富裕層向けブランド「オルクドール」で出会いを創り、中部地域のスタートアップを支援する

東海東京証券株式会社名古屋企業金融部兼スタートアップ支援室 調査役 王家元氏

日本の独立系総合証券会社として、愛知県名古屋市に本店を置く東海東京証券株式会社。
IPO、M&Aといった投資銀行業務はもちろん、富裕層向けブランド「オルクドール」にて、金融サービスと非金融サービスを融合させたプライベートバンキングサービスを提供しています。
その中で、経営者を中心にした「コミュニティ」ではビジネスマッチングやスタートアップ、ピッチイベントを展開しています。

今回お話を伺ったのは、名古屋企業金融部兼スタートアップ支援室で調査役を担う王家元氏。東海東京証券によるスタートアップ支援の特徴や東海・愛知のスタートアップで働く面白さ、働きやすさなどについて、お話しいただきました。

王家元氏

名古屋企業金融部兼スタートアップ支援室 調査役
王家元氏

名古屋大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。中国出身。
2016年9月に来日し、名古屋大学に入学。
在学中にアントレプレナーシップ、ベンチャーキャピタルとマクロ経済の関係を中心に実証研究を行う。
文科省主導のリーディング大学院プログラムに選抜され、海外スタートアップエコシステムの現地調査を複数回実施。
2021年監査法人トーマツに入社、上場企業向けの戦略コンサル業務に従事。
2022年に博士後期課程を修了、東海東京証券に入社、投資銀行部門にて中部・関西地域のIPO支援、スタートアップ支援の企画・推進を行う。
東海東京フィナンシャル・ホールディングスのスタートアップ支援戦略室も兼任。

東海東京証券株式会社

東海東京証券株式会社
https://www.tokaitokyo.co.jp/

東海東京証券は、全国に64営業拠点を展開しています。このうち半数以上が集中する東海地域では、他社の追随を許さないプレゼンスを確立し、地域のお客さまとの間に強固な信頼関係を築いています。また、提携合弁証券の営業拠点等も加え、全国に広範なネットワークを確立しています。

「オルクドール」を通じたスタートアップ支援

スタクラ:

はじめに、東海東京証券さんの概要やスタートアップ支援の取り組みについて教えてください。

東海東京証券株式会社 名古屋企業金融部兼スタートアップ支援室 調査役 王家元氏(以下敬称略):

東海東京証券は2000年10月に東海丸万証券と東京証券の合併により設立された、東海東京フィナンシャル・グループの中核となる証券会社です。国内の証券業界では「準大手」に位置づけられ、地方銀行との提携合弁証券会社も含めて全国に131店舗を設けています。

ネット証券の勢いが高まる中、2015年に東海東京証券ではいち早く富裕層顧客向けのブランド「オルクドール」を打ち出し、翌年には「オルクドール・サロン」を開設。対面証券会社である当社特有の付加価値を提供しています。

現在、お客様との当社コンサルタントの相談の場、お客様同士の社交やお寛ぎの場、またネットワークや知見拡大の場でもある「オルクドール・サロン」を3拠点で展開しており、メンバー数も約3,500人となっています。

弊社ではオルクドールのお客様に様々な付加価値を提供していく中で、お客様の事業自体に支援、貢献できないかと考え、その一環としてスタートアップ企業の紹介やオープンイノベーションなどの支援を提供することとなりました。

社会インフラの観点からも、資本市場の活性化のためイノベーションの発生が求められますが、そのための施策としてもスタートアップやオープンイノベーションなどの支援は重要であると考えています。

こうしたオルクドールメンバーとの出会いを通じて多くのスタートアップが成長し、その結果として資本市場が活性化し、弊社の将来的な収益につながっていくことを目指しています。

スタクラ:

東海東京証券さんが提供している具体的な支援の特徴があれば教えてください。

王家元:

弊社ではオルクドールのサービスを通じて、中部・東京地域における上場企業の経営者とのネットワークを構築しています。その中で、スタートアップ経営者に対するメンタリング、協業や出資、取引などに興味のある上場企業のトップ経営者を、地域を越えて紹介するという形でマッチング支援を提供しています。

また、スタートアップのイグジット支援として、IPO、M&Aに向けたコンサルティング業務も手掛けています。

オルクドールピッチの様子

将来は実業と研究の二刀流で活躍したい

スタクラ:

続いて、王さんご自身の略歴や仕事内容などを教えてください。どのような経緯でスタートアップ支援に携わるようになったのでしょうか?

