
2023年4月、北海道大学は産学・地域協働推進機構にスタートアップ創出本部を新設。組織的な支援体制を整えて3年目を迎え、同大学発スタートアップの数は急速に増えています。
同部署の立ち上げメンバーである小野裕之特任教授とスタートアップ支援部門副部門長の松原友姫さんに、北海道大学のスタートアップ支援における課題や展望を伺いました。母校への恩返しのためにビジネス界の第一線から戻ってきた小野氏、そして「このままでは北海道が取り残される」という強い危機感から北海道大学で行われている最先端の研究の社会実装を推進してきた松原氏。
お二人の言葉からは、熱い北海道愛、北大愛が伝わってきました。同学発スタートアップを紹介する言葉の端々には、世界を変える可能性を秘めた技術力への信頼と、研究者への深いリスペクトが感じられました。

産学・地域協働推進機構 スタートアップ創出本部 特任教授/本部長
小野 裕之氏
1990年 北海道大学大学院工学研究科修士修了、同年(株)リクルート入社。人事・営業職を経て新規事業開発を担当、3年で黒字化達成。
その後大手IT企業にて外資系IT企業とのJVの立上げ、独立系Webインテグレーターの副社長/COOを経て、2009年(株)サンブリッジの経営に参画、2012年代表取締役社長兼CEOに就任。
サンブリッジではJV設立で日本進出を支援するCRMベンダーSalesforce社との協業を推進、2018年に米国Salesforce.Inc社より資金調達、翌年一部上場企業2社との資本提携を行い、成長戦略を推進するための資本政策を実施。
2023年6月に北海道大学に帰還、本学の知財を活用したスタートアップ企業の創出およびアントレプレナー人材育成を推進、併せて北大発認定称号を付与したスタートアップ企業に対する支援体制を強化。 2024年4月より北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク(HSFC)プログラム代表就任。

北海道大学
https://www.hokudai.ac.jp/
北海道大学の4つの基本理念と長期目標
北海道大学は、大学院に重点を置く基幹総合大学であり、その起源は、1876年に設立された札幌農学校に遡ります。帝国大学を経て新制大学に至る長い歴史の中で、本学は「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」及び「実学の重視」という教育研究に関わる基本理念を掲げ、培ってきました。
社会の要請に応えて国立大学法人としての歩みを始めるにあたって、北海道大学は、これらの基本理念を再確認するとともに、社会に対する説明責任を認識しつつ、新たに獲得した自由の中で、新世紀における知の創成、伝承、実証の拠点として発展するための長期的な目標を、以下のように定めています。
フロンティア精神
現代の課題に挑み、未来を切り拓く理想主義に基づく姿勢です。クラーク博士の「高邁なる大志」に始まり、自由な学問のもと、純粋研究と応用研究の両輪で世界的課題に応える研究を推進しています。
国際性の涵養
札幌農学校の設立当初から受け継がれる国際的視野は、英語による教育や欧米文化の導入に端を発します。異文化理解力や外国語能力を育む教育を重視し、国際的に活躍できる人材を育成します。
全人教育
本学は、専門性に加えて豊かな人間性と教養を重視する「全人教育」の伝統を継承しています。思想・文学分野での人材輩出に示されるように、広い視野と高い識見を持つ人材育成を重視してきました。人権意識と社会対応力を備えた人間教育を推進していきます。
実学の重視
本学では、現実世界と結びついた普遍的学問と、応用・実用化による社会貢献の両面から「実学」を重視しています。地域の自然や産業に根ざした研究を展開し、成果を社会に還元してきました。今後も産学官連携を深め、北海道から日本、そして世界へと貢献する学問と人材の育成を進めていきます。

産学・地域協働推進機構 スタートアップ創出本部 スタートアップ支援部門 副部門長
松原 友姫氏
