非GPS・不整地・mm級精度で挑む。宇都宮大学発ロボット技術が拓く建設・測量の未来

人手不足や高齢化が加速する建設・測量業界。現場の品質やコスト、工期を大きく左右する「測量」のプロセスにおいて、従来の自動化技術では対応しきれなかった「非GPS環境」や「不整地」という課題を突破しようとしているのが、宇都宮大学発のスタートアップチーム(U2 Robotics)です。

今回は、自律移動ロボットやマッピング技術、AIの専門家であるミヤグスク准教授と、ロボットアームの制御やモデリングを専門とする田畑助教にインタビューを実施。既存の測量方法や海外の競合ロボットとの違い、現場での実証実験のリアル、そして事業化を加速させる「経営パートナー」への期待について、お話を伺いました。

ミヤグスク レナート 氏

研究推進機構 ロボティクス・工農技術研究所 准教授
ミヤグスク レナート 氏

ペルー出身。少年時代からパソコンの自作や分解に親しみ工学の道へ。東京大学大学院精密工学専攻にて博士号を取得後、同大学研究員を経て、2019年より宇都宮大学助教(現・准教授)。専門は自律移動ロボット、フィールドロボティクス、確率的自己位置推定・マッピング(SLAM)。自律走行ロボットのソフトウェアやAI開発を手掛け、羽田イノベーションシティや池袋イケサンパーク、つくば市役所周辺などでの実証試験をはじめ、ロボットの社会実装に主眼を置いた研究開発に取り組む。

田畑 研太 氏

工農総合科学専攻 機械知能工学プログラム 助教
田畑 研太 氏

ガンダムへの憧れから高専でロボット工学を学び、金沢大学大学院にてロボット工学を専攻。主にロボットアームの動作計画や自動化装置の設計を行う。2023年に宇都宮大学へ赴任後は、計測・ロボット工学研究室にてロボットマニピュレーション(腕・手先制御)や非破壊検査技術の研究に従事しつつ、自律走行ロボットの公道実証試験や、技術開発と現場ニーズをつなぐ事業開発・対外連携も担う。

宇都宮大学

現場の始まり「測量」をロボティクスで自動化する

スタクラ:

まずは、研究室で取り組まれている自律移動ロボットの技術と、今回「建設・測量」領域に着目されたきっかけを教えてください。

ミヤグスク氏:

私たちのコア技術は、どんな不整地や特殊な環境であっても、ロボットが迷わずに安定して走行・計測できる「自律移動・自己位置推定システム」と「高精度3次元マッピング技術(Graph-based SLAM)」です。

建設工事において、一番最初に行われる「測量」は、その後の基礎工事や建物を立ち上げていく工程の品質を左右する、本当に重要なステップなんですね。もし最初の測量で少しでもミスがあると、あとから大きな手戻りや時間の遅れが発生してしまいます。

それにもかかわらず、現場では熟練の職人さんの減少や高齢化が進んでいて、人手不足がとても深刻な問題になっています。この現場の原点である「測量」をロボットで自動化・高精度化できれば、建設業界全体の課題解決に大きく貢献できると考え、本格的に着目しました。

【技術解説】「非GPS×不整地×mm級精度」で実現した建設・測量のイノベーション

スタクラ:

今回開発された自律測量基盤技術(U2 Robotics)の強みについて教えてください。

田畑氏:

建設現場の「測量」は施工のクオリティを左右する要ですが、熟練者の不足や高齢化によって「手作業による測量をどう効率化・自動化するか」が業界全体の急務になっています。

現在も海外、国内大手ゼネコンなどで自動測量ロボットの開発は進められてきましたが、GPS電波が届かない屋内やビルの影で立ち止まってしまったり、工事初期のぬかるみや段差といった「不整地」では測量が難しいという壁がありました。