王家元:

もともと中国出身なのですが、大学3年生の頃に岡山大学との交換留学で日本を訪れました。そのときの留学経験が非常に充実したもので、また訪日したいという思いが強まり、大学院への進学にあたって名古屋大学に入学したのが、2016年10月のことでした。

私の専攻は経済学で、修士・博士課程を経る中で、ベンチャーキャピタルとアントレプレナーシップの研究を行ってきました。例えば、アントレプレナーシップの政策とベンチャーキャピタル投資がマクロ経済に与える影響などを研究してきましたね。

こうした研究は現在も続けており、今も名古屋大学で研究員として勤務しています。今年も日本ベンチャー学会で研究発表を行うことになっています。

研究自体はとても好きなのですが、研究だけでは机上の空論となり、現場感覚がなくなってしまうことについて強い危機感を持っています。大切なのは、現場で課題を発見していくことだと思っています。

そこで私としては、実業と学術の二刀流を究めていきたいと思っています。以前、アメリカやイギリスを訪れて現地の投資家やスタートアップ起業者などにインタビューする機会があり、研究者が起業しているケースが多いことを知り、「面白い」「かっこいい」「自分でもやってみたい」と感じました。

そのような経緯もあり、現場に近く、なおかつゴールキーパーとして機能する投資銀行業務に携わってみたいという想いから、東海東京証券に入社し、現在はIPOのカバレッジ業務やコンサルタントなどを手掛けています。

日本ベンチャー学会での研究発表

モノづくりが盛んな東海・愛知エリア特有のスタートアップ事情

スタクラ:

東海東京証券さんの立場から東海・愛知エリアのスタートアップにある特徴や魅力について教えていただけますでしょうか?

王家元:

東海・愛知エリアのスタートアップの特徴として、まず大学発ベンチャーを筆頭とする「ディープテック系」と「小規模事業系」のスタートアップ二極化が進んでいる印象があります。

大学発ベンチャーについては、周囲からのサポートが比較的手厚く、注目度も高いです。そしてほとんどがディープテック分野のスタートアップで、「to B」ビジネスが多いです。この地域において、「to C」ビジネスのスタートアップは非常に少ない印象ですね。

「to C」ビジネスが少ない理由の一つに、人口が挙げられると思います。「to C」ビジネスの成否を考える上で人口の多さは重要な要素となりますが、この地域の人口は東京に比べると少ないです。また、トレンドの急速な変化にも対応していかなければならない上に、東京と比較すると「to C」系ITビジネスに対する理解度も高くないという現状があります。

一方、この地域は「モノづくりに対して堅実なエリア」と言ってよいのではないでしょうか。そして、この地域では「モノづくりに対して堅実な製造業の企業」を顧客としてビジネスを行うスタートアップが多いです。

この地域の製造業の企業は豊富な資本を持っている一方で、DX推進およびこれに伴う業務改善が遅れている傾向があり、そのニーズを満たすようなサービスを提供するスタートアップが活躍しています。

また、この地域には、行政をはじめ手厚い支援を提供する機関も多くあります。補助金や優遇政策など様々な支援が提供されており、スタートアップにとって、ある意味「生存しやすい環境」だと言えます。そのため、スタートアップの生存率が高く、事業を展開しやすい地域なのではないでしょうか。

もちろん個々のケースによって異なりますが、最終的な結果として、中小企業や中堅企業に成長するスタートアップがあっても良いという雰囲気があり、必ずしも急速な成長が求められないというのも、この地域の特徴ですね。

ワークライフバランスの充実度が高い地域

スタクラ:

海外出身の王さんの立場から、東海・愛知エリアのスタートアップで働く面白さや、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)は、どのように見えていますか?

