
大阪産業局は、大阪府内の中小事業者や起業家をサポートすることで大阪の経済発展をめざす公益財団法人です。その中で、大学発スタートアップなどの研究開発型企業を支援し、革新的な技術をもとにした新事業・新産業の創出を図っているのが、おおさかナレッジ・フロンティア推進プロジェクトです。シードからアーリー段階にあるスタートアップに対し、適切な事業運営体制を整えるハンズオン支援を行っています。
今回お話を伺ったのは、おおさかナレッジ・フロンティア推進プロジェクトで働く浅岡陽介氏。大手企業を退職してスタートアップ支援の世界に飛び込んだ理由、支援のためにはなんでもやるという心意気、大阪で暮らす魅力など、まっすぐなお人柄が伝わるインタビューをお届けします。

おおさかナレッジ・フロンティア推進プロジェクト プリンシパル・コーディネーター
浅岡 陽介氏
Deloitteグループのコンサルタントを経て、ディープテック領域の案件発掘から、ハンズオン支援(資金調達・資本政策、事業連携、知財戦略策定、ビジネスモデル構築等)に従事。

公益財団法人大阪産業局
https://www.knowledge-frontier.jp/
≪MISSION≫
将来の大阪・関西の成長を牽引するスタートアップの創出
起業家のために志を共にするチームとともに、よりチャレンジ(挑戦)やイノベーション(新結合)を楽しめる世界を実現する
- 目次 -
他の機関と連携し、年間100社程度のスタートアップを幅広く支援
まず、大阪産業局 おおさかナレッジ・フロンティア推進プロジェクトのミッションや主な取り組み、実績について教えてください。
我々のミッションは、将来の大阪、関西の成長を牽引するスタートアップ企業の創出です。私は主にディープテックスタートアップの個社支援に従事しています。個社支援とは起業前後の支援を指し、補助金申請、資金調達、ビジネスモデルのブラッシュアップ、試作品開発やキーパーソンの紹介、サプライチェーンの構築など多岐に渡る業務です。他の支援機関あるいは支援者と連携しながら、オーダーメイド型の支援を行っています。
年間100社ぐらい支援していますが、起業前後のスタートアップって、チャレンジしていることの先進性に対して圧倒的にリソースが足りていないんですよね。世の中にはすでに多くの支援メニューがあるので、そういった既存のノウハウを活用しながら、ディープテックスタートアップを支援するためにはなんでもやる、という姿勢で取り組んでいます。
私は、大阪産業局のイノベーション創出拠点である大阪イノベーションハブというスタートアップ支援専門の組織の業務も兼務しています。大阪イノベーションハブは、新たな価値や市場創出をめざすスタートアップに対し、起業意欲やマインドの醸成、資金調達や事業提携を目的したピッチイベントなどに加え、短期間での事業成長に向けたアクセラレーションプログラムなども実施しています。おおさかナレッジ・フロンティア推進プロジェクトのエッセンスも加えて、個社の実情や課題に応じた個別伴走支援など、点での支援と面的な支援の両輪でサポートを行っています。まもなく大阪・関西万博も開催されますので、この契機を活かして一気に大阪、そして関西のスタートアップの知名度を上げていきたいです。
スタートアップの課題に全力で向き合う姿に触発されて転職
浅岡様の略歴と、大阪産業局でディープテックスタートアップのハンズオン支援に携わることになった背景について教えてください。
私は大学卒業後、主に経営コンサルタントとしてキャリアを歩んできました。そこでスタートアップ支援のプロジェクトがあり、たまたま私がアサインされました。そのとき、大阪産業局のスタートアップ支援部門の方と一緒に仕事をしたんです。そのコーディネーターさんの働きぶりに感銘を受けたことが、今の仕事に就くきっかけになりました。スタートアップの経営者のあらゆる課題に対して100%あるいは120%で応える姿を目の当たりして、この世界に魅了され、この仕事をしてみたい、新しい世界にチャレンジしたいと思いました。
その後前職を退職し、大阪産業局にコーディネーターとして勤めています。私の師匠のような存在であるその方にお声がけいただいて、同じチームに入ってスタートアップの支援に従事しています。実際にやってみるとディープテック分野は専門性も高く、一人でできることは限られます。私は大阪産業局に入ってまだ3年半ぐらいですが、名刺の数が異常に増えました。豊富なネットワークを築かないとできない仕事なんです。そういったところにも面白さを感じています。
起業前にニーズ確認を行い、研究者に市場を向いてもらう
大阪、関西のディープテックスタートアップの課題は何だと思われますか?
大きく2つあると思っていて、1つは技術があってもニーズがないことです。若手の研究者の方も昔からの研究を引き継いでいる方も多く、なかなかニーズドリブンの研究開発がなされてないのが実情です。だから私たちはまず起業前にニーズ確認の支援も行います。ネットワークを築いておいて、例えば研究者と一緒に工場に赴いて技術の最終アウトプットを見て、その技術が本当に役立つか確認したりしています。そして、場合によっては研究開発の方向性を少し変更などして頂き市場ニーズにシーズを合わせます。これらの支援が非常に大事だと考えています。これらのニーズ確認や、大学でできる(大学でしかできない)研究を十分に実施せず起業してしまい、VC等からも資金調達できずご苦労されるところもあるので、本当にニーズがあるのか一次情報で確認し、研究者の方々に腹落ちして頂く事も重要であると考えています。まだまだ十分な支援ができている状況ではありませんので、自分自身のネットワークとノウハウを強化していきたいと考えています。
2つめはCxO人材の不足です。ディープテックスタートアップの課題の一丁目一番地ですね。マッチングしようにも大阪・関西には母数となる人材が少ないです。また、研究者の方々も起業したいけどCEOはやりたくないという場合もあります。また研究者がCEOとして経営しないといけないという誤解も多く、それで起業を躊躇される先生方がいらっしゃるのも事実です。一部の大学ではすでに多くの研究者が起業しているので起業の実情を分かっていらっしゃる方が多いですが、多くの大学はまだまだ起業とは何か浸透していなくて。それに、「経営者人材候補がいれば先生はCTOとして研究に没頭できます」とご説明したとしても、肝心のCxO人材がいません。ニーズの有無とCxO人材の候補不足。この2点がディープテックの足かせになっていると感じています。
プライドを持った優秀な研究者の方にマーケット志向になっていただくのは難しいと思いますが、その辺りはどんな風に対応されていますか?
何を言うかより誰が言うかが大事なケースもあるので、私みたいな起業経験のないメンバーが言うのではなく、実際にその分野で起業している社長やその分野に長けた専門家から言っていただくという戦略を取ったりしています。そうすることで少しでも耳を傾けていただけたら、と考えています。