僕たちはこれまで、LiDARやIMU(慣性センサー)、地磁気、Wi-Fi、画像などを組み合わせる「センサフュージョン」の技術を、実環境で磨き続けてきました。それによって、GPSがない場所でもロボットが自分の位置を見失わずに走行できます。さらに、4脚(犬型)ロボット、タイヤロボットなど異なる型のロボットにも対応できる柔軟な設計なので、段差や高低差のある厳しい現場にも適用できると信じています。

そして、現場で使われる精密な測量機器(トータルステーション)と3D LiDARをリアルタイムで連動させる技術の開発をおこなっています。その技術により、建設現場で厳密に求められる「ミリメートル単位の精度保証」と「マーキングの自動化」を一貫して実現するプラットフォームの構築を目指しています。これも、地元企業の方々と連携なしには実現することはできませんでした。

【従来技術との違い】

■ 従来の自動測量・海外競合ロボット

・走破の限界(GPS依存・整地のみ):海外製の屋外用ロボットは、GPS電波が届かない場所(ビルの影・山間部・屋内)で止まってしまう。また、床面の墨出しロボットはコンクリート打設後の平地限定で、段差やぬかるみ(不整地)があると走行できない。

・課題:建設工事の最も大切な初期工程(現況・起工測量)や過酷な環境では導入できず、結局は熟練の作業員さんが2人1組で手作業を行うしかなかった。

■ 今回開発した U2 Robotics(非GPS・不整地対応の自律測量プラットフォーム)

・高い環境適応力(非GPS×不整地):独自の「センサフュージョン(LiDAR・地磁気・Wi-Fi等)」により、GPSが届かない屋内や高層ビルの陰でも迷わず自律走行。4脚(犬型)ロボット、車輪型ロボットなどにも載せ替え可能で、工事初期のぬかるみや高低差も軽々とクリア。

・mm単位の精度保証:精密光波測量機器(トータルステーション:TS)と3D LiDARをリアルタイムで統合。建設現場で求められる「ミリメートル単位の精度」をしっかり担保し、図面作成やBIM/CIMデータへもスムーズに自動連携。

・成果と拡張性:計測スキャンだけでなく「設計図通りの自動マーキング」まで一括で対応。地元の測量会社さんと現場実証を進めており、今後は斜面や高所での作業・点検など、他工程への応用も期待できる。

地元の測量会社・ゼネコンと進める「泥臭い現場実証」

スタクラ:

現場での実証実験を通じて、どのような手応えや見えてきた課題がありましたか?

田畑氏:

大手ゼネコンさんから地元の測量会社さんまで、幅広くヒアリングや実証実験を進めています。

現場に出て分かってきたのは、単に「ロボットが1つの計測作業を置き換えるだけ」では本当の解決にならないということです。現場の作業員さんは、測量だけでなく荷物の運搬や現場のマーキングなど、本当に多角的な仕事をこなしているからなんですね。

だからこそ今は、現場のスキャンだけでなく「設計図通りの位置に自動で目印を付ける機能」まで一体化したシステムを作っています。地元の測量会社さんとは「ロボットを使うことを前提とした新しい測量プロセス」を一緒に試行錯誤していて、現場の生の知見をどんどん吸い上げながらアップデートを重ねています。

ミヤグスク氏:

研究室のラボの中だけでテストしていても、本当の現場課題は見えてこないんですよね。実際に現場へ持ち込んで、埃や凸凹、実際の作業フローの中でテストを繰り返すことこそが、本当に使われるプロダクトへ育てる一番の近道だと感じています。

互いの強みを引き出し合う─「熱量」と「冷静さ」が共鳴するチーム体制

スタクラ:

お二人の対話からとても良い関係性が伝わってきます。役割分担やお互いの印象はいかがですか?

