食品廃棄物100%の新素材開発を通じて、社会に価値を生み出し「感動」をつくる

fabula株式会社代表取締役 町田紘太氏

コーヒーやお茶の出がらし、野菜の皮、お米のもみがら、卵の殻など、日常暮らしている中で必ず排出される食品廃棄物。環境省によると、令和3年度の食品ロスの発生量は約523万トンにも及ぶといわれています。

食品廃棄物の大半は焼却処分されるため、地球温暖化や環境汚染の問題にも悪影響を及ぼします。そんな食品廃棄物を「価値ある新素材」に変え、永続的に再利用できる仕組みを作り上げようと取り組むスタートアップがあります。それが、fabula株式会社です。

同社の代表取締役である町田紘太氏は、オランダのインターナショナルスクールで過ごした幼少期に環境問題への関心を抱き、その後、東京大学の生産技術研究所で食品廃棄物を100%原料にした新素材を開発し、起業したという経歴の持ち主です。

新素材の開発に至るまでの経緯や、その技術をもとになぜ起業という道を選んだのか。町田氏の生い立ちからfabula社立ち上げまでの経緯、そして創業後に感じた壁や今後の展望について詳しくお話を伺いました。

町田紘太氏

代表取締役
町田紘太氏

1992年生まれ。幼少期をオランダで過ごし、環境問題に興味を持つ。世界約60ヵ国以上を旅行。東京大学生産技術研究所酒井雄也研究室にて、卒業研究として新素材を開発。2021年10月に小学校からの幼馴染3人で、fabula(ファーブラ)株式会社を設立。現在も新素材に関する研究に取り組みながら、事業を拡大させている。

fabula株式会社

fabula株式会社
https://fabulajp.com/

設立
2021年10月
社員数
2名(役員除く)

《 Mission》
ゴミから感動をつくる
《 事業分野 》
サステナビリティ・環境
《 事業内容 》
fabula株式会社は、規格外の野菜や加⼯時に出る端材、廃棄される生ゴミなど、⾷品廃棄物から新素材をつくる特許技術を有する東京大学発のスタートアップです。「物語」という意味のラテン語に由来した社名には、「要らないものとして処理されるゴミを生まれ変わらせることで、ストーリーの続きを紡ぎたい」という想いが込められています。新素材の曲げ強度はコンクリートの約4倍を誇り、⼩物から家具、建築材料など、様々な用途における活用が期待されています。

地球環境や社会課題への関心を育んだオランダでの学び

スタクラ:

まず、町田さんの生い立ちからお伺いします。現在に繋がる原体験のようなものがあれば教えてください。

fabula株式会社 代表取締役 町田 紘太氏(以下敬称略):

私の生まれは、神奈川県横浜市です。父の仕事の関係で、小学校3年生から日本を離れ、オランダのインターナショナルスクールに3年ほど通っていました。オランダでは、平日インターナショナルスクールに通い、土曜日には補習校で学ばせてもらいました。日本とは全く違う教育環境のもと、地球温暖化について発表する授業や視覚障害者の視界体験など、多彩な学びを経験できました。

オランダは、エコやサステナビリティに関する取り組みが進んでいる国です。そのため、幼少期から「社会に対して自分がどう関わっていくべきなのか」を自然と意識しはじめたように思います。

オランダから日本に戻ったのは、小学6年生の時でした。帰国して早々、私は「できない自分」を思い知り、劣等感に苛まれるようになりました。オランダにいた間はほとんど日本語を使っていなかったため、小学校2年生レベル以上の漢字が使えず、言葉の壁にぶつかってしまったのです。

帰国後に日本語を学び直す日々は、本当に苦しいものでした。仕事人だった両親からは、「自分で考えて、意思決定を下しなさい」とよく言われていたのですが、当時の私は自主的に勉強に打ち込むことが出来ませんでした。結果、中学受験には失敗してしまい、地元の公立中学校へと進学することになりました。

実は、後の創業メンバーであるCFOの松田大希とCTO大石琢馬は、小学校時代からの幼馴染なので、もし当時の進学先が違っていたら、今のfabulaはなかったかもしれません。中学以降の学生生活を振り返ると、尊敬する先生方とのご縁に恵まれ、多くの影響を受けました。

