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豊かな自然を有する長野県はレジャーの場や避暑地として名高い土地ですが、近年、「大学発スタートアップ」の機運が高まっています。産官学が密に連携を取り、都心部以上の熱意と勢いで、新しいビジネスを世に送り出しています。
信州大学は、平成29年10月に知的財産・ベンチャー支援室ベンチャー支援グループを立ち上げて以降、大学の研究成果、またはその他の活動成果をもとにした「信州大学発スタートアップ」の創出や成長を日夜支援しています。
今回は、そんな信州大学でスタートアップ・事業化推進室の室長を務める岡崎壮悟氏と、同大学特任教授の角田哲啓氏に、長野県でスタートアップに参画するメリットや、同県の起業支援の実際について詳しくお話いただきました。
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学術研究・産学官連携推進機構 スタートアップ・事業化推進室 室長
岡崎壮悟氏
1980年東京生まれ。これまで事務職員として、基礎研究の支援業務((独)日本学術振興会への出向含む)、産学連携の推進業務(文部科学省への出向含む)に従事し、2017年10月よりスタートアップ支援を担当。2024年4月1日よりスタートアップ・事業化推進室室長。NEDO SSA Associate。
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信州大学
https://www.shinshu-u.ac.jp/
信州大学は、信州の豊かな自然、その歴史と文化、人々の営みを大切にします。
信州大学は、その知的資産と活動を通じて、自然環境の保全、人々の福祉向上、産業の育成と活性化に奉仕します。
信州大学は、世界の多様な文化・思想の交わるところであり、それらを理解し受け入れ共に生きる若者を育てます。
信州大学は、自立した個性を大切にします。
信州大学で学び、研究する我々は、その成果を人々の幸福に役立て、人々を傷つけるためには使いません。
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学術研究・産学官連携推進機構 特任教授
角田哲啓氏
東京理科大学工学部卒 経済産業省関東経済産業局及びNEDOにて研究開発や中小企業支援関係の業務を担当。2016年6月から信州大学学術研究・産学官連携推進機構にて、大学の研究成果の事業化支援や大学発ベンチャーの創出・成長支援等を担当。IJIEプログラム共同代表者・事務局長。
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信州大学
https://www.shinshu-u.ac.jp/
信州大学は、信州の豊かな自然、その歴史と文化、人々の営みを大切にします。
信州大学は、その知的資産と活動を通じて、自然環境の保全、人々の福祉向上、産業の育成と活性化に奉仕します。
信州大学は、世界の多様な文化・思想の交わるところであり、それらを理解し受け入れ共に生きる若者を育てます。
信州大学は、自立した個性を大切にします。
信州大学で学び、研究する我々は、その成果を人々の幸福に役立て、人々を傷つけるためには使いません。
- 目次 -
起業家教育から会社設立サポートまで、一気通貫した支援を行う
信州大学のスタートアップ支援に対してのビジョン・ミッションや、具体的な取組内容を教えてください。
信州大学のスタートアップ・事業化推進室は、「大学で生まれた研究成果を社会実装する出口の一つ」として、スタートアップ支援を位置づけております。主な活動の1つは、起業前支援ですね。
スタートアップ起業に関心を持つ教職員や学生に対して事業計画の作成方法、学内手続きや会社設立のサポートから、金融機関とのマッチングも行う「ハンズオン支援」があります。
また、起業の前段階として、アントレプレナー教育にも力を入れています。これは理工系大学院の修士課程向けに、「研究成果から事業計画を作り、メンターとともにブラッシュアップしたのち、模擬ピッチで発表する」といった実践的カリキュラムを行うものでして、この授業を受けてIJIE-GAPファンド(※)で採択された卒業生もすでにいます。今後も、こういった取組の中から若手起業家が輩出されることを望んでいます。
他には「信州大学ベンチャーピッチ」といったコンテストを開催して、スタートアップ創出の機会を作っています。
また、起業というよりも知財の活用支援に近いのですが、「信州大学POCファンド」では1件100万円くらいの細かな資金提供を行っております。この資金で試作品を作ったり、企業に提示できる有効なデータを採ることで、大学に眠っている未利用の特許を実用化しよう、という試みですね。こういったプログラムも、起業前の活動準備としてご活用いただいております。