2007年北海道大学経済学部経済学科修了。経済活動と道徳心の研究よりSustainable Developmentの概念に出会い、2011年から2015年にかけて、北海道大学サステナブルキャンパス推進本部の立ち上げメンバーとして、ステークホルダーミーティングや国際シンポジウムの企画・運営を行う。その後九州大学法学研究院のテクニカルスタッフを経て、2018年から北海道大学教育学研究院の学術研究員として、海外大学と連携しサステナビリティ課題について異なる国の学生同士で学びあい解決策を考える”ESD Campus Asia Pacific Program”の運営を担う。その後、アカデミアの中だけでは現実的な社会実装が難しいと感じ、企業や自治体へのコンサルティングを行う個人事業主となる。2023年4月よりスタートアップ創出本部の立ち上げのマネージャーとして就任。

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北海道大学の4つの基本理念と長期目標
北海道大学は、大学院に重点を置く基幹総合大学であり、その起源は、1876年に設立された札幌農学校に遡ります。帝国大学を経て新制大学に至る長い歴史の中で、本学は「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」及び「実学の重視」という教育研究に関わる基本理念を掲げ、培ってきました。
社会の要請に応えて国立大学法人としての歩みを始めるにあたって、北海道大学は、これらの基本理念を再確認するとともに、社会に対する説明責任を認識しつつ、新たに獲得した自由の中で、新世紀における知の創成、伝承、実証の拠点として発展するための長期的な目標を、以下のように定めています。
フロンティア精神
現代の課題に挑み、未来を切り拓く理想主義に基づく姿勢です。クラーク博士の「高邁なる大志」に始まり、自由な学問のもと、純粋研究と応用研究の両輪で世界的課題に応える研究を推進しています。
国際性の涵養
札幌農学校の設立当初から受け継がれる国際的視野は、英語による教育や欧米文化の導入に端を発します。異文化理解力や外国語能力を育む教育を重視し、国際的に活躍できる人材を育成します。
全人教育
本学は、専門性に加えて豊かな人間性と教養を重視する「全人教育」の伝統を継承しています。思想・文学分野での人材輩出に示されるように、広い視野と高い識見を持つ人材育成を重視してきました。人権意識と社会対応力を備えた人間教育を推進していきます。
実学の重視
本学では、現実世界と結びついた普遍的学問と、応用・実用化による社会貢献の両面から「実学」を重視しています。地域の自然や産業に根ざした研究を展開し、成果を社会に還元してきました。今後も産学官連携を深め、北海道から日本、そして世界へと貢献する学問と人材の育成を進めていきます。
- 目次 -
北海道の知見や技術を地元に還元し、産業を創出して人口減少を止める
北海道大学 産学・地域協働推進機構 スタートアップ創出本部が創出された背景を教えてください。
北海道大学の学生の7割以上は、進学のために道外から北海道にやってきます。本学にはそれだけの魅力があり、全国から優れた人材が集まっていると言えます。
しかし、せっかく先端技術や知識を修得しても、卒業後はより良い就職機会を求めて多くが道外へ流出してしまうのが現状です。その結果、貴重な知見や技術が地域産業に十分還元されていません。この人材流出こそ、北海道が直面する最大の課題の一つといえるでしょう。
こうした状況を打開するために設置されたのが「スタートアップ創出本部」です。北海道大学発の研究成果を事業化し、新しい産業や雇用を創出することで、地域に活力をもたらし、人材が北海道に根を下ろせる環境を整備することを目的としています。すなわち、研究成果を社会実装へとつなげ、知と人材を地域に循環させる仕組みづくりが、この本部の設立背景にあります。
ディープテックスタートアップ支援の取り組みや特徴、実績を教えてください。
スタートアップ創出本部は、スタートアップ支援部門とアントレプレナー教育部門の二本柱で活動を展開しています。
スタートアップ支援部門は、学内に在籍する約2,000名の研究者の研究シーズを網羅的に調査し、社会実装が見込めるテーマを見つけ出しています。その際には研究室を直接訪問し、教員に対して事業化の可能性を提案するなど、積極的に研究成果をスタートアップ創出へとつなげています。
一方のアントレプレナー教育部門は、教育委員会とも連携して小中学校や高校の段階からアントレプレナーシップ教育を推進しています。大学在学中に起業に挑戦する学生も少なくないことから、若い世代のうちに起業マインドを育成することを重視しており、最終的には標準的な教育カリキュラムとして体系化することを目指しています。