王家元:

スタートアップに限りませんが、製造業系の企業さんが多いこともあって、この地域では定時退社する人が多い傾向もありますね。全国的に見ても、ワークライフバランスの充実度は非常に高いのではないでしょうか。

製造業の企業はその年度の生産計画が決められていて、それに沿って仕事を進めていくケースが多く、計画外の残業が発生しにくいという特徴があります。この地域の企業には「計画通りに仕事を進める」という考え方が浸透しているように思えますね。

名古屋市は、その他の地方都市と比べると街の観光業はそれほど栄えていないかもしれませんが、自家用車を持っている人が多く、休日は他県までレジャーに行く人も多い印象です。近くに空港もあるので、海外にも行きやすいですしね。利便性が良いことも、愛知県の特徴の一つと言えるのではないでしょうか。

ビジネスは時間をかけてじっくりと。人と人とのつながりは強い

スタクラ:

それでは反対に、県外の人が移住して東海・愛知エリアのスタートアップで働く場合に気をつけた方が良い点、ギャップに感じやすい点などがあれば教えてください。

王家元:

東京のスタートアップというと、おしゃれでスマートなイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、東海・愛知エリアはディープテック系のスタートアップが多く、実験機材と向き合って黙々と仕事を進めていくようなシチュエーションが多いため、どこか落ち着いている印象があります。研究開発の期間が長いので、人によっては刺激が少ないと感じることもあるかもしれません。

また、この地域のスタートアップの主な顧客は製造業の企業が多く、取引上の手続きがあったりして検討の期間が長くなりがちです。例えば、取引を進めるにあたってNDA(秘密保持契約)を月単位で締結することもあります。

じっくりとビジネスを進めていくケースも多いので、スタートアップのスピード感に慣れていない企業との取引では、進行のスピード感にもどかしさを感じる人もいるかもしれませんね。

また、人と人とのつながりが強い地域でもあります。既存企業の経営者同士の付き合いが長期間にわたって強固に築かれているため、最初はそのコミュニティに入っていけないとビジネスを進めていくのが難しいかもしれません。

スタクラ:

どんな人であれば、コミュニティに入っていけるのでしょうか?

王家元:

経営者の方々に、可愛がってもらえる人ではないでしょうか。例えば、明るく話しかけやすかったり、礼儀正しかったり、謙虚で素直だったりする人であれば、コミュニティに入っていくことは難しくないはずです。

この地域の経営者は後輩に対して愛情深い人が多いので、コミュニティに入ってしまえば、協業や取引をスムーズに進められたり、いざというときにサポートを得られたりするはずです。

弊社主催の「中部オープンイノベーションカレッジ勉強会」の様子。
2016年より、中部地域の事業会社向けに開催。

イノベーションし続ける東海地域を共に盛り上げていきたい

スタクラ:

最後に、東海・愛知エリアのスタートアップで働くことに迷っている人に向けてメッセージがあればお願いします。

王家元:

私は「お世話になっている東海地域に恩返しがしたい」という想いで現在の仕事に取り組んでいます。この地域では、経済発展に不可欠なヒト・モノ・カネのうち、ヒトの不足が特に目立っていると感じています。中部地域の第二成長期を共に担える仲間にぜひ来てほしいと考えております。

この地域で盛んな自動車産業は安定しているとはいえ、今後のトレンドがどのように推移していくかは不透明です。活気がありイノベーションし続けている中部地域をさらに発展させたいと、同じ志を持っている方がいらっしゃれば、ぜひお待ちしております。

海外出身の私が感じたことは、住んでみたらとても面白く、アットホームな地域だと思います。、まずは一度遊びに来てみてください。

スタクラ:

貴重なお話、ありがとうございました。

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スタクラ編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」スタクラの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

東海東京証券株式会社

東海東京証券株式会社
https://www.tokaitokyo.co.jp/

東海東京証券は、全国に64営業拠点を展開しています。このうち半数以上が集中する東海地域では、他社の追随を許さないプレゼンスを確立し、地域のお客さまとの間に強固な信頼関係を築いています。また、提携合弁証券の営業拠点等も加え、全国に広範なネットワークを確立しています。