その他には、晴れて起業した暁には「信州大学発スタートアップ」の認定を行っていて、認定となったスタートアップには通常認めていない学内登記を認めたり、学内のインキュベーション施設を低廉な価格で貸与したりと、より進んだ支援ができる体制を整えています。
※甲信・北関東の7大学の研究成果・技術シーズに基づくスタートアップを創出するプラットフォーム「Inland Japan Innovation Ecosystem(IJIE:アイジー)」において実施しているGAPファンドプログラム。
先生方のやる気に感化されスタートアップ支援を選んだ
お二方がスタートアップ支援に関わるようになったきっかけはなんですか。
私はもともとは関東経済産業局に勤めておりました。そこで中小企業支援や研究開発支援を行っていた中で、信州大学へ出向したのがお付き合いのきっかけです。そうしたバックグラウンドがあったため、産学連携の支援全般を担当していたのですが、着任して1年後くらいに、学内でいくつものスタートアップが連続的に立ち上がったんです。
その後、起業についての相談事が増えるとともに、知的財産・ベンチャー支援室が設置され、ベンチャーグループ側の長としてスタートアップ支援の業務に携わるようになりました。出向が終わったら経済産業省に戻るつもりだったのですが、やる気にあふれた先生がたとやり取りをしているうちに熱が移りまして、「自分の持っている中小起業支援の実績を活かして、もっと先生方の力になりたい」と感じて、今も継続して支援をしています。
私は事務職員で採用されたのち、途中で文部科学省の産業連携・地域支援課に三年間出向しました。それまで産学連携は全く未経験だったのですが、「イノベーション」に触れたことで大きな衝撃を受けました。その後、NEDO(※)のSSA(スタートアップ支援人材育成プログラム)への参加などを通してスタートアップに興味を持ち、角田さんと一緒にベンチャー支援グループに携わるようになりました。令和6年4月からは新たにスタートアップ・事業化推進室が立ち上がったので、そちらで室長となり、現在にいたります。
※NEDO:持続可能な社会の実現に必要な研究開発の推進を通じてイノベーションを創出する、国立研究開発法人。新エネルギー・産業技術総合開発機構。
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IJIEで2024年に開催された、キックオフシンポジウムの様子
ユニークな研究が多いぶん、大化けするポテンシャルが高い
お二人から見て、「信州大学発スタートアップ」の魅力や、ポテンシャルについて、どうお感じでしょうか。
信州大学発スタートアップの特色はいろいろありますが、やはり面白いのは「東京の大学と比較して、ユニークな分野をやっている企業が多い」というところでしょう。例えば、精密林業計測株式会社のような、林業系のスタートアップは信州ならではだと思います。また、ヘルスケア分野では株式会社スキノスも「汗の解析による応用」といった面白い研究がもとになっています。
他にも、あまり他の地域では見ないような変わった分野のスタートアップが多く、大化けするポテンシャルは非常に高いのではと期待しているところです。ワクワクするようなユニークな研究が多いのは、信州大学で長く腰を据えて研究を続けている先生が多いからだと思っています。
自分のフィールドに対して、時間をかけて取り組むことが得意な人が集まっている印象があります。加えて、他の大学に比べて、純粋に「自分の研究を社会に役立てたい」というところにモチベーションがある先生が多いような気がしていますね。早急に結果を出そうというのではなくて、じっくり研究を進めていく研究者が多いのではないかと思います。その結果、ユニークな成果が出てきているのではないでしょうか。
また、あえてカテゴリー分けすると、信州大学は一般的には「材料が強い」と言われています。あとは医療や医学といったライフサイエンスですね。特に材料分野については、遠藤守信先生というカーボンナノチューブの大家の先生がいらっしゃいます。
他にも、地元企業とのつながりが強いのも大きいでしょうね。共同研究の数は相当多くありますし、地元企業の課題解決を中心にやってきたというところも今の強みにつながっているのだと思います。
長野の「行き来しやすさ」をアピールして、人手・交流不足に終止符を打つ
信州大学発スタートアップで働く人のメリットやデメリット、課題に感じていることは何かありますか。
私の妻がよく言っていることなのですが、「子育て層に優しい」というのはメリットかと思います。長野は教育熱心かつ寛容で、子育て環境はかなり整っていると聞きます。
「自然環境が良い」のもうれしい点ですよね。休日は、朝起きて天気がよかったら「今日は山に行くか、スキーに行くか」という気軽さでアウトドアが楽しめます。また、東京と比べて街がコンパクトにまとまっているので、「生活がしやすい」のも利点かなと。インフラが集中的に揃っているため、暮らしやすさを感じています。気候も、夏はカラッと涼しいですしね。