こうした支援体制の整備により、北海道大学発のスタートアップの数は近年大きく伸びています。2023年に63社だったのが、2024年には40社増えて103社に到達、2025年には前年から40社以上増加し、2025年6月時点でおよそ150社に達しました。わずか3年前(2022年)までは、年間一桁台の増加にとどまっていたことを考えると、近年の取り組みが着実に成果を生み出していることが明らかです。
具体的にどのような施策が効いたのでしょうか。
まず大きな変化として、研究シーズの体系的な調査に基づき、研究員に対して起業の可能性を具体的に打診できるようになった点が挙げられます。さらに相談窓口の設置によって問い合わせ件数が増加し、研究成果の事業化を検討するケースが格段に広がりました。
当初は本学の研究者による起業に重点をおいていましたが、実際は本学との共同研究や本学のライセンスを技術移転してその企業が新規事業として展開する「カーブアウト型(※1)スタートアップ」も少なくありません。
加えて、2022年に学内に発足した学生団体「未来開拓倶楽部」の存在も見逃せません。実践的に起業を学べるこの組織には、2025年現在1000名以上が所属しており、ここから次世代の起業家が次々と輩出されています。
同倶楽部の学生が、アントレプレナー教育部門が提供するアクセラレーションプログラムを活用し、実際に事業化へと踏み出す流れが定着してきたことも、北海道大学発スタートアップの急増を支える原動力となっています。
JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の補助金であるGAPファンド(※2)も効果を発揮しています。2023年に起業したメカノクロスの取締役を務める伊藤肇先生は当初事業化に前向きではありませんでしたが、GAPファンドという形で国から後押しがあったことで動いてくださいました。
※1 カーブアウト型スタートアップ:企業が自社事業の一部を切り出して設立するスタートアップのこと。
※2 GAPファンド:**研究成果と事業化の間に存在するギャップ(GAP)を埋めるため、事業化を目指す研究開発に資金を提供するプログラム。
海外や首都圏と差が開くばかりの状況に危機感を覚え、上司に直談
お二人の略歴と産学・地域協働推進に関わるようになった背景、スタートアップ支援への想いについて教えてください。
私は北海道大学の卒業生で、大学院で生体工学分野の研究に取り組みました。博士課程に進学という選択肢もありましたが、熟考の末にビジネスの世界に進むことを決めました。
リクルート入社後は事業開発に従事し、1993年に日本での商用利用が解禁されたインターネットの可能性を確信し、IT企業に転職してウェブ関連事業の開発を手掛けてきました。
近年ではセールスフォース・ドットコム日本法人の設立支援にも関わり、グローバル企業の日本展開を支える役割も果たしました。
そうした経緯を経て、母校・北海道大学からスタートアップ創出本部の立ち上げにあたってお声がけいただきました。自分としてはこれまで培ってきた経験を母校や北海道の産業に還元し、新しい価値の創出につなげたいという思いから、その役割を引き受けようと北海道に帰還しました。
私も北海道大学の経済学部出身です。ソーシャルグッドが必ずしもビジネスグットにならないことをずっと課題に感じていて、卒業後は、SDGs関連事業を推進する学内組織のサステイナブルキャンパス推進機構の立ち上げメンバーとして4年ほど活動していました。
でも、本学で環境負荷を低減できる研究が進んでも世に出ることはなく、海外企業が先に事業化してしまう有様でした。アカデミアの中だけでは物事を変えられない状況に危機感を覚え、産業界で社会変革を目指しSDGs関連事業のコンサルタントになりました。
そこで東京や大阪の企業の方々と仕事をする中で、道外の企業は人材が豊富で、資金力があり、迅速な決断がくだせることに衝撃を受けました。北海道の企業だと、担当者が上に話を通すだけで3~4カ月かかり、資金がすぐに出ず、ビジネスチャンスを逃していると感じました。
このままでは北海道はどんどん置いて行かれると思い、産学・地域協働推進機構の幹部のところに行って、本学には良い研究シーズがたくさんあるのだからもっと積極的に事業化しましょうと直談判しました。すると、ちょうど起業を支援する組織を作るところだからメンバーとして加わるよう言っていただき、今に至ります。
組織立ち上げから今まで、どんな困難がありましたか? また、それをどうやって乗り越えられましたか?