先生の影響を受け「自ら考え動く」人としての軸を培う

町田紘太:

中学時代、私は学級委員長を務めていたのですが、当時の学年主任の先生からスピーチスキルを厳しく叩き込まれました。みんなの前で話す機会の前には、スピーチ原稿を必ず用意し、フィードバックを頂いては修正しました。そして、原稿を暗記した上で、事前にリハーサルもしっかり行うように指導されたのです。

「いつまでも親や先生がいるわけではない。だから、自分で考えて動ける人になりなさい」とその先生はよく口にしていました。おかげで、両親の教えと相まって、私の人間性の軸として「自ら考え動くべき」という考え方が染み付いたように思います。

高校は自由度が高く、進学についても個人の意向まかせという校風でした。しかし、当時出会った先生は、毎朝、通勤前に神社へと参拝し、生徒の進路を熱心に応援してくれる人でした。生徒のためにがんばる先生の姿に刺激を受け、自分もちゃんと目標を決めて、勉学に励もうと心に決めました。

勉強の甲斐あって、高校卒業後は東京大学へと進学し、生産技術研究所の酒井研究室で研究に打ち込むようになりました。サークルは国連関連団体の運営に携わり、社会のインクルージョンを推進するプロジェクトを仲間たちと立ち上げ、時には夜中の3時過ぎまで先生の研究室で作業することもありました。

プロジェクトは、地道な作業や調べ物の連続です。企業との交渉など、思うようにいかず苦労したこともありました。「分からないことは、素直に分からないと言った方がいい」とサークル活動を支援してくれていた先生が、当時よく言っていました。物事に対して素直に向き合う姿勢は、起業した今でも本当に大切だと感じます。

インタビューは東京のfabula社オフィスにて行われた。町田氏(左側)とインタビュアーの弊社藤岡(右側)

理転から「食べられるコンクリート」の着想に至るまで

町田紘太:

東京大学にはもともと文系専攻で進学しましたが、3年時に理転を決意しました。高校は文系で物理を学んだことすらなかったため、「このままではだめだ、実社会で学びを活かせないまま終わってしまう」と危機感を抱いていたからです。

理系の知識や考え方を身につけたい。そして、もともと関心があったまちづくりの分野に対して、3次元的な関わり方をしてみたい。そんな想いから、選んだ専攻が社会基盤学という土木系の学問でした。

当初は景観計画などソフト面の学びを深めていく予定でしたが、色々見ているうちに、コンクリートを研究している酒井研究室に目が留まりました。酒井研究室では、コンクリートを中心とした建材の使い所を見直し、代替可能な素材の開発やリサイクルの促進を通じて、環境負荷を軽減する研究を進めていました。

ビジネスに通じる研究領域な上、内容が尖っていて面白い。そう考えた私は、酒井研究室に入り、自分の研究テーマを検討し始めました。社会課題に何かしら貢献できて、かつ日常の一部に組み込めるようなテーマにしたい。そして、何より自分が面白いと感じられるテーマがいい。そうして、酒井先生が元々持っておられた発想をもとに、自分自身の環境に対する課題感を掛け合わせる形で開発を始めたのが「食べられるコンクリート」です。

技術の実装を自ら推進することへの期待感から起業を決意

町田紘太:

食品廃棄物だけで作る新素材の研究を進めていったある日、柑橘系の食品を使った成形物が出来上がりました。美しいオレンジ色をした素材を目の当たりにした時の感動を、今でもよく覚えています。こうした実験をさらに発展させ、多彩な素材を社会実装していけたら、絶対楽しいだろうと予感しました。

起業という道が思い浮かんだのは、ちょうどこの時です。自ら開発した技術とはいえ、社会課題を解決するだけであれば、どこかの大企業に入ったほうがよりスピーディに事業化できたのかもしれません。それでも、自分で実装していくほうが面白そうだと直感したのです。

大学卒業後、食品廃棄物の乾燥粉末を熱圧縮し成形する技術をプレスリリースで発表したところ、想定以上にメディアの問い合わせが相次ぎました。反響の確かさを実感できたこともあり、卒業から半年で松田や大石に声をかけ、2021年10月にfabulaを立ち上げました。