冬は少し寒いですが、夏は日が落ちてくれば一気に涼しくなって、居心地がいいですよね。
趣味によっては、「文化的に充実している」ことがメリットに感じられるかもしれません。毎年8・9月くらいの時期になると「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」といった全国的な音楽祭が開催されています。バスケットやバレーやサッカーなど、スポーツも盛んですし、オフの日の過ごし方には困らない印象です。
ただ、これは他の地方スタートアップにも言えることかもしれませんが、「人手不足」はやはり感じています。経営人材が特に不足していて、先生がたが研究も経営も同時にやっているケースが散見されるのですが、やはりなかなかうまくいかないことが多いですね。
逆に言うと、経営のプロのかたにうまく関わっていただけると、一気に成功できる可能性もあるのではと思うのですが。それと、VCのかたと接点を持つのに不利だというのも課題ですね。やはり、東京に行かないと何社も回ることはできません。
とはいえ、実際には東京から長野は距離的にはそこまで離れてはいないんです。「1時間半もあれば、新幹線ですぐに行ける」という気軽さをアピールしていければ、状況が変わる気がしています。先ほど述べたような可能性の魅力が長野のスタートアップにはありますし、あとは成功したロールモデルが1個でも2個でも出てくると、長野のスタートアップ環境も改善されるのではと思っています。
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インタビューは信州大学キャンパスにて行った。岡崎氏(左)、角田氏(中央)と、インタビュアーの藤岡(右)
先生とのコミュニケーションを密にして、ミスマッチを避ける
信州大学発スタートアップで働こうと思っている人に対して、「ここは気をつけておいたほうがいい」というアドバイスはありますか。
これは地域関係なく共通していることだとは思いますが、大学発スタートアップとうまく付き合うコツは「先生とうまく気が合うか、合わないか」だと考えています。特に、移住して働き出してからミスマッチに気づくと大変なので、最初に念入りにコミュニケーションを取っておくことをおすすめします。
対先生も大事なのですが、それに加えて、起業を支援している大学側の人間ともコミュニケーションを取っておくことが重要ですね。常日頃から先生と接している、大学側の人間からもバランスよく情報を仕入れておくとトラブルを避けられるかなと思います。
長野は、「働きがいのある場所で、働きがいのある仕事に没頭できる」良い環境
最後に、「これから信州大学発スタートアップで働こうかな」と思っている人に向けてのエールをお願いします。
長野には、ユニークで可能性に満ちた事業をやっているスタートアップが多くあります。また、住みよいところで、ワークライフバランスの観点からもおすすめできる土地です。
長い間、「堅実さを好む県民性で、石橋を叩いて割るほどの慎重さが特徴」と思われてきた長野県ですが、昨今は県が全面的な起業支援を行ったことでチャレンジ志向が強まってきています。働きがいのある場所で、働きがいのある仕事に没頭できる良い環境がありますので、ぜひ思い切って飛び込んできてください。
長野はまだまだスタートアップ文化が根付き始めたところですが、それは逆に言えば、可能性に満ちた状態と言えます。ユニークで先進的な技術シーズがあり、熱意のある先生や学生などがいて、世界に羽ばたくビジネスが生まれる土壌は揃っていますので、それをチャンスだと思うかたはぜひ来ていただけると、きっと光るものにつながるのではと思います。
素敵なお話をありがとうございました。
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信州大学
https://www.shinshu-u.ac.jp/
信州大学は、信州の豊かな自然、その歴史と文化、人々の営みを大切にします。
信州大学は、その知的資産と活動を通じて、自然環境の保全、人々の福祉向上、産業の育成と活性化に奉仕します。
信州大学は、世界の多様な文化・思想の交わるところであり、それらを理解し受け入れ共に生きる若者を育てます。
信州大学は、自立した個性を大切にします。
信州大学で学び、研究する我々は、その成果を人々の幸福に役立て、人々を傷つけるためには使いません。
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https://www.shinshu-u.ac.jp/
信州大学は、信州の豊かな自然、その歴史と文化、人々の営みを大切にします。
信州大学は、その知的資産と活動を通じて、自然環境の保全、人々の福祉向上、産業の育成と活性化に奉仕します。
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