田畑氏:

僕たちの役割分担は本当にハッキリしています。ミヤグスク先生は自律移動やマッピング(SLAM)、AIのプロフェッショナルで、研究室のコア技術開発を一手に担ってくださっています。

僕自身はハプニングがあるとよく焦ってしまうのですが、ミヤグスク先生はどんな状況でも常に落ち着いていて動じないんです。内に秘めた情熱がすごく深くて、人としても研究者としても心から尊敬しています。

ミヤグスク氏:

田畑先生は対外的なコミュニケーション能力と推進力があり、新しい実証フィールドやパートナー企業さんとの接点をどんどん切り拓いてくれる存在です。

私はペルー出身なのですが、イメージされるような陽気なスタイルというよりは、どちらかというと静かで落ち着いた環境を好むタイプなんですね。一方で関西出身の田畑先生はすごく情熱的で行動力があって、チームに力強いエネルギーを与えてくれています。

田畑氏:

恐縮です(笑)。でも本当に、研究者が技術開発から資金調達、対外交渉まで全部を1人で抱え込んでしまうと限界が来てしまいます。お互いの専門性と強みを活かして、対等なタッグで走れていることが僕たちの大きな強みですね。できることなら、経営者の方にもチームに入って頂きたいと資金調達や事業計画、企業との連携を担って頂きたいと考えています。

求めるのは「当事者として意思決定とアクセルを踏める」経営パートナー

スタクラ:

現在、事業化に向けてどのような人材(CXO候補・経営メンバー)を求めていらっしゃいますか?

田畑氏:

一番求めているのは、「自分事(我が事)」として一緒に参画し、事業立ち上げや資金調達のアクセルをどのタイミングで踏むべきか判断できる経営人材です。

現場の解像度が高いパートナー企業さんや、技術志向の心強いメンバーとの体制は整いつつあります。ただ、事業計画をより具体化し、法人化のタイミングや資金獲得の戦略を力強く引っ張ってくれる経営側のパートナーがまだ必要なんです。

外側からのアドバイザーにとどまらず、同じ目線でチームを牽引してくださる熱意ある方に、ぜひ仲間になっていただきたいと思っています。

ミヤグスク氏:

ディープテックやロボットが好きで、新しいことにオープンな思考で飛び込める方であれば、必ずしも建設業界のバックグラウンドがなくても大歓迎です。

「研究を論文で終わらせない」─社会へ還元する研究者の責任

スタクラ:

最後に、参画を検討されている方へメッセージをお願いします。

ミヤグスク氏:

私はペルーから日本へ渡り、文部科学省の奨学金を受けて研究を続けてきました。国立大学の研究者として税金や多くのご支援をいただいている以上、「研究成果を論文やラボの中だけで終わらせるのではなく、実際の社会へ還元していく責任がある」と強く感じています。

人手不足に悩む建設や測量の現場で、私たちのロボットが当たり前のように走り、働く人たちの負担を減らして社会インフラを支えていく。それこそが、私たちが目指している未来です。

「非GPS・不整地・mm級精度」という他にはない強固な技術基盤を持って、一緒に社会課題の解決に挑んでくださる情熱的なパートナーの参画を、心からお待ちしています。

編集後記

今回のインタビューで印象的だったのは、ミヤグスク先生と田畑先生の圧倒的な「技術への自信」と「現場へのリスペクト」、そしてお互いを認め合う抜群のチームワークでした。

「研究成果を社会に返すのが責任」とまっすぐに語る冷静で心優しいミヤグスク先生と、「おしゃべり担当」と笑いながらも、泥臭く現場を開拓しチームに明るいエネルギーをもたらす田畑先生。お互いをリスペクトし合う絶妙なバランスが本当に魅力的です。

新しい技術、そしてロボットに少しでも心が惹かれた方は、ぜひイベントで直接お話ししてみてください!

この記事を書いた人

佐藤 鮎美

佐藤 鮎美

【所属】株式会社スタートアップクラス 事業推進部 【経歴】大学卒業後、リクルート広告代理店に入社。その後、(株)リクルートホールディングスにてバックオフィス業務全般を行い、(株)ジュリスティックスでは人材紹介を含むアシスタント業務を行う。2022年4月よりスタートアップクラスへ参画。 【スタートアップへの思い】 志をもった素晴らしいスタートアップがあることを知ってもらい、良い出会いからスタートアップの事業成長に繋がれば嬉しいです!