起業を決意した時、父をはじめ、様々な人に相談しましたが、反対の声は1つも挙がりませんでした。むしろ「面白いし、やってみたらいいのではないか」と皆が後押ししてくれました。仮に失敗したとしても、貴重な経験が増えるだけ。それなら、起業しない理由はどこにもないと考えました。

fabula社が提供する、廃棄物から作る新素材。コンクリートの曲げ強度の約4倍を誇り、材料由来の色も楽しめる。

リスクマネーに頼らず経営を続けた2年間から得た学び

町田紘太:

今年で創業4年目を迎えたfabulaですが、創業から約2年間はリスクマネーの資金調達を行わず、自己資本のみで経営してきました。CVCを運営している会社の経営者の方から起業前に頂いたアドバイスをもとに、自分たちで売上をつくるビジネスモデルをまず確立しようと決めたからです。

そのため、創業初期は松田や大石と3人でかき集めた資金をもとに、周囲の方々のお力を多々借りながら状態から事業を始めました。まずお互いに議論を交わしながらコンセプトノートを取りまとめ、会社のスタンスや考え方、ミッション・ビジョン・バリューを決めていきました。

言葉の軸を決めてからは、役員報酬をできる限り削り、時に預金残高に冷や汗をかきつつ、キャッシュフローを回していきました。お金を稼ぐためには、お客様に素直に向き合い、信頼を集め、かわいがっていただけるようにしていく必要があるのだということも、肌感覚で学びました。

普段はリモートでやり取りし、営業活動を行い、手を動かしながら製品をつくり、週末は研究。そんな日々が2年ほど続きました。仮に多額の資金を初期から調達していたとしたら、自分たちのお金で事業を回していく感覚が身につくことはなかったかもしれません。

おかげで、プロダクトの原価計算や単価の決め方が経験から分かるようになっていき、3人それぞれの得意を活かした役割分担も見えてきました。苦しい思いも多々しましたが、振り返ってみれば、起業前のアドバイスにしたがって、本当によかったと思っています。

創業メンバーの絆と組織拡大で直面したマネジメントの壁

スタクラ:

立ち上げ当初の大変な時期を松田氏や大石氏と一緒に乗り越えて来られたわけですね。創業メンバーとして声をかけた当初、お二人はどのような反応でしたか?

町田紘太:

実は、二人とも私が誘ったらすぐに「一緒にやろう」と応えてくれました。特に松田は、付き合っていた彼女と結婚を視野に入れていた段階だったにも関わらず、話を持ちかけたその日に相談して、翌日には前向きに話をまとめてきてくれました。

二人の反応が本当にうれしく、我ながら人の縁に恵まれていると改めて感じた出来事でした。松田や大石とは幼馴染で、かつ親同士も元々地元で知り合いという密接な関係だったので、阿吽の呼吸で事業を進めることができました。

3人で仕事がこなせているうちはよかったのですが、会社が3期目になると問い合わせがさらに増え、どうがんばっても手が足らないという状態に陥りました。そこでリファラル中心に増員を図ったのですが、思いもよらぬことが起きました。

メンバーが増えたことで、経営メンバー3人の時には見えてこなかった組織づくりの壁に突き当たったのです。残念ながら、最初に雇用したメンバーは、スキルセットの部分が要件と合わないことが判明し、仕事の価値観も異なっていたため、すり合わせをしきれないまま、数ヶ月で退職してしまいました。

この失敗の要因は、人材に対する期待値を調整できておらず、教育コストの計算もできていなかったことでした。要は、見通しが甘すぎたのです。この苦い経験から、新メンバーの採用に対してどう向き合うか、会社のマネジメントのあり方を考えるようになりました。

人が増えていけば、一人ひとりと個別で取れるコミュニケーションの量は減ってしまいます。その分、個々の役割分担や組織の「当たり前」を明文化したルールを決めていきながら、チームを「会社」として育てていく必要があるのだと学びました。

マネジメントについては道半ばですが、現在ではメンバーの特性に合わせた配置転換を行うなど、個々の良さを活かしながら不安なく働いてもらえるように、ウェルビーイングな組織づくりに取り組んでいます。

