦しかったです。

neoAI社の主力プロダクト。エンタープライズ企業が、ノーコードでAIエージェントを構築・運用できる生成AIプラットフォームを提供している。
画像生成AIサービスへの挑戦から見えてきた新たな活路
半年間続いた無風状態を打破するきっかけになったのが、 画像生成AI でした。2022年の秋に、Stable Diffusion が登場。ちょうどChatGPTが脚光を浴びる前のタイミングで、画像生成AIが先に注目を集め始めていました。
「この技術を使って、何かビジネスにできないか」と考え、みんなで作り上げたのが、AIによる顔アイコン生成サービス「DreamIcon」です。これは自分の顔写真を送ると、AIが様々なイラスト風に変換してくれるという toC向け画像生成サービスだったのですが、犬や猫のバージョンも後に作りました。
とにかく生成AIで何が出来るのかを模索しながら、小さなビジネスを試し続けた時期でした。とはいえ、toCサービスの限界にもすぐに突き当たりました。一時的に人気が出ても、すぐに類似サービスが登場するので、差別化が難しく、しかも単発の売上が中心になってしまうため、継続的な収益が生まれにくいという欠点がありました。
資金調達に踏み切り、全力で挑んだゆうちょ銀行様とのPoC
2023年当初の風潮として、2022年11月にChatGPTが公開されたものの、その真価に対して多くの人は懐疑的な状態でした。しかし、私たちは すでに画像生成AIを手がけていたこともあり、その技術の可能性をすでに肌で感じていたのです。
今こそ、生成AIの方向で事業をもっと本格的に進めるべきだ。そう考えた私は、2023年初頭に シードラウンドで5500万円の資金調達を実施。当時の売上が月100万円を満たない中で、思い切った決断ではありましたが、資金調達をしたことで覚悟が固まりました。
toCサービスは厳しい。でもそこで培った生成AIの経験を、toB向けに転用していければ、ビジネスチャンスがあるのではないか。そこで、企業が抱える業務課題に対して、生成AIを組み込み効率化していくための取り組みを始めました。
幸運なことに、シードラウンドの資金調達をプレスリリースで発表したタイミングで、ゆうちょ銀行の方からお問い合わせをいただき、社内データとChatGPTを組み合わせたサービスを作ることになりました。
大手と比べ、私たちneoAIは組織が小さい分、圧倒的なスピードでシステムの開発・納品が出来る点が強みでした。ゆうちょ銀行様のプロジェクトに人生の全てを賭ける勢いで、全員で開発に集中した結果、わずか1ヶ月での一次納品を達成できました。
お客様にご満足いただけるレベルのシステムを無事に完成させることができ、2023年中盤にはプレスリリースを発表。当時としては 金融機関での生成AI活用は非常に珍しかったため、大きな注目を集め、他の金融機関からも次々にお問い合わせを頂くことができました。