1年目に感じたのは、先生方の多くにとって起業はまだ身近な選択肢ではなかったことです。素晴らしい研究だからこの技術を元に起業しましょうと言っても、起業が身近ではなかったこともあり、なかなか前向きに捉えていただくのが難しい場面もありました。
2年目は、起業に前向きな先生が増えてきたと感じましたが、次のステップの『経営者候補』を探すことに苦戦しました。研究に理解があって経営手腕もある人材は全国を探しても数%程度しかいないと感じました。先生とのマッチングの難しさも感じていましたね。
3年目に入って、起業に前向きな先生が増加したと感じています。社会の風潮の後押しもありますが、学内でスタートアップが次々に生まれてきたことも良い刺激になったのだと思います。
経営者候補人材のマッチングも、先生との相性だけで考えるのではなく、さまざまな得意分野を持つ人をチームにすることでスムーズに進むことがわかってきました。
30代、40代の比較的若い世代の研究者が、起業に積極的に取り組むようになってきています。私たちが毎年実施しているアンケートの結果からも、社会実装に対する感度が着実に高まっていることが伺えます。
かつて多くの研究者はいわゆるポスドク問題(※)で長く冬の時代を過ごしてきました。特に社会実装につながる応用研究に携わる研究者は十分な活躍の場や機会が得られない状況が続いていたのです。
しかし、ようやくそうした研究者に光が当たり始めていると感じています。研究成果の事業化と技術力の向上が車の両輪となって機能すれば、持続的に成果を生み出す勝ちパターンを確立できるのではないかと考えています。
※ポスドク問題:博士号取得後の進路が限定されやすく、将来のキャリア形成に課題を抱える研究者が多い状況。

経営者候補と研究者のマッチングプログラム『北海道BRAVE』のキックオフイベント
次世代半導体や宇宙関連に強く、化学・農業分野のポテンシャルも高い
北海道ディープテックスタートアップの特徴、将来性、世界からみた強みについて、特に期待する分野があれば教えてください。
2022年に起業した次世代半導体開発の大熊ダイヤモンドデバイスは、次世代半導体として注目される人工ダイヤモンドを用いたセンサーを開発しています。従来のシリコン製センサーは高温環境に弱く、原子炉内部の温度管理や放射能の濃度の計測には適しません。しかし、人工ダイヤモンドを活用することで、これまで困難とされてきた環境下での精密なモニタリングを可能にしました。
すでに約70億円を調達し、廃炉で培った技術を宇宙産業など新たな領域に応用すべく量産化のための工場を建設中で、2026年から稼働予定です。
北海道における宇宙産業の動きも見逃せません。ロケット開発で知られるインターステラテクノロジズの本社があることは広く知られていますが、北海道大学の永田晴紀教授が関わる宇宙関連のスタートアップも複数立ち上がっています。
その一つであるLetaraは、滝川市の廃坑を活用した工場で、固体燃料と液体酸化剤を組み合わせた**ハイブリッド型ロケットエンジン「CAMUI」**を開発しています。従来の高い推進力を持つ一方で引火リスクが高く、固体燃料ロケットは安全性は高いものの十分な推進力を得にくいという課題がありました。
CAMUIはその両者の長所を兼ね備え、安全性と推進力を両立する革新的な技術であり、人工衛星の打ち上げや「ラストワンマイル」輸送を支える可能性を秘めています。
永田教授が社外取締役を務める岩谷技研は、気球関連の研究開発で多数の特許を取得しており、気密キャビンや高高度気球の構造部材などに関する知的財産を蓄積しています。
こうした独自技術を活かし、人が宇宙で安全に暮らせる安全な居住環境の実現を目指しており、JAXAとの共同研究も進めています。気球による宇宙旅行プランを2,400万円程度で販売する計画も発表し、大きな話題となっています。