大阪・関西におけるイノベーションエコシステムの確立と経済社会の持続的な発展をめざして活動しています。
知の集積地とされる関西、江戸時代から薬の町と言われる大阪
大阪・関西のディープテックスタートアップの強みや特徴は何でしょうか。
関西には高度な研究機関やノーベル賞受賞者のような世界的に認められる研究者もいらっしゃり、知の集積地と呼ばれています。大阪大学や京都大学の国際特許の出願件数は世界でも上位です。それだけポテンシャルの高いディープテックの種があるエリアなわけです。また、大阪は江戸時代から薬の町と言われているんですよ。今も大手製薬会社の本社もあり、ライフサイエンス、ヘルスケア分野に強いのが特徴であり、魅力だと思います。
知の集積地であり、優れたシーズがありながらCxO人材不足であまりスタートアップが生まれていないという現状は、言い換えれば大きなチャンスだと思います。ことライフサイエンス分野では、世界をリードするライフサイエンス分野での研究機関、大学、企業が連携しながら、京都、大阪、神戸の三都市を中心に地域毎で多様なクラスターが30分から1時間程度で移動できる距離でコンパクトに集積しています。そういった意味で、研究開発のしやすさも魅力の一つだと思います。
ディープテックスタートアップで働くために、東京などから大阪など関西への移住を検討している方もいると思いますが、生活環境などはいかがでしょうか?
私は大阪に住んでいるのですが、東京に比べたら通勤ラッシュが少ないですし、通勤時間も短くて済みます。都市部でも東京ほど物価は高くなく、全体的にリーズナブルです。梅田、難波、心斎橋など、電車でそれぞれ10分ほどの距離でも町の雰囲気がガラッと変わるところも魅力的です。最近は、グラングリーン大阪という大型商業施設が開業するなど様々な開発が進んでいます。
教育面では、教育無償化で有名な兵庫県明石市をはじめ、大阪府の箕面市や兵庫県の西宮市も教育に手厚いですよね。大阪府の自治体が住みたい町ランキングの上位に入っている背景には、この教育面の充実があると思います。私にも1歳半になる子どもがいるのですが、保育園も多いので難なく第一希望の園に入ることができました。
あと、関西の人って、コンビニやスーパーでお会計した後に感謝の言葉を口にしますよね。お客さんがお店にありがとうと伝える文化が根付いている、人情のある温かい街だなと思います。
入社前に自分の生き方など踏み込んで話すことが、ミスマッチを防ぐ
あえて課題もお伺いしておきたいのですが、大阪、関西のディープテックスタートアップの課題は何だとお考えですか?
認知度の低さです。そのため、良い種はあるけど栽培する人がいないという状態で、東京に比べて圧倒的にスタートアップの数が少ないです。資金調達額の割合を都道府県別に見ると、8割が東京で大阪はわずか3%ほど。一極集中なんですよね。我々は、大阪・関西の魅力的なシーズに関して首都圏のVCの認知度が低いという仮説を立て、パートナークラスの方とネットワークを築くためにいろんなイベントを一緒にやったり、関西の優良なスタートアップの壁打ちをお願いしたり、徐々に距離を詰めているところです。
よくある入社前後のミスマッチなどあれば教えてください。
まず、人材を求める側、研究者側の問題がひとつあります。スーパーマンを求めがちなんですよね。技術にも事業にも精通した人をお願いしたいというリクエストが多いのですが、その要求レベルにマッチする人というのはほとんどいません。やはり、それぞれ専門家を雇う必要があります。かつ、オンラインはNGで週5勤務といった要望も多いので、人材を求める側の意識改革も必要かなと思います。
入ってきてくださる側の課題もあるとすれば、事業のビジョンや概要は聞かれるのですが、自分の生き方など踏み込んでコミュニケーションを取る方が少ない印象です。そうすると入社後に、「雰囲気が合わない」「社長と意見が合わない」といった理由で辞められる方が出てきます。個人的には、より深いディスカッションが必要だと思います。1回のオンライン面談だけではなく、飲み会を3回ぐらい開いて、家族の状況や今後の人生プランなど、互いに本音でお話をされるのも良いのではと考えています。
雇用側がスーパーハイスペック人材を求める傾向は関西の特徴ですね。なにか理由があるのでしょうか?
実績が少ないことや、副業・兼業で成果を出しているスタートアップの情報が行き届いていないことが関係しているのかも知れません。雇用主、求職者ともに意識を変えてもらい、地道に実績を積み上げていかないと変わらないと感じています。