2024年12月、事業拡大に伴いオフィス移転した際の記念パーティにて撮影。
RAGを活用した企業向けAIソリューションで一気に成長
ゆうちょ銀行様とのプロジェクトを機に、neoAIの成長は一気に加速しました。ゆうちょ銀行の方々には、今でも大変お世話になっており、感謝しかありません。
ChatGPTが話題になった当時、世間の注目は「プロンプトの工夫」に集まっていました。しかし私たちは、企業が持つ膨大なデータと生成AIを組み合わせたサービス構築の方がよりお客様のお役に立てるのではないかと考えました。
検討を重ねた結果、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用した企業向けAIソリューションへのシフトを決めました。RAGを用いることで、生成AIに企業独自のデータを組み込み、実際の業務に即した回答を提供できるようになります。そのほうが、さまざまな業界の課題解決に貢献できると考えたのです。
ありがたいことに、三井不動産から転職してきてくれた正社員第一号の藤本泰成をはじめ、このタイミングから優秀な人材もneoAIに参画してきてくれました。おかげで組織がどんどん強化されていき、変化の激しい生成AI市場でも戦える体制を整えることができました。
AI導入の分断を解消し、日本のDXを推進する基盤をつくる
これから企業ごとに業務特化型のAIエージェントが導入され、各従業員がAIを「部下」として指示・管理する世界が訪れるのではないかと考えています。そうなれば、企業が 「AIをどうマネジメントするか」 が新たな課題として浮かび上がってくるでしょう。
現状、多くの企業が セキュリティの兼ね合いからAIシステムをフルスクラッチに近い状態で開発せざるを得ないため、開発コストが膨らんでしまっています。しかし、このままだと非効率ですし、導入スピードも遅くなってしまいます。企業ごとのAIシステムを個別に開発するのではなく、共通のソフトウェアをSaaS型で利用する形が理想です。
ただ、セキュリティ要件が厳格な業界だと、クラウドベースのAIを全面導入できないため、既存の社内システムとAIをどう統合していくかが、エンジニアリング上の大きな課題です。既存システムとクラウドのシステムを滑らかに連携させるための共通基盤の開発がこれから必要になってくると思います。
neoAIでは、現在、複数の企業とのプロジェクトを通じて、ノウハウを集約し、効率的なAI基盤を構築できるように取り組みを進めています。特に金融機関向けには、セキュリティ要件を満たした形でAIを統合するソリューションを開発し、各社に適用できるモデルを提供できるようにしています。
企業ごとのバラバラなAI導入を防ぎ、よりスピーディかつ低コストでの導入が可能な仕組み を作れれば、日本企業のDXは間違いなく加速していきます。生成AI技術を駆使して、日本のビジネスの仕組みを根本から変えていけるように、neoAIはこれからも最先端を走り続けます。
生成AIの先駆者として、最前線を仲間とともに走り続ける
生成AI市場は、今時点で最先端の技術が1年後にはあっという間に普及し、当たり前になってしまう世界です。RAGにしても、最初に着目したのは当社を含めごく少数の企業だけでしたが、1年も経たないうちに広まり「特別な技術」ではなくなりました。
だからこそ、neoAIでは「R&D(研究開発)チーム」と「ソリューション(社会実装PJ)チーム」、「ソフトウェア開発チーム」という 3つの専門チーム を構成し、研究・社会実装・ソフトウェア化のサイクルを高速で回す仕組みを採用しています。
いかに早くシーズを見つけ、実装し、システムとしてのクオリティを高めるか。もちろん全ての技術が技術化できるわけではなく、成功したサービスの裏側には多数の失敗事例があるのですが、それでもマグロのように常に泳ぎ続けていなければ、あっという間に置いていかれてしまいます。そのため、常に危機感を持ちながら、事業を展開しています。
ただ、neoAIは、業務委託を入れれば70名規模の小さな組織ですが、優秀な人材にも恵まれていますし、組織力と実行力次第で十分に大手とも勝負していけるとは思っています。最近50代や60代の方も正社員としてジョインしてくれたのですが、みんな「ギークに仕事をする」という指針のもと、楽しそうに目を輝かせながら日々業務に取り組んでくれています。
neoAIの組織は、同心円の中央に経営陣がいて、そこから部長・メンバーというかたちで輪が広がっていくような構造を意識して作っています。それぞれがそれぞれの場で円の中心にもなれるし、同心円全体の中央に入りこんできてくれれば、会社全体の意思決定にも関与できる割合も増えていきます。
neoAIはまだまだ正社員15名の規模なので、経営陣との距離も近く、意思決定に関われるチャンスはたくさんあります。また、事業自体はすでに黒字化しており、しっかりと利益も出ているので、「最先端のAIサービスを自らの手で作りたい」「腰を据えてチャレンジしたい」という人には最高の環境だと自負しています。生成AIの先駆者として、私たちと一緒に未来へ向かって駆け抜けていく仲間と新たに出会えることを、今から楽しみにしています。
本日は貴重なお話をありがとうございました。

株式会社neoAI
https://neoai.jp/
- 設立
- 2022年08月
- 社員数
- 60名(アルバイト・業務委託含む)
《Mission》
圧倒的なスピードで、研究とビジネスに橋を渡す。
《事業分野》
AI
《事業内容》
株式会社neoAIは、生成AI領域に特化した東京大学・松尾研発AIスタートアップです。さまざまな業界の課題に対し、生成AI技術を駆使した解決策を提供しています。言語生成AIや画像生成AIのソリューション提供や共同研究を多数実施。法人向け生成AI活用プラットフォーム「neoAI Chat」の開発と「neoAI Research」(研究組織)で常に最新技術をキャッチアップ・活用できる体制を整えております。