北海道大学発ディープテックスタートアップの中で、近年特に注目を集めているのが先ほど話に上がったメカノクロスです。同社は有機溶媒を用いない独自の合成技術を開発しており、環境負荷の低減と高効率を両立させた革新的なアプローチとして世界的に注目を浴びています。この技術は、北海道大学の伊藤肇教授が研究者として長年培ってきた成果に基づくものです。
化学はまさに北海道大学の研究の“本丸”ともいえる分野であり、2010年の鈴木章特別栄誉教授、2021年のベンジャミン・リスト招聘教授と2人のノーベル化学賞を輩出してきた伝統の延長上に位置付けられるスタートアップだと言えるでしょう。
農業分野も北海道大学発スタートアップの大きな可能性を秘めた領域の1つです。本学はスタートアップ支援において「フード・アグリ」「環境・エネルギー」「創薬・ヘルスケア」の3つの重点領域を掲げておりますが、中でも「フード・アグリ」はとりわけ強みを発揮できる分野と言えるでしょう。
北海道は今や日本有数の米どころであると同時に、国家的な食料安全保障の観点からも極めて重要な地域です。そもそも北海道大学は札幌農学校を起源とし、農業研究を基盤として発展してきた歴史をもっている大学です。
加えて北海道には寒冷地特有の農業技術が蓄積しており、これらはモンゴルなど類似した気候帯を持つ国や地域への技術輸出の可能性を広げるものであり、地域の強みを世界の課題解決に結びつける余地は大きいと言えます。
川村秀憲先生も情報科学分野でいろいろ起業してらっしゃいますし、次世代の高タンパク質植物ウォルフィアの開発を行うFloatmeal株式会社など、持続可能な社会実現を目指す研究・技術を活用したスタートアップ企業がたくさんあります。
恵まれた自然とおおらかな人に囲まれ、気持ちよく暮らせる
北海道大学発のディープテックスタートアップで働く魅力はどんなところにありますか? 環境や仕事の進め方など、北海道ならではワークライフバランスやQOLについて教えてください。
北海道は空気と水がきれいです。人もいいです。転勤族の方はみなさん言いますが、他人に対して壁を作らない人が多いんです。そうした気質はビジネスにおいても強みになると思います。
研究開発型のスタートアップに必要なのは、5年、10年先を見据える先見性や粘り強さです。北海道は首都圏のような競争力、スピード感にはまだ及ばないかもしれませんが、協力して物事に取り組む「共創マインド」を持つ人が多く、特にディープテック領域の研究者にはその傾向が強いと感じています。こうした粘り強さと共創力は、ディープテック系スタートアップの創業において大きな強みとなると思います。
北海道は開拓されてからの歴史が比較的浅く、どこかアメリカ的な気風を感じさせます。アメリカが多様な移民を受け入れて発展してきたように、北海道も外から来た人を受け入れて成長を遂げてきていて、今もそうです。東京大学出身の永田教授、京都大学出身の伊藤教授ら多様なバックグラウンドの研究者が北海道大学に加わり、本学発のスタートアップを次々に生み出しています。
生活環境の魅力も大きな要素です。長く東京で暮らしてきた私の視点から見ても、北海道でのQOL(生活の質)は圧倒的に高いと感じます。電車通勤に煩わされることがなく、生活コストも低い。こうした広々とした自然環境の中で過ごすうちに自然と遠くの景色に目が行き、スマートフォンを見る時間が減った結果、視力が回復したほどです。
こうした広大な土地は事業化においても大きなアドバンテージとなります。特に農業やエンジニアリングの分野では、大きな施設、広い敷地が必要なことが多く、北海道ではそれを安く手に入れてすぐに使うことができます。
さらに食の豊かさも北海道の魅力を語る上で欠かせません。温暖化の影響で栽培適地が北上し、近年はかつてよりも多様な農産物が道内で生産されています。今ではブランド米もありますし、ワイナリーも70ほどあり、特に白ワインは世界に通じる味に近づいたと感じます。