新素材の魅力と価値を訴求するブランディングを採用

町田紘太:

fabulaは「100%食品廃棄物から新素材をつくる技術」を中核に「あらゆるゴミの価値化」を目指しています。そのため、プラスチックの代替や二酸化炭素削減、SDGsへの貢献といったメッセージは使わず、新素材そのものの魅力や価値を訴求する独自のブランディングを採用しました。

私達の特許技術は、それ自体はシンプルなものです。だからこそ有機物を含む様々な乾燥粉末を固めるレシピを常にアップデートし、どこよりも多くのバリエーションを蓄積できるようにしています。それこそが、私たちの技術的な強みになるからです。

単に技術を保有するだけでなく、その技術そのものを進化させ、使用方法の改善・向上を図ることが私達の仕事です。使える原料のバラエティを増やし、機能性を更に拡張させていけるように、日々粛々と取り組んでいます。

また、大学との共同研究を通じて、最新の知見を取り入れる体制もfabulaには整っています。基礎研究や応用研究の成果を大学から取り入れるべく、今後も連携を強化していく予定です。

fabulaの事業を今後さらに成長させていくためには、プロダクトに関連した技術向上とブランドイメージの確立を両軸で進めていく必要があると考えています。そのためにも、クリエイティブ系の人材強化が大きな課題です。

「当たり前」を大切に、コツコツ積み上げ、未来を築く

スタクラ:

最後に、fabula社の今後の展望について、教えてください。

町田紘太:

これから採用を強化し、事業を拡大していくわけですが、fabulaは常に「respect」、つまりre(繰り返し)spect(見る)ことを大事にしていきたいと考えています。お客様とも社会ともメンバーとも常に向き合い、目の前のこと一つひとつに対して素直に取り組んでいく。

そして失敗からも学び、プロとして成長していく。私自身もそうありたいですし、同じように「当たり前」のことを大切にコツコツ積み上げていけるメンバーと一緒に事業を伸ばしていきたいと考えています。

最初の2年間をリスクマネーに頼ることなく会社を経営する中で、「お金を稼ぐことの重み」を改めて実感しました。額の大小ではなく、お金をいただくことは大変なことです。そして、とても大事なことです。

今後fabulaがどれだけ組織を拡大しても、扱う資金の額が上がり、キャッシュフローが潤沢になったとしても、そこの土台となる部分は決して忘れないようにしていきたいと思います。

fabulaはこれから拡大していく組織なので、このタイミングで参画するメンバーにとっては、プロダクトや世界観との距離感が近く、この会社の技術や場を使って自分でやりたい未来を叶えやすい環境にあると思います。

「ゴミから感動をつくる」という私達のミッションやビジョンに共感いただいた上で、もしあなたのやりたいことが私達の描く未来と重なるのであれば、ぜひ一緒に展開を作っていけたらうれしいです。

スタクラ:

本日は貴重なお話をありがとうございました。

この記事を書いた人

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ただゆり

広島県広島市出身。国際基督教大学卒業後、外資系製薬会社のMRとして勤務。その後、心身を壊し、10年ほど障がい者雇用の現場を経験。30代で県立広島大学大学院に飛び込み、社会福祉学を専攻。並行して、社会福祉士資格を取得。「データ扱いではなく、人の物語に光を当てたい」との思いから、大学院卒業後、インタビューライターとして起業。その後、大阪のベンチャー企業の経営に参画し、ベンチャーキャピタルJAFCO様の広報サポートの他、スタートアップ領域の広報に広く携わる。2024年9月に合同会社そうを設立予定。スタクラには、2022年8月よりパートナーとして参画。

fabula株式会社

fabula株式会社
https://fabulajp.com/

設立
2021年10月
社員数
2名(役員除く)

《 Mission》
ゴミから感動をつくる
《 事業分野 》
サステナビリティ・環境
《 事業内容 》
fabula株式会社は、規格外の野菜や加⼯時に出る端材、廃棄される生ゴミなど、⾷品廃棄物から新素材をつくる特許技術を有する東京大学発のスタートアップです。「物語」という意味のラテン語に由来した社名には、「要らないものとして処理されるゴミを生まれ変わらせることで、ストーリーの続きを紡ぎたい」という想いが込められています。新素材の曲げ強度はコンクリートの約4倍を誇り、⼩物から家具、建築材料など、様々な用途における活用が期待されています。