2つの拠点を行き来しながら、多角的な視点を持ち積極的な支援を行う

STATION Ai株式会社HR採用戦略パートナー 増尾(星野) 仁美氏

2024年10月、名古屋鶴舞にオープンした日本最大級のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」。

2023年よりSTATION Aiの採用支援事業の立ち上げに参画し、現在はHR採用戦略パートナーとして活躍している増尾(星野)仁美氏にお話を伺いました。採用、組織・事業開発、キャリア開発など積極的に取り組んでいます。

現在携わっている取り組みの内容や2拠点生活での働き方、仕事の楽しさ、困難の乗り越え方などについて、お話しいただきました。

増尾(星野) 仁美氏

HR採用戦略パートナー
増尾(星野) 仁美氏

新卒で大手総合人材会社に入社し、大手企業からスタートアップまで、法人向け中途採用支援や個人の転職支援に従事。その後、シリーズA資金調達後のスタートアップに転職し、シリーズCに至るまでの全社採用プロジェクト立ち上げや採用体制の構築を主導。

2021年に個人事業主としてHR・採用支援を開始。同時に愛知県のスタートアップエコシステム構築事業に携わり、愛知に拠点を構えながら、産官学連携によるコンソーシアムの立ち上げを主導。市場調査から体制構築まで、部長や管理職を対象とした導入支援を手掛ける。

2023年からはSTATION AiのHR支援事業に参画し、入居スタートアップ企業に対する採用・組織に関するHRアドバイザーを務める。

現在も愛知と関東を拠点に活動し、採用・組織開発・事業開発を軸に複数のプロジェクトを精力的に活動している。

STATION Ai株式会社

STATION Ai株式会社
https://stationai.co.jp/

<事業概要>
名古屋 鶴舞にある国内最大級のオープンイノベーション拠点。スタートアップ企業の創出育成およびオープンイノベーションの促進を目的に様々な支援サービスを提供。
スタートアップをはじめとする新規事業創出に取り組む人々のためのオフィス、フィットネスジム、テックラボに加え、一般の方も利用可能なカフェ・レストラン、ホテル、イベントスペース、あいち創業館が併設されている。

様々なHR関連・新規事業開発のプロジェクトに関わる

スタクラ:

はじめに、増尾さんが現在携わっているお仕事について教えてください。

STATION Ai株式会社 HR採用戦略パートナー 増尾(星野) 仁美氏(以下敬称略):

STATION Aiに入居しているスタートアップの採用・組織づくり、事業の立ち上げなどに関する壁打ちや相談に応じています。また、スタートアップへの転職や副業などに挑戦したい方向けのキャリアをテーマにしたミートアップやワークショップ、パネルディスカッションなどの企画も手がけています。
STATION Aiの活動の他にも、採用・人材開発・組織開発を中心に、新規事業支援、創業間もないスタートアップの立ち上げなどに携わり、様々なプロジェクトを同時で進めています。

東西どちらにもアクセス良好、利便性の良さがポイント

スタクラ:

現在は、どこを拠点にして活動していらっしゃいますか?

増尾(星野) 仁美:

STATION Aiがある名古屋エリアが中心ですが、愛知県の中でも名古屋市周辺エリアと東三河エリアを行き来しながらプロジェクトを進めています。居住地は埼玉県なのですが、愛知県でメインに活動しています。たびたび大阪や京都に出張したり、埼玉の家に帰ったりもしていますが、関東から愛知までは1時間半~2時間弱で移動可能であり、京都や大阪へは1時間以内でアクセスできて、愛知は東西どちらのアクセスも便利なので助かっていますね。このエリアは利便性が良いことが非常に魅力的です。

大手人材会社、シリーズAのスタートアップを経て現職に

スタクラ:

続いて、増尾さんご自身の略歴や仕事内容などを教えてください。どういった背景で、複数の拠点を持って柔軟な働き方をするようになったのでしょうか?