加えて最近は堅展実業厚岸蒸留所の立ち上げから8年間勤務経験のある本学卒業生がスピンアウトし、当別町の廃校を利用した蒸溜所プロジェクトを進めており、地域資源を生かしたクラフトウイスキーづくりを目指しています。

クラーク博士の言葉「Boys, be ambitious」を和訳したこの碑文は、北海道大学の理念を象徴する存在
道内唯一の国立総合大学という競争のない環境が課題
首都圏など道外から移住を伴う転職を考える人に、北海道大学発ディープテックスタートアップの課題、覚悟しておくべきことがあれば教えてください。
首都圏に比べ、まず直面するのは「資金」と「人材」の不足です。技術力は十分にあるものの、それを事業化へと磨き上げる起業家人材や、それを支える資金がまだ潤沢ではありません。
しかし、適切な人材を呼び込み資金をしっかり提供できるスキームを整えれば、勝機はあると考えています。実際2024年は、資金を得るためにVCとの接続を徹底的に行いました。
2025年は次の課題として人材の確保に注力しております。特に不足しているのは経営者人材です。アルムナイやOBを中心とした支援コミュニティを作ろうと考えています。事業内容にこだわらずビジネスに挑戦したいと考える人材を集めることで、起業を後押ししたいと考えています。さらに生活面での覚悟として、移動の不便さは避けて通れません。東京のように鉄道網が張り巡らされていませんし、バスの本数も減少傾向にあります。特に冬には雪で移動手段が制限され、機動力が落ちることもあります。ただし、近年は年明けから3カ月程度に収まることも多く、昔に比べれば格段過ごしやすくなっていると感じます。
研究開発に向いているのは、数多の失敗にめげずに試行錯誤を楽しめる人
ディープテック・スタートアップはどんな人に向いていると思いますか?
スタートアップは、明確な答えが提示されないと動けない人や、すぐに近道を探したがる人、誰かに指示されなければ行動できない人には向きません。また、仕事をライスワークと割り切って捉える人にも不向きです。
大学での研究は本質的に0から1を生み出す営みであり、トライアンドエラーを楽しめる人、100回の挑戦のうち99回が失敗しても1回成功すればOKと考えられる人が向いています。
やりきるという姿勢は、まさにその積み重ねのことなのです。私も学生時代に答えの見えない課題に取り組む中で苦労を重ねましたが、その経験が社会人として仕事に取り組む姿勢の基盤になりました。
最後に、北海道ディープテックスタートアップで働こうと考える人へメッセージをお願いします。
食料自給率の全国平均はカロリーベースで38%ですが、北海道は200%超であり、理論上今の人口の倍まで耐えられるわけです。北海道の人口は約500万人。私の夢は、皆さんの力で1,000万人まで増やすことです。
それが100年後になるとしても、実現すれば本望です、北海道で新しいことに挑戦して仲間とともに成長したいという方は、ぜひ来てください。心からお待ちしています。
雄大な土地と挑戦できる環境が整っています。人もいいです。北海道には、21大学と4高専が連携する「HSFC(エイチフォース:Hokkaido Startup Future Creation)」というスタートアップ創出の強力なネットワークもあります。酪農からものづくりまで幅広い研究シーズがあるので、ビジネスを始めたいけどネタがないという人にこそ来てほしいです。
北海道の広大な土地は大きなメリットですね。次世代半導体だけでなく、化学や農業分野の研究動向も注視していきたいと思います。本日はありがとうございました。

北海道大学
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北海道大学の4つの基本理念と長期目標
