
虚血性疾患とは、動脈が狭窄や閉塞することで血行が悪化し、体組織に酸素が行き渡らなくなることで発生する疾患です。悪化すれば組織が壊死し、部位の切断を余儀なくされる可能性もあります。
根本的な治療は血流を改善することですが、血管内治療やバイパス手術以外の手法の一つとして注目されているのが血管再生医療です。
順天堂大学では難治性虚血性下肢潰瘍に対する細胞治療の医師主導治験を開始するなど、この分野に対して積極的にアクションを起こしています。その中で誕生したのが順天堂大学初医療ベンチャーの株式会社リィエイルです。
今回は血管再生医療技術を活用した事業を展開している株式会社リィエイル代表取締役の田中里佳氏及び同取締役の本多壮一郎氏にお話をお伺いしました。
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代表取締役
田中里佳氏
帰国子女で東海大学医学部に入学。2002年卒業後、同大学医学部形成外科を経て、2006年から米国ニューヨーク大学形成外科学教室に留学。2007年、東海大学大学院にて博士号取得(医学)。東海大学医学部外科系形成外科助教、医局長、順天堂大学医学部形成外科学講座助教、准教授、先任准教授を経て、2020年より現職。順天堂医院足の疾患センター長、難病の診断と治療研究センター難治性疾患・再生医療実用化研究室長も務める。臨床の専門分野は、創傷治癒(難治性潰瘍)、再生医療、フットケア、レーザー治療(母斑、美容)、瘢痕ケロイド、創傷外科、美容外科など。研究の専門分野は血管再生、血管幹細胞生物学、創傷治癒、応用研究、細胞治療など

株式会社リィエイル(順天堂大学発)
https://www.re-eir.com/
- 設立
- 2017年09月
- 社員数
- 9名
《ミッション》
私たちは、“採血だけ”で実現可能な再生医療・細胞治療の開発・製品化を通して、これまで重篤な病気により絶たれてきた“患者”と“社会”の縁を取り戻し、新しい人生の“蕾”を再び芽吹かせることを目指します。
《事業分野》
医療・創薬
《事業概要》
再生医療・細胞治療の開発及び製品化

取締役
本多壮一郎氏
1987年、福岡県生まれ。新卒で英系医療機器メーカー Smith & Nephew に入社し、プロダクトマネージャーとして新製品「PICO創傷治療システム」のローンチを担当。日本における新たな治療法の普及に貢献する。
その後、酪農・畜産向けDX企業 株式会社ファームノート にて取締役 兼 事業統括を務め、事業の成長を牽引。現在は 株式会社リィエイル の取締役COOとして、世界初の少量血液採取による再生医療技術の事業開発に従事している。