増尾(星野) 仁美:

新卒で人材会社のインテリジェンス(現:パーソルキャリア)に入社し、法人のお客様の中途採用支援を手がけていました。入社した当初、担当するお客様はIT企業が中心で、特に当時でいうベンチャーや、二次受け・三次受けのSIer(エスアイヤーのお客様)(※) が多かったですね。高い知名度や十分な採用費用、人員が揃っているわけではない中で、「いかに限られたリソースで良い人材を獲得するのか」という試行錯誤をお客様と一緒に繰り返していました。社会人の最初の数年間での泥臭い経験が現在にも生きていると感じています。

その後、HR担当として、従業員が60名ほどのシリーズAのスタートアップに転職しました。そこで「資金調達をしたので、今後1年で従業員を80名から400名まで増やしてほしい」と要望されまして(笑)。入社後は経営陣の皆さんと何度も議論を重ね、事業を進めるための適切な計画や進め方を一緒に模索しながら形にしていきました。その過程で、現場の社員の方々を巻き込みながら、組織・体制の整備や採用の強化に取り組みました。

求人広告や人材紹介はもちろん、あらゆる手法を駆使して採用を進めましたが、特に注力したのはリファラル採用です。もともとボードメンバーに「社員から、自分よりも優秀な人を紹介してもらって採用するカルチャーを作りたい」という思いがありましたので、自分より優秀な人材を迎えることが会社の成長につながるという文化を会社全体に根付かせるため、表彰制度の導入や社員の巻き込みを活性化する仕組みを構築していきました。

また、月に10名以上の新しい人材が入社する環境で、オンボーディングや入社後のフォローアップを含む組織開発にも力を注いでいました。

その後、コロナ禍に入り事業スピードがダウンした影響で、HRの縮小を余儀なくされたタイミングで前職の先輩からお声がけをいただき、愛知県のスタートアップエコシステム構築事業に参加することになりました。2021年のことです。

当初は愛知県の東三河エリアで産学官連携のコンソーシアム立ち上げ事業を担当することになり、それがきっかけで愛知に家を借り愛知県での活動を始めました。実際に住んでみたことで、愛知県特有の地場産業の強みや、地元を大切にする文化、そして懐の深い人柄に触れる中で、産官学や異なる民間同士が垣根を越え、この地域をより良くし、さらには日本全体を盛り上げていこうとする姿勢に強く惹かれました。愛知が秘める可能性と、ここから生まれるイノベーションには大きな魅力を感じ、現在もSTATION Aiの事業やHR関連を中心に、さまざまなプロジェクトに携わっています。

※SIer(エスアイヤー):「システムインテグレーター(System Integrator)」の略称で、顧客の業務を分析し、課題解決に向けたコンサルティングからシステムの設計、開発、運用・保守までを請け負う企業のこと

東三河での産官学が連携して4年前から取り組み始めた起業家支援の活動の1つ、Higashi Mikawa UPPERSの成果発表会

「産官学連携が生む新しい可能性」と「スタートアップ支援のやりがい」

スタクラ:

現在の働き方にある楽しさや魅力について、教えていただけますでしょうか?

増尾(星野) 仁美:

端的に言うと、ものの見方が多角的になりましたね。人材会社に在籍していたときは、仕事の進め方やカルチャーなど組織の方向性が揃っていたので、それに沿って進めればある程度スムーズに物事が進んでいました。

一方で、産学官連携やスタートアップの事業支援を行うようになってからは「正解がない」と思うようになりました。特に産学官連携においては、行政や歴史のある事業会社とスタートアップでは、考え方やスピード感、事業の進め方に大きな違いがあります。また、スタートアップ支援では、事業フェーズごとに事業の進め方や組織のあり方に対する考え方や価値観が変わるため、相談内容やその回答も変わってきます。そのため、相手の状況や事業、その業界や産業、組織構造への相互理解が欠けると、円滑なコミュニケーションが難しくなることもあります。
しかし、難易度が高いからこそ、多様なバックグラウンドを持つ熱意ある方々と、正解や不正解のない中で粘り強く理解を深め、新しいものを作り上げていく経験は、非常に面白く、やりがいを感じます。

スタクラ:

それを面白いと思える増尾さんも凄いです。なぜ面白いと感じられるのだと思いますか?