インタビューは大阪産業局で行った。浅岡氏(右側)とインタビュアーの藤岡(左側)
熱意を持って取り組み、周りの人をうまく巻き込める人材が活躍する
大阪、関西のディープテックスタートアップで働くことは、どんな方に向いていて、どんな人は不向きだと思われますか?
スキルはもちろん、熱意を持っていることが大事だと思います。ネットワークを持っていることも大きな強みになります。ディープテックスタートアップの事業運営は一人ではできません。資本政策、知財、技術、サプライチェーン、ものづくりなど多くのタスクへの対応が必要で、弁護士、弁理士、社会保険労務士、税理士、特定領域の専門家が欠かせません。スーパーマンである必要はなく、そういった方をうまくアサインできる方、周りをうまく巻き込める方が活躍できると感じています。
コインの裏表になりますけど、向いていないと感じるのはなんでも一人でやろうとする方。そのため素晴らしい技術があっても知名度を上げられず、日数だけが過ぎていってしまう。スタートアップにも年齢があるので、時間が経ち過ぎると注目されなくなるケースもあり、非常にもったいないです。やはり専門家と連携するなど、いろんな人を巻き込んで一緒にやっていかないと厳しいです。
最後に、大阪、関西のディープテックで働こうと考えている人にメッセージをお願いいたします。
大阪は商人の町、商売の町です。「それってなんぼ儲かるんですか」、と収益性を重視される面では厳しい環境かもしれませんが、一方で義理人情が感じられる温かい町でもあります。それに大阪産業局は、チャレンジする方に対して必要な支援は全力で取り組むというポリシーを掲げています。大阪・関西万博もあるので、今がチャンスです。リスクをとって大きなことにチャレンジしたいと思っている方は、ぜひ大阪・関西のスタートアップで働くことを検討してみてください。周りを巻き込んで汗をかける方が必要です。
ディープテック領域の起業にチャレンジする方に対して必要な支援は全力で取り組む、というポリシーは素晴らしいですね。本日はありがとうございました。

公益財団法人大阪産業局
https://www.knowledge-frontier.jp/
≪MISSION≫
将来の大阪・関西の成長を牽引するスタートアップの創出
起業家のために志を共にするチームとともに、よりチャレンジ(挑戦)やイノベーション(新結合)を楽しめる世界を実現する