最新の素材・デバイス研究の力で世界にイノベーションを。東北大学ベンチャーパートナーズが伝える、東北大発ディープテックで働く魅力

東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社投資部長 長浜 勉氏

2022年に決定された「スタートアップ5か年育成計画」を皮切りに、日本全国で起業支援の波が起きています。特に東北六県における勢いは顕著であり、仙台市では、郡市長自らスタートアップへの手厚いサポートを約束しました。そうしたムーブメントの中、東北大学ベンチャーパートナーズ(THVP)は「東北地域の国立大学に眠っている研究成果を使って革新的イノベーションを起こし、大学発ベンチャーを継続的に輩出するためのエコシステムを形成する」という目的のもとに生まれました。素材やデバイス・半導体といったディープテック分野に特に強みを持っている東北大の研究をベースに社会課題を解決し、新たなビジネスを興すというミッションに挑戦しています。
今回は、THVPにて投資を担当している長浜勉氏へ、従来のVCとは違ったTHVPならではの特長や、東北地方に眠っている可能性、そして、東北大発ディープテックで働くことで得られるものなどについてお話いただきました。

長浜 勉氏

投資部長
長浜 勉氏

ソニー株式会社及びデクセリアルズ株式会社にて、半導体メモリ、CMOSセンサ、ディスプレイフィルムなどの開発・設計・プロセス構築を担当すると共に、特殊建材フィルムの新規事業企画・立上げを実行。大学・国内外研究機関等と連携し商品価値の向上に取り組み、製造・販売パートナーとのアライアンススキームも構築、事業化を推進した。

THVPでの担当業務:2018年4月より東北大学ベンチャーパートナーズにて投資を担当。
担当分野:ディープテック

最終学歴:東京理科大学大学院基礎工学研究科 材料工学専攻修了 修士(工学)

実績
論文:18件、特許:75件
修士在学時に日本セラミックス協会の若手研究奨励賞を受賞。
ソニー及びデクセリアルズにて新規事業として熱線再帰フィルム Albeedo®を発明・開発し、社長賞受賞、2016年度にグッドデザイン賞を受賞、2017年に日本ヒートアイランド学会技術省を受賞。大阪ヒートアイランド対策技術コンソーシアムにて再帰WGを発足、再帰性高日写反射率窓フィルムの認証基準を策定。新市場創造標準化制度を活用し、2018年にJISの新規格(JIS A 1494)を策定

東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社

東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社
https://thvp.co.jp/

≪経営理念≫
東北大学及び周辺国立大学の研究成果に基づく優れた技術を、
大学発ベンチャーの設立・投資・育成活動を通じて事業化し、
新産業を創出することによりイノベーションを起動します
≪Mission≫
投資活動を通じて、大学の研究成果が社会・産業に新陳代謝を促す革新的イノベーションをもたらすための機会を創出します
大学発ベンチャーを継続的に輩出するためのイノベーションエコシステムを形成します
東北地域からグローバルに活躍できる起業人材を育成輩出するプラットフォームを形成します
新産業の創出・育成を通じて東北地域の産業振興に貢献します
≪Vision≫
東北地域における大学発ベンチャーの成功事例を連続的に創出し、テクノロジーベンチャーと人材、資金の集積を実現します
≪Values≫
テクノロジスト:最先端の科学技術を高度に理解し、研究者への共感と尊敬を基礎として、研究成果の事業的価値を追求します
イマジネーション&クリエイティビティ:既知の方法や常識、価値観に囚われず未来を想像し、投資育成活動を通じて付加価値を創造します
プロフェッショナリズム:高度な能力と倫理観を持って周囲から信頼を獲得し、成果に拘って行動します
オーナーシップ:全ての行動と結果に対して責任が伴うことを自覚し、常に自身に何が出来るのか/何をすべきかを考え続けます

研究成果の社会実装により東北に新たな産業を生む。手厚いサポートで起業家の自立を支援する

スタクラ:

東北大学ベンチャーパートナーズ(以下、THVP)設立の背景や、主な特徴について教えてください。

東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社 投資部長 長浜 勉氏(以下敬称略):