北海道大学は、大学院に重点を置く基幹総合大学であり、その起源は、1876年に設立された札幌農学校に遡ります。帝国大学を経て新制大学に至る長い歴史の中で、本学は「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」及び「実学の重視」という教育研究に関わる基本理念を掲げ、培ってきました。
社会の要請に応えて国立大学法人としての歩みを始めるにあたって、北海道大学は、これらの基本理念を再確認するとともに、社会に対する説明責任を認識しつつ、新たに獲得した自由の中で、新世紀における知の創成、伝承、実証の拠点として発展するための長期的な目標を、以下のように定めています。
フロンティア精神
現代の課題に挑み、未来を切り拓く理想主義に基づく姿勢です。クラーク博士の「高邁なる大志」に始まり、自由な学問のもと、純粋研究と応用研究の両輪で世界的課題に応える研究を推進しています。
国際性の涵養
札幌農学校の設立当初から受け継がれる国際的視野は、英語による教育や欧米文化の導入に端を発します。異文化理解力や外国語能力を育む教育を重視し、国際的に活躍できる人材を育成します。
全人教育
本学は、専門性に加えて豊かな人間性と教養を重視する「全人教育」の伝統を継承しています。思想・文学分野での人材輩出に示されるように、広い視野と高い識見を持つ人材育成を重視してきました。人権意識と社会対応力を備えた人間教育を推進していきます。
実学の重視
本学では、現実世界と結びついた普遍的学問と、応用・実用化による社会貢献の両面から「実学」を重視しています。地域の自然や産業に根ざした研究を展開し、成果を社会に還元してきました。今後も産学官連携を深め、北海道から日本、そして世界へと貢献する学問と人材の育成を進めていきます。

北海道大学
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北海道大学の4つの基本理念と長期目標
北海道大学は、大学院に重点を置く基幹総合大学であり、その起源は、1876年に設立された札幌農学校に遡ります。帝国大学を経て新制大学に至る長い歴史の中で、本学は「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」及び「実学の重視」という教育研究に関わる基本理念を掲げ、培ってきました。
社会の要請に応えて国立大学法人としての歩みを始めるにあたって、北海道大学は、これらの基本理念を再確認するとともに、社会に対する説明責任を認識しつつ、新たに獲得した自由の中で、新世紀における知の創成、伝承、実証の拠点として発展するための長期的な目標を、以下のように定めています。
フロンティア精神
現代の課題に挑み、未来を切り拓く理想主義に基づく姿勢です。クラーク博士の「高邁なる大志」に始まり、自由な学問のもと、純粋研究と応用研究の両輪で世界的課題に応える研究を推進しています。
国際性の涵養
札幌農学校の設立当初から受け継がれる国際的視野は、英語による教育や欧米文化の導入に端を発します。異文化理解力や外国語能力を育む教育を重視し、国際的に活躍できる人材を育成します。
全人教育
本学は、専門性に加えて豊かな人間性と教養を重視する「全人教育」の伝統を継承しています。思想・文学分野での人材輩出に示されるように、広い視野と高い識見を持つ人材育成を重視してきました。人権意識と社会対応力を備えた人間教育を推進していきます。
実学の重視
本学では、現実世界と結びついた普遍的学問と、応用・実用化による社会貢献の両面から「実学」を重視しています。地域の自然や産業に根ざした研究を展開し、成果を社会に還元してきました。今後も産学官連携を深め、北海道から日本、そして世界へと貢献する学問と人材の育成を進めていきます。