増尾(星野) 仁美:

まず、産官学連携を進める中で学んだこととして、物事を進めるには、各組織や他者の理解を得ることが重要であり、共通の目的をつくるためには多くのエネルギーと時間が必要だという点があります。それでも、多様な方々と関わる中で相互理解が進み、共通のゴールを一緒に作り、共有し、関わるメンバーが同じ景色を見られるようになったときには、大きなやりがいと喜びを感じました。まるで地域全体で大きな組織開発を行っているような感覚でしたね。
さらに、産官学や異なる会社同士が連携し、それぞれの持つ技術や知識、ネットワークが最大限に活かされることで、1社や1つの地域だけでは実現できなかったことが可能になる瞬間は、とても印象的です。
スタートアップのHR支援においても同様に、起業初期の創業者が最初の仲間を見つける段階から、シリーズA、シリーズB、シリーズCといった事業や組織が拡大するフェーズごとに、直面する課題が全く異なります。そのため、起業家の事業状況や今後の展開を踏まえ、一緒に課題を整理し、人や組織づくりの観点から支援に携われることに、大きなやりがいを感じています。
特に、採用や組織づくりが分からないという相談から始まったコミュニケーションが、半年後にはチームや組織が形を成し、経営者自らが優れた人材を仲間に迎え入れ、組織が強固になり、事業が大きく成長していく場面を見ると、本当に嬉しく思います。
これまでの経験や体験を総動員し、多様な方々とともにさまざまな課題に向き合うことは、非常におもしろく、やりがいを感じます。また、こうした多様な仕事に携わる中で新たな発見や学びが尽きないことも、やりがいと面白さを感じる大きな理由の一つだと実感しています。

考えが偏らないような行動を意識、さまざまな視点を持つことで新しいものが生まれる

スタクラ:

困難を感じるシチュエーションも多々あると思いますが、どのように乗り越えているのでしょうか?

増尾(星野) 仁美:

私の場合は仕事を進める際には、まずプロジェクトの目的を明確にし、自分が生み出すべき成果や価値をしっかり定義することを大切にしています。また、関わるステークホルダーの価値観や状況を理解し、成果に向けてフラットな視点で行動するよう心がけています。その過程で、皆さんとのコミュニケーションを根気強く続けることも意識しています。
難しい局面もありますが、こうした取り組みを通じて、さまざまなプロジェクトや人、組織に柔軟に対応できる力を培えると感じています。そして、特定の考えや価値観に偏らずフラットな姿勢を保つことが、多様な方々と連携し成果を生み出すために欠かせないと考えています。

スタクラ:

現在も様々なプロジェクトに携わっているとのことですが、プロジェクトにジョインするかどうかの判断基準があれば教えてください。

増尾(星野) 仁美:

お声がけいただいた際には、自分のキャパシティを踏まえつつ、基本的にお引き受けしてきました。これは、関わったプロジェクトの延長線上で新たなお仕事やご縁が生まれることが多いためです。また、過去に携わったプロジェクトが、未来の誰かの課題解決につながることもよくあります。

一方で、これまでとは異なる分野のプロジェクトにお誘いいただくこともあります。その際には、「難易度の高い挑戦かどうか」「自分が貢献できるか」、そして「三方よし」の考え方に基づいて活動できるかを重視しています。自分のバックグラウンドや価値観、これまでの経験を活かし、貢献できると感じたプロジェクトに、積極的にご一緒させて頂いています。

「Innovation Job Fair Startup Day Aichi」本番前の広報として産官学の様々なプレイヤーといっしょにPRを実施。

2拠点生活ではスケジュール管理が大切。短い時間で効率よくアウトプットを

スタクラ:

現在感じている苦労、仕事する中での大変さはありますか?克服するための工夫もあれば教えてください。

増尾(星野) 仁美:

時間管理ですかね。常日頃から、短い時間で可能な限りアウトプットを出すことを意識していますが、これが大変だと感じています。プロジェクトごとに考え方やコミュニケーションを切り替えないといけないので、混乱しないための切り替えや情報管理、工夫が必要と考えています。

また、数年にわたって毎週のように愛知と埼玉を行き来する生活を送っていますが、当初は大変さを感じていたものの、現在は苦に全く感じていません。2時間あれば移動できますし、新幹線の中で仕事や仮眠、読書もできます。ちょっと作業していたら目的地に到着する感覚ですね。やはりこのアクセスの良さは魅力的だと思います。

工夫している点でいうと、できるだけ効率よく活動できるように、アポイントの日程、場所をまとめるようをしていたり、異なるプロジェクトで得た知識やうまくいった方法や考え方を他のプロジェクトへ応用するなどを心がけています。

首都圏だけでなく海外からも情報・資金・人が集まるように。地域性を活かしたスタートアップエコシステム

スタクラ:

STATION Aiさんの立場から見た、東海・愛知エリアのスタートアップにある特徴や魅力について教えていただけますか?