株式会社リィエイル(順天堂大学発)
https://www.re-eir.com/
- 設立
- 2017年09月
- 社員数
- 9名
《ミッション》
私たちは、“採血だけ”で実現可能な再生医療・細胞治療の開発・製品化を通して、これまで重篤な病気により絶たれてきた“患者”と“社会”の縁を取り戻し、新しい人生の“蕾”を再び芽吹かせることを目指します。
《事業分野》
医療・創薬
《事業概要》
再生医療・細胞治療の開発及び製品化
- 目次 -
幼少期の体験が生んだ「人の役に立ちたい」という想い
田中様が現在の事業に目覚めたきっかけは幼少期の頃の経験にあるとお伺いしましたが、詳しく聞かせていただけますか?
私の両親は会社経営者で、親族にも会社員はほぼおらず、周囲は独立した事業主ばかりという環境で育ちました。会社の事業が成功していたこともあり、幼少期はアメリカで裕福な生活を送っていましたが、次第に会社の事業が傾いていき、食べていくだけで精一杯という経済的困窮を経験しました。
周囲の人たちの手のひら返しのような対応を目の当たりにして、お金の価値を再認識するとともに、お金のためだけでなく人として価値のある仕事をしたいと強く思うようになった出来事です。
また、ボランティア活動を通して医療の世界を知り、誰かのためになる仕事を志すようになりました。「自分が世の中にために何ができるか」を突き詰めて考え、その解答が医師ということです。
その後必死に勉強して医学部に合格したのですが、奨学金を含めさまざまなところから学費を調達するなど、金銭的な苦労は続きましたね。
その幼少期の体験が現在のアグレッシブな姿勢の基でもあるのですね。
先ほどのお金の話にも関連しますが、周囲の人たちの応援もいただき、なんとか医師として成長することができました。次は私自身が医学の発展に貢献したい、自分が生きてる価値を再生医療に見出したいと考えています。
患者を救うための手段を血管再生医療に見出す
再生医療を志したのは医学生になったばかりの頃ですか?
研修医時代に「自分が手を施すことによって、患者の状態の改善が期待できる」という点で外科(形成外科)に適性があることを認識しました。ただ、壊死した組織を蘇らせることは外科手術では不可能です。この外科的な治療の限界に対して、再生医療を組み合わせることでより多くの患者を救うことができると考えました。
その後、血管再生治療の研究に従事している時期に、下肢切断しなければならない患者を診る経験をしました。組織に血が巡り栄養が行き渡っている状態でなければ、どんなスーパー外科医でも手術できません。血管再生治療が最も必要とされる患者は、血流悪化に伴い身体の一部の切断などの治療を要する疾患を持っている方だと考えます。
ただ、血管再生医療分野は事業的な側面で見るとハイリスクハイリターンです。大手企業が投資あるいは出資するにはかなりのリスクを伴うため、このシーズをサスティナブルに実用化するためには、研究と並行しながら事業化したほうがよいと決断しました。
事業化に伴い、パートナーとして本多様が参画されたということですね。
実はその前にひと騒動ありました。元々私は代表ではなくCSO(Chief Strategy Officer)の立場で研究だけを担当し、経営は別の方に任せていたのですが、資金繰りの悪化が表面化し、休眠状態となったんです。その後、私自身が主導権を持って社会実装を進めていかなければならないと思い、2024年に代表に就任しました。
代表の田中とは10年来の知り合いになります。私は当時日本で最新の治療法で、難治性潰瘍の患者に対する医療機器のプロダクトマネージャーをしていました。その時に田中と出会い、彼女の臨床医としての「患者さんのために」という思いに感銘をしたのを覚えています。
その後、私は「事業」を通して人々の豊さに貢献することに興味があったため、経営を実践すべく全く異なる事業領域のスタートアップにジョインし、取締役事業統括として事業成長にコミットしておりました。過去の出会いからの実績を買っていただいたということもあり、再び田中と一緒に事業を手掛けることになった次第です。
再生医療等製品の開発を通して虚血性潰瘍等で苦しむ患者を減少させる
リィエイルという会社名にはどのような意味が込められているのでしょうか?
エイルというのは北欧神話に登場する女神のことで、死者を蘇らせる能力があると記されています。私が女性医師でもあり、神話へのオマージュの意味もこめて会社名としました。再生医療がリジェネレーションの意味を持つため、reを頭に付けています。
現在の事業について詳しくお聞かせください。
我々は研究開発主導の会社です。主には少量の自己血液から、高い血管再生能と組織再生能を有するヘテロジニアスな細胞集団を増幅させる培養技術※を用いた再生医療関連製品の開発を主に行っています。
大学の研究グループでは自己末梢血培養単核球細胞群を活用し血管の新生・再生により微小血管を増やすことで、組織の血流量を増加させるという治験を行っており、その社会実装が目的です。
加えて、国内では再生医療安全性確保法という法律があり、その枠内でしっかりとエビデンスを構築する手法にて細胞提供を行います。患者さんのQOLを改善するような製品開発もあります。これを病院やクリニックで提供し様々疾患に対して実用化を加速したいと思っています。
※患者の少量の血液から「強力な血管再生作用および創傷治癒作用を有する細胞集団」を製造・移植できる技術。難治性潰瘍、下肢虚血など多くの虚血性疾患に効果的な血管・組織再生治療として応用できる可能性がある。(特許取得済み)
研究に没頭していたら会社がいつの間に他人のものに!?
会社の設立から現在までに相当な苦労があったようですね。
設立時は私が経営にはノータッチでした。研究開発がメインの職務でしたので、経営に携わってなかったです。経営側はシーズ(再生医療)に対して私と同じほどの思い入れが無いためか、なかなか話がかみ合わない時期があったんです。
そこで、私が代表になる覚悟をもとに3年ぐらい休眠期間を設けてチーム作りから始めました。
本多様が経営に参画されてからは順調に推移しているようですね。
私自身は現在取締役として、計画実行の将来的な事業創造のための計画作りから実行、そして資金調達なども対応しています。研究開発主導の会社として、外部の企業とのアライアンス締結なども担いつつ、会社の未来像を構築しています。
IPOも視野に入れつつ、根底にあるのは医療に対する情熱と行動力
株式会社リィエイルの将来的な目標についてお聞かせください。
2030年までのIPO等の計画もありますが、当面の目標としては自己末梢血単核球細胞群の再生医療製品の薬事承認目指し、保険適用した上で虚血性疾患(潰瘍)で苦しんでいる患者さんに届けたいと考えています。そのために自由診療での売り上げを開発費用創出に充てるなど我々独自の挑戦もあります。弊社が開発した自己末梢血単核球細胞群を用いて抗炎症作用や創傷治癒に適用するなど、弊社の再生医療技術の可能性を広げていくことを考えています。
そのためには今後どのような人材を求めていきますか?
弊社の事業運営の根底には「患者を救いたい」「社会に貢献したい」という思いがあり、単なる利益追求ではなく、社会とのバランスを重視しています。ベンチャー企業であるため、成長意欲が高く、自ら問題意識を持って解決できる人、指示待ちではなく主体的に行動できる人材などが要件となります。会社の成長やお金がモチベーションになるのも理解できますが、やはり一番は「患者のために何をなすべきか」という軸を持っている人ですね。
貴重なお話、ありがとうございました。

株式会社リィエイル(順天堂大学発)
https://www.re-eir.com/
- 設立
- 2017年09月
- 社員数
- 9名
《ミッション》
私たちは、“採血だけ”で実現可能な再生医療・細胞治療の開発・製品化を通して、これまで重篤な病気により絶たれてきた“患者”と“社会”の縁を取り戻し、新しい人生の“蕾”を再び芽吹かせることを目指します。
《事業分野》
医療・創薬
《事業概要》
再生医療・細胞治療の開発及び製品化

株式会社リィエイル(順天堂大学発)
https://www.re-eir.com/
- 設立
- 2017年09月
- 社員数
- 9名
《ミッション》
私たちは、“採血だけ”で実現可能な再生医療・細胞治療の開発・製品化を通して、これまで重篤な病気により絶たれてきた“患者”と“社会”の縁を取り戻し、新しい人生の“蕾”を再び芽吹かせることを目指します。
《事業分野》
医療・創薬
《事業概要》
再生医療・細胞治療の開発及び製品化