THVPは「官民イノベーションプログラム」という法律に基づいて作られた会社です。東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学に合計約1000億円の税金が投入され、その中でもTHVPは「東北地域の国立大学に眠っている研究成果を使って革新的イノベーションを起こし、大学発ベンチャーを継続的に輩出するためのエコシステムを形成する」という目的のもとに生まれました。グローバルに活躍できる起業人材の育成輩出はもとより、東北に新産業を創出・育成することで、地域全体の産業振興に貢献することを狙いとしています。
我々の特徴は、「ディープテックに強い」という点ですね。例えば、京都大学さんであればライフサイエンス系に長じているといった具合に、各大学ごとに強みが異なると思うのですが、我々の母体である東北大学は「素材・デバイス」を得意分野としている他、医工連携の取り組みを積極的に行っているため、ディープテックとの親和性が高いといえます。
THVP自体の特徴という意味で言うなら、我々は「研究成果をどうやって事業化、社会実装するか」というミッションを持っているので、「研究について一定程度の知識を有しつつ、ビジネスサイドも経験しているかた」を採用しているという点が挙げられます。従来のVCですと金融系の方や最近はコンサルティング会社出身の人材が多いイメージがありますが、THVPには事業会社でビジネス回りの業務経験を積んでいて、「市場にどういう技術が求められているのか」、「今ある技術はどういったニーズに適用できそうか」、「それらの実務に落とし込む際に何がポイントか」といった、テクノロジーベンチャーの成功に必要な勘所を理解している、実戦的なメンバーが揃っています。
THVPが投資先に用意している支援として、基本的には「各々の起業のニーズに応じて支援を行う」というかたちになるのですが、全体に共通するものとしては「資金調達時の支援」があります。THVPがリードをした場合、次の資金調達のときにも我々はリードとして他の協調投資先を呼び込みます。また、地域の金融機関と連携しておりますので、エクイティだけでなくデットファイナンスの際にもサポートが可能です。
他には、うちのリード先であれば、社外取締役になるケースも多くあります。取締役会での企業価値向上に関する議論だけでなく、いつでも気軽に相談ができるメンターとして経営者の皆さんに寄り添っています。

スタクラ:

スタートアップというと、権利・契約の部分が不安な経営者も多いと思います。そういった面でのサポートはありますか。

長浜 勉:

確かに、他の企業と契約をする際に不利な契約をしてしまいトラブルになるケースもありますよね。もちろん、THVPは契約関連のサポートもしておりますので、「契約内容に目を通してほしい」というお声があれば、しっかり確認いたします。また、人材紹介会社とも連携しておりますので、「こういう人材がほしい」という相談にもお応えできます。他には、交渉支援の一環として、「事業提携先との交渉に同席する」ということもありますね。やはり起業初期は人材が足りないことがほとんどですので、そういった際に出来る限りサポートして、企業の拡大と共に社内体制を整備するお手伝いをする、といった取り組みをやっております。「一緒に戦っている内部のメンバーとは違った、一歩引いた視点からの冷静な意見」が提供できることも、我々の価値の一つかなと思っています。

新規事業立ち上げの経験を活かして、THVPに転職

スタクラ:

長浜様の簡単な略歴と、THVPでディープテック投資に関わるようになった背景について教えていただけますか。

長浜 勉:

新卒でソニーに入社したのがキャリアの始まりです。ソニーで半導体関係の開発から新しい事業の立ち上げといった業務に携わっていて、CMOSセンサーの設計やディスプレイ関係のフィルムなど、そういった新規事業を立ち上げるところをずっとやってきました。その後はプロジェクトリーダーとして設計、開発、製造、営業など分野を横断して関わっていたのですが、懇意にしていた上司からTHVPに誘われたんです。そのかたはソニーを定年退職後にTHVPに入ったのですが、「長浜だったら、こういう仕事もできるんじゃないの?」と呼ばれまして、それで私もTHVPに来たという流れです。
実はTHVPに誘われる前に、その方が担当していた投資先の社長をやらないかという打診があったのですが、本当にそのビジネスがうまくいくのか不明瞭なところがあって、全てを捨てて社長になるのはリスキーに感じました。それで、そのお話はお引き受け出来なかったのですが、それから1年後位にTHVP自体が人材募集をしていると聞いたので、それなら今までやってきた新規事業立ち上げの経験が活かせると思い、転職に踏み切りました。

スタクラ:

東北大学発ディープテックの概要と特徴について、詳しく教えてください。

長浜 勉:

やはり東北大という意味では、素材・デバイス系が強いです。また、国策として注目を集めている、半導体関係にも知見があります。特に影響力が強く、歴史のある分野を挙げるとしたら「磁気」ですかね。例えば、磁気を半導体に応用したパワースピン、センサーに磁気を使ったスピンセンシングファクトリーという会社は、どちらも今後の成長が期待されています。最近では災害科学も研究が進んでおりますし、総じてディープテックに対する強みを持っていると思います。それはなぜかというと、素材の部分では、金属材料研究所から長い歴史があること、磁気の部分では、本多光太郎先生から脈々と研究室が引き継がれている歴史があるからだと思います。100年に渡る研究成果の積み重ねがあり、それが今、色々な応用を経て展開されているのでしょう。他にも、東北大学の持つ「実学尊重」という理念も影響しているかもしれません。「八木・宇田アンテナ」のように東北大から生まれて社会を変えた発明もありますし、「いかに研究成果を社会実装できるか」という考えかたでやってきているので、もともとそういった素地はあった印象ですね。
投資実績としては、全体としてアーリーステージの企業が2/3以上になる比率です。その中でも1号ファンドはだいぶ踏み込んでおり、アーリーが約75%を占めます。中には創業直後のシード投資も多数ありますね。

東北大学ベンチャーパートナーズの投資ポートフォリオ

世の中を変える可能性がある、やりがいのある仕事。東北ならではの環境も魅力的

スタクラ:

東北大学発のディープテックで働く魅力、ワークライフバランスやQOLについても教えて下さい。

長浜 勉:

「社会に大きなインパクトを与えられる可能性が高い」というのは、魅力の一つだと思います。また、イノベーションを起こす側としては、「ディープテックならではの参入障壁の高さ」もプラスに働くかもしれません。優秀な先生がたが何十年もかけて積み上げてきた蓄積を社会実装しようという試みなので、他人が一朝一夕に真似できるものではありません。それでいて、社会実装されれば誇張抜きで世の中を変える可能性があるので、非常にやりがいのある仕事だと思います。
また、東北大発のディープテックは環境やインフラという面でも、とても優遇されています。起業前のギャップファンドや起業支援も手厚いですし、何より東京のスタートアップとは数が違うので、色んなかたちで手厚い支援を受けられると思います。
他には、「T-Biz」というインキュベーション施設があり、スタートアップ同士の横の連携を醸成する環境も整っています。
ワークライフバランスやQOLの面では、海も山も近く、都市もコンパクトなので住みやすい土地だと思います。車で30分くらい走れば豊かな自然に触れることができるので、子育ての環境としても良いと感じています。また、地方都市というと「地元のネットワークに馴染めるか不安」という方もいらっしゃるかと思いますが、仙台は新興住宅地も多く、転勤で来る方がたくさんいらっしゃるので、「昔ながらの町に単身で乗り込む」ことにはなりにくい傾向があります。そのため、家族同士のネットワークにも比較的入りやすい、というのもメリットの一つですね。ハイキャリアな親御さんが多く、教育熱心なかたが多い印象がありますので、教育面でも良い環境だと思います。

社会課題と技術とを結びつけられるビジネス人材を求めている

スタクラ:

VCの立場から見て、東北大学ディープテックの課題はどこにあると思いますか。

長浜 勉:

大学発の起業だと技術オリエンテッド(志向)なところが多いので、「こんなすごい技術があるから、あれに使える。これにも使える」と目標がブレてしまい、なかなかビジネスが立ち上がらないという課題がありますね。本来なら、「世の中にはこういう課題がある。この技術だったら課題解決できる」という、課題と技術を繋ぐことがビジネス人材の役割だと思うのですが、そういうことができる人材がやはり不足しています。そういったビジネス人材、ビジネスデベロップメントの経験者のかたこそ東北に来てほしいですね。そのための支援を我々は惜しみません。移住とまで行かなくとも、副業でも構いませんので、ぜひ来ていただければと思います。
他には、「東北出身だけれど、東北には自分の能力を活かせる仕事がないから東京の大企業で働いている」という人にも、ぜひ戻ってきてほしいなと思っています。例えば、そういうかたにはEIR(客員起業家)という働き方もあるので、ぜひ一度考えてもらえるとうれしいですね。

スタクラ:

東北で働こうという人が事前に知っておいたほうが良いこと、覚悟しておくべきことはありますか。

長浜 勉:

スタートアップに限定すると、極端に言えばどこも「明日のお金に困っている」という状況だということですね。1年後のお金はどこも保証されていないわけです。そこはちゃんと理解しておくと良いかなと思います。大企業にいると「じゃあ、今年の予算は3億」と資金が割り当てられるイメージがあるのですが、スタートアップで3億円を集めるというのは本当に大変なことなんですよ。逆に、そういった状況を理解しながら、将来の成長可能性を肌で感じてもらうためにも、副業で少し伴走しながら、「スタートアップはどういう世界か」と理解してもらうのがベストだと私は思っています。
それと、お金の面以外で気をつけておくべきなのは、やはりコミニュケーションの問題ですね。大学発ディープテックで働く中で起きるトラブルとして、「先生とのボタンの掛け違い」という点もあります。先生には長年かけて積み上げてきた研究成果があり、それを広く世の中に活用して貰いたいという想いがあります。一方、ビジネス人材は限られたリソースで成果を上げるべく選択と集中を行おうとしますがそこで先生の想いとずれてしまい、不幸にも1、2年で辞めていった例を見てきました。「人間力」というと抽象的すぎるかもしれませんが、いかにビジネス的に正しい判断だったとしても、研究者に対するリスペクトを忘れないで、お互いに納得して前に進めるようにする気配りが重要かなと思います。「ビジネスのことは俺(私)だけに任せておけばいい」というスタンスだと、なかなかうまくは進まないのではないでしょうか。

東北大学青葉山キャンパス(手前右手がマテリアル・イノベーション・センター)。インタビュアーの藤岡(左側)とTHVPの長浜氏(右側)

生活のQOLを上げつつ、イノベーションを起こせる仕事に熱中できる

スタクラ:

東北大学発ディープテックで働こうと考える人へアドバイスをお願いします。

長浜 勉:

東北には、イノベーションを起こせるような技術のネタがたくさんあります。そのネタを自分の力でビジネスに変えて、世の中にインパクトを与えるというのは、とてもやりがいのある仕事だと思います。ぜひ、そういったところにチャレンジしてほしいですし、我々も伴走して全力でサポートしますので、みんなでスタートアップを盛り上げていきましょう。生活面でも仙台は本当に良いところです。海の幸は美味しいし、温泉もすぐ近くにあります。住環境として非常に恵まれている土地なので、生活を楽しみながら、グローバルでやりがいにあふれた仕事に熱中してほしいなと思います。

スタクラ:

素敵なお話をありがとうございました。

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スタクラ編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」スタクラの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社

東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社
https://thvp.co.jp/

≪経営理念≫
東北大学及び周辺国立大学の研究成果に基づく優れた技術を、
大学発ベンチャーの設立・投資・育成活動を通じて事業化し、
新産業を創出することによりイノベーションを起動します
≪Mission≫
投資活動を通じて、大学の研究成果が社会・産業に新陳代謝を促す革新的イノベーションをもたらすための機会を創出します
大学発ベンチャーを継続的に輩出するためのイノベーションエコシステムを形成します
東北地域からグローバルに活躍できる起業人材を育成輩出するプラットフォームを形成します
新産業の創出・育成を通じて東北地域の産業振興に貢献します
≪Vision≫
東北地域における大学発ベンチャーの成功事例を連続的に創出し、テクノロジーベンチャーと人材、資金の集積を実現します
≪Values≫
テクノロジスト:最先端の科学技術を高度に理解し、研究者への共感と尊敬を基礎として、研究成果の事業的価値を追求します
イマジネーション&クリエイティビティ:既知の方法や常識、価値観に囚われず未来を想像し、投資育成活動を通じて付加価値を創造します
プロフェッショナリズム:高度な能力と倫理観を持って周囲から信頼を獲得し、成果に拘って行動します
オーナーシップ:全ての行動と結果に対して責任が伴うことを自覚し、常に自身に何が出来るのか/何をすべきかを考え続けます