増尾(星野) 仁美:

愛知は、情報やネットワークがコンパクトにまとまっていることが魅力です。一方で、首都圏だと情報やネットワークの規模が大きすぎて、そこにリーチするのが難しいことがあるかと思います。

愛知のコミュニティは小さい・深い・親しいので、情報収集や活用だけでなく、仕事の連携がスムーズに進みやすいと思います。また、愛知ではやはり「モノづくり」
が強いので、製造分野に携わっている方やエンジニアの方であれば力を発揮しやすい環境があると言えるでしょう。
また、首都圏と比較すると情報のスピードが遅いのでは、と質問をいただくことがありますが、2拠点生活をしている私の実感としては、東京との情報格差は感じていません。
現在、この地域にはSTATION Aiをはじめとするインキュベーション施設や、多様なネットワーク、コミュニティが集積しています。さらに、愛知県庁を中心に、首都圏や海外のイノベーション創出に強みを持つ大学や都市との連携協定が進められており、海外からの人や情報、資金が流入する体制が整えられつつあります。むしろ、この地域はコンパクトでアクセスが良く、国内外で効率的にリーチできる環境が整いつつあると感じています。

インタビューは名古屋市鶴舞にあるSTATION Aiで行った。

人手が欲しい、知識を貸して欲しい。起業家からのオファーは多い

スタクラ:

東海・愛知エリアのスタートアップに興味がある方に対して、アドバイスがあればお願いします。

増尾(星野) 仁美:

雇用形態にかかわらず、「現状に満足しておらず、何か新しいことにチャレンジしたいと思うものの、自分には難しい」と、移住や転職を諦めてしまう方も少なくないと思います。

そういう方がいたとしたら、まずは少しずつで良いのでアプローチをしてみてほしいですね。必ずしも「すぐにスタートアップに転職しましょう」ということではなく、コミュニティに参加して話を聞いたり、人や仕事の紹介を受けたりしてみてほしいです。様々な情報に触れることで視野が広がり、この地域のスタートアップで働くことについて、徐々にイメージが沸いてくると思います。

気軽に遊びに来ていただくだけでもよいですし、すでにこのエリアのスタートアップで働いている人に話を聞いてみるのはいかがでしょうか。

この地域には、人手が欲しい、知識を貸してほしい、と考えている起業家の方がたくさんいらっしゃいますので、多くのオファーがあると思います。

もやもやしていたり、チャレンジしてみたいと考えている方がいれば、今からこの地域での交流会への参加や情報収集など、アクションを起こしておくとチャンスが広がるはずです。正社員に限らず、副業やプロボノなど様々な働き方で新しいことにチャレンジする流れは、今後さらに加速すると思いますので、ぜひトライしてみてほしいですね。

まずはリモートからトライ、東海・愛知エリアでチャレンジを

スタクラ:

最後に、東海・愛知エリアのスタートアップへ転職や移住を検討している人に向けてメッセージがあればお願いします。

増尾(星野) 仁美:

まずは、気軽に愛知・東海エリアのオンラインやオフラインのイベントに参加してみてください。愛知・東海のスタートアップエコシステムに触れることで、首都圏にいるからこそ提供できる価値や、この地域から学べることに気づくきっかけになるはずです。徐々に足を運ぶ機会を増やすことで、新たなスタートアップや仕事を知るチャンスも広がります。
いきなり移住や転職をするのは難しいかもしれませんが、リモートや副業から関わりを始め、地域との接点を少しずつ増やすことで、次のステップに進む具体的なイメージが湧くと思います。ぜひ一歩踏み出して、新しいキャリアの可能性や素敵な出会いを楽しんでください。

スタクラ:

貴重なお話、ありがとうございました。

この記事を書いた人

アバター画像


スタクラ編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」スタクラの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

STATION Ai株式会社

STATION Ai株式会社
https://stationai.co.jp/

<事業概要>
名古屋 鶴舞にある国内最大級のオープンイノベーション拠点。スタートアップ企業の創出育成およびオープンイノベーションの促進を目的に様々な支援サービスを提供。
スタートアップをはじめとする新規事業創出に取り組む人々のためのオフィス、フィットネスジム、テックラボに加え、一般の方も利用可能なカフェ・レストラン、ホテル、イベントスペース、あいち創業